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錬金術師アーノルドの自由気ままな毎日  作者: 建山 大丸
6章 料理大会と錬金術師の過去、である
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確証の無いものは受け入れがたいのである


 我輩の名はアーノルド。自由気ままに生きる錬金術師である。






 薬膳料理区画からアリッサ嬢のいる新素材料理区画へと向かい、予想通り出展を終えていたアリッサ嬢達と合流した我輩は、そのままリリー嬢の元へと向かい、残りの時間を楽しく過ごしたのである。


 その夜のことである。


 いつものように仕事が終わり帰ってきた領主が、今日は大会運営から興味深い報告があがったが、その報告だけではよく分からないことが多いので、会場にいた我輩達に何か知っている事は無いか聞いてほしいと言って、我輩達に話を始めるのである。

 

 そういう報告を我輩達にして良いのかという問題はさて置いて、一体何があったのであろうか。


 「昼前のことですが、会場内でゴロツキ達が言い争いから喧嘩に発展しかけていたそうなんです」

 「物騒なこともあるねぇ。まぁ、これだけ人がいればありえるよね」

 「こわいね、おじさん」

 「大丈夫である。アリッサ嬢もリリー嬢もいるので何も問題はないのである」

 「それは、男としてどうなのかしら? センセイ」

 「自慢ではないが、我輩を頼るならばデルク坊を頼った方が数百倍マシである」

 「皆、領主様が面白い話をしてくれるんだから、ちゃんと聞いてよ」


 珍しくデルク坊が我輩達を注意する側に回るのである。それほど領主の話が気になるのであろう。


 「あはは、ありがとうデルク君。でも、実際そういう揉め事は多くてね、大体は通報を受けた騎士隊や自警隊が仲裁に向かうんだよ」

 「騎士って大変なんだね」

 「デルク君達のような帝国民を守るために、一生懸命に働いてる人達なんだ。大変だけど皆頑張ってるんだよ」

 「へぇ! 皆を守るために働くって騎士ってカッコイイね!」

 「今度あったらそう言ってあげてね、すごく喜ぶから」

 「はい!」


 デルク坊の元気の良い返答に、領主も満足気である。やはり、領内の騎士隊が褒められるというのは気分が良いものなのであろう。


 「で、話からすると今回は違ったのかい?」

 「はい。騎士隊が通報を受けて現場に来たときは、涙と吐瀉物と咳で呼吸困難に陥り意識を失いかけたゴロツキがいたそうです」

 「酷い有様ね。何をされたらそんな状態になるのかしら?」

 「通報した者からの聴取によると、ゴロツキ二人は仲裁に入った男性と口論を始め、何やら激昂して襲い掛かろうとしたようですが、何やら煙に巻かれて倒れ込んだそうです」

 「なに? それ? その男性が何かをやったという事かしら?」


 リリー嬢が意味が分からないといった感じで領主に尋ねるのである。余りにも内容が曖昧で意味が分からないのであろう。

 我輩も意味がわからないのである。


 「その場にいた他の者にも聴取をしたそうですが、他には、何やら見えない壁があったかのようにゴロツキが動けないでいたなど、全員よくわからないことしか言わなかったそうです」

 「その男の人は魔法使いさんなの? でも、人間って魔法陣を使わないと魔法を使えないんでしょ?」

 「ん? サーシャちゃんは、まるで自分は人間じゃないような面白い言い方をするね」

 「アーノルド様から錬金術を習うときに、森の民についても勉強したからだと思いますよ」

 「ああ、なるほどね。勉強熱心なんだね、サーシャちゃんは」

 「ありがとうございます!」


 つい、いつもの癖を出してしまったサーシャ嬢の言葉に反応する領主へ、ミレイ女史がさりげなくフォローをするのである。

 

