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錬金術師アーノルドの自由気ままな毎日  作者: 建山 大丸
6章 料理大会と錬金術師の過去、である
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久しぶりの一人である


 我輩の名はアーノルド。自由気ままに生きる錬金術師である。






 大会5日目である。


 アリッサ嬢の出展にサーシャ嬢とデルク坊、リリー嬢の出展にミレイ女史が手伝いに行ってしまったため、我輩は久しぶりに一人で過ごす事になったのである。

 つい1年程前は一人で辺境の集落で腐っていたというのに、森の家にいるようになってからというもの、必ず誰かと共にいることが当たり前になってしまったのである。


 研究所時代でも、度々一人で研究することがあったために、一年という期間誰かが必ずいるというのは無かったのである。


 そんな訳なので、今日は久しぶりに一人で研究でもしてみようかとも思ったのであるが、どうにも集中できないのである。


 「うむぅ……共同研究の弊害であろうか?」


 とりあえず約一年ぶりの完全な一人きりの時間を、こんな集中しきれない研究で終わらせてしまうのは勿体ないと思った我輩は、せっかくなので大会会場を一人で回ることにしたのである。


 大会も残り少しであるが、最終日に特別出展という目玉が残っているために、来場者の数は減るどころか増えているようである。確かに、領主が三日目の夜に言ったとおりである。


 我輩は、会場の地図が描かれている看板を見ながらどこを見て回ろうか考えていると、何やら周りが騒がしくなって来たのである。

 何事かと思い声のする方を見ると、いかつい男が二人何やら大声で怒鳴りあっているようである。


 「てめぇ! 俺にぶつかっておいて無視するたぁ良い度胸じゃねぇか!」

 「あぁん? いちゃもんつけんのかテメェ!」


 こういう手合いは無視するのに限るのであるが、運が悪いことに我輩が行きたいと思っている区画に通じる道で喧嘩をしているようである。

 他の通路を通ってそこにいくこともできるのであるが、かなり遠回りになるのである。

 その場で成り行きを見守っているもの達の中にも我輩同様に区画へ向かおうとしているものもいるようで、どうにかしたいが怖くて手出しができないといった様子である。


 こういう揉め事は、ダンやドランがいればすぐさま解決されるのであるが、二人は現在、辺境で我輩とアリッサ嬢の食材の確保に奔走中である。

 仕方がないので、この通行の邪魔をしている愚か者を排除して区画に進むことにするのである。


 「二人とも、ここは料理大会の区画へと向かう通路の入口である。こんな場所で大声で威嚇しあっていると怖がって誰も通れなくなるので、さっさ喧嘩をやめるて立ち去るか、町外れにでも移動して思う存分喧嘩をするのである」

 「あんだオッサン?」

 「そんなのテメェの勝手だどうが! こっちは面子がかかってんだよ!」

 「そんなことこそ、貴様の自己満足の勝手である。ここは貴様の私有地ではないのである。共有地であることを知らないのであるか?」

 「んだとぉ?」

 「言われてやがるぜ、くははっ」

 「貴様も、いちゃもん付けられた時点で相手をせずにいれば良いものを、わざわざ相手にしている時点で同類であろうが」

 「オッサン、いい気になんじゃねぇぞ!」

 「枝みたいな体してるから、手加減でもされると思ったら大間違いだぞ!」


 そう言って、顔を真っ赤にした男達が我輩に向かって来ようとするのであるが、壁にでもあるかのようにその場から動けないのである。

 当然、我輩も普通に排除に向かえば返り討ちに遭うのはわかっているのである。

 連中と会話をしている