 「サーシャちゃんの言う通り、魔法と思われるのですが魔法陣を見たものがいないので、騎士隊は特殊な魔法石か触媒を使用したのではないかと結論付けています」

 「煙や見えない壁を出す特殊な魔法石……ねぇ」


 アリッサ嬢が、不審な表情を浮かべるのである。そんな物をこのような会場で悪用する者がいたら大変だからであろう。


 そして、これで終わりでは無いようで領主は話を続けるのである。


 「あと、薬膳料理区画で商業ギルドの前会長が食あたりで倒れるという事がありまして」

 「そんなことがあったのかい?」

 「はい。前会長は少々お年が進んでいまして、時折記憶が曖昧になる事があるようなのですが、丁度その時に薬膳料理を食べ進んでいたようで……」

 「あぁ、悪い組み合わせをしてしまったのね」


 リリー嬢の言葉に領主は大きく頷くのである。


 「そうなんですよ。しかも、幾つも組み合わせが重なってしまってしまったようで」

 「それは厄介ね。治療が困難になるじゃない」

 「そうなんですよ。そんな時に一人の薬師と思われる男性が、強力な解毒薬を分けてくれたそうで」

 「へぇ、凄い薬師もいるもんだね」

 「そうなのですよ。通報を受けた騎士隊が搬送をしようと現場に向かったところ、既に回復された状態の元会長達がおりまして、男性も名乗らず立ち去ってしまったので、礼がしたいから探してほしい、何かわからないかと薬瓶を渡されたのですよ」

 「まぁ、商業ギルドの元会長ともなればそうなるわよね」

 「該当する薬師がいないか一応調べたのですが、その時間は誰も通り掛かっていなかったのです」

 「じゃあ、大会にやって来た旅の薬師か何かかい?」

 「それが、薬瓶に残っていた薬を調べてみたところ、誰もなにもわからなかったのですよ」


 領主の言葉を聞いて、サーシャ嬢が不思議そうな顔をするのである。


 「どういうことなの? お薬の先生なのにお薬が分からなかったの?」

 「そうなんだ。魔法の薬らしいというのは分かったみたいなんだけれど、未知の技術らしくて他には何も分からなかったんだ」

 「未知の技術……ねぇ」


 そのような魔法の薬を簡単に渡すという事は、その者は相当な物好きか裕福な者なのであろうな。

 リリー嬢も同じようなことを思ったのか、訝しげな表情を浮かべるのである。

 しかし、未知の技術であるか。どのような薬であったのか見てみたかったのである。


 「去り際に、<民のために働くのが仕事だ>と言ったのと併せて、その者は薬師ではなく、旧来の矜持を持ち合わせた貴族ではないかと私は思っています」


 確かに、そのような高価そうな物を持ち歩ける者など、貴族くらいしかいないのである。

 もしかしたら、その価値に気付いていない可能性もあるのである。もったいない話である。


 「と、いう事があったのです」

 「へぇ。そんな不思議なことがあったんだ。全然知らなかったなぁ」

 「それは、私達はアリッサおねえちゃんのお手伝いをしてたからだよ」


 話を聞き終わったデルク坊は、明日どうやって謎の人物を探すのかをぶつぶつと呟きながら考えだすのである。どうやら領主の話はそれだけの興味を与えることが出来たようである。


 「皆様は噂でも何でもいいですが、そのような者の話を聞かなかったでしょうか?」


 領主からそう言われた我輩達が心当たりが無いことを告げると、ゴロツキを仲裁したの方はともかく、このような薬瓶を持っている者を見つけたら商業ギルドに報告をしなくてはいけないので、もし発見したら教えてくださいと言って、一枚の絵を置いて部屋を出て行くのであった。


 そうして、置かれた絵を見てアリッサ嬢とリリー嬢はため息をつき、サーシャ嬢は不思議そうにその絵を見るのである。


 「やっぱりそうだろうとは思ってけどねぇ」

 「私は話を聞いた瞬間にそうだと思ったわよ」

 「あれ? この薬瓶、私達が持ってるのみたいだね……」


 そこに書かれていた絵は、我輩達が持っている薬瓶に類似したものであったのである。


 「そうであるな。よく似た薬瓶であるな」

 「よく似た。じゃない! まんまうちらの使ってる物じゃないかい! とぼけんじゃないよ」

 「とぼけるも何も、そう思っただけである」

 「ところでセンセイは、会場で困っている人に出会わなかったのかしら?」

 「会ったのである。薬膳料理区画からアリッサ嬢のところへ行く途中で、老人が食あたりをして横になっていたので、持っていた解毒薬を渡したのである」


 我輩の言葉を聞き、デルク坊までもが呆れた顔をするのである。


 「じゃあ、おっちゃんで確定じゃんか。なーんだ。もう終わっちゃったよ」

 「いや、我輩とは違う……」

 「それは無いから。絶対無い」

 「未知の技術の薬なんて、錬金術で作った薬しかないじゃない」

 「いや、他にも……」

 「そんな都合よくポンポンと未知の技術が見つかってたまるもんかい! 領主が話していたのは、セ・ン・セ・イの事! 分かったかい!!」

 「……分かったのである」


 なんで、そんなに我輩に仕立て上げたいのかわからないのであるが、これ以上何かを言うとアリッサ嬢のみならずリリー嬢も機嫌が悪くなるのである。

 二人の機嫌を損ねるのは、我輩にとって非常に都合が悪いので、大人しくするのである。


 「と、なると、もう片方もほぼ確実にアーノルド様ですね」

 「なんでそうなるのであるか」

 「アーノルド様、障壁石と煙幕の魔法石を出していただけますか?」


 我輩は、ミレイ女史に言われるまま、持っている二つの魔法石を懐から取り出すのである。


 「なんで、中の魔力が減っているのですか?」

 「薬膳料理区画へ行く道を塞ぐ男達がいて皆困っていたので、排除したのである」

 「やっぱり……」

 「だろうねぇ……」

 「どうやったら領主の話が自分の事じゃないって思えるのかしら。頭の中を見てみたいわね」


 我輩の回答を聞き、ミレイ女史、アリッサ嬢、リリー嬢が呆れたような表情でこちらを見るのである。


 「そんなことを言われても、領主も会場で良くあることだと言っていたのである」

 「解決の方法がおかしいから、珍しいっていう言葉は聞こえてないのかしらね」

 「昔から、都合の良いことは全部聞いていないんだよね。その錬金術馬鹿頭は」

 「アリッサ嬢、その言い方は悪意があるように聞こえるのである」

 「あるように言ってるのさ。全く……」


 アリッサ嬢はぶつぶつと独り言を始めてしてしまったのである。なので、とりあえず放置するのである。


 「ねぇ、リリーおねえちゃん。おじさんは悪いことしてないのに、なんで皆に怒られてるの?」

 「さっきのお話と領主様がしたお話を思い出してみて? サーシャちゃんもセンセイがやったって思わない?」


 リリー嬢に言われて、サーシャ嬢はしばらく考えてから大きく頷くのである。


 「うん。あの瓶だって、私たちの使ってる瓶と一緒だし、おじさんも人を助けて喧嘩してる人を止めてたし。そう思う」

 「センセイはね、皆が理由が揃っているからそう言っているのに、他の人がやった事だって言って全然認めないから怒られてるのよ」

 「リリー嬢、本当に別人の可能性……」


 我輩は、そういいかけて言葉を止めるのである。リリー嬢の目が恐ろしく冷たかったからである。

 身の危険を感じて、大人しくするのである。


 「ね?」

 「うん。本当だ。なんで、おじさんはそう思うのかなぁ」

 「ひねくれ者の子供みたいな人だからよ」


 リリー嬢の回答を聞いたサーシャ嬢は、納得の表情を浮かべるのである。


 「素直じゃないんだね。恥ずかしがり屋なのかな?」

 「きっとそうね。だから、サーシャちゃんからも今度同じようなことをセンセイがしたらいっぱい叱ってあげてね」

 「リリー嬢……」

 「文句あるかしら?」

 「……無いのである」


 これ以上は逆らえないのである。納得は全くできないのであるが、とりあえずここは折れておくのである。

 なんで自分の事か他人のことか分からないことで、こんな目に合わないといけないのであろうか。


 そんなことを思っているのがばれているのか、このあとも我輩は延々とアリッサ嬢とリリー嬢から説教を受けることになるのであった。






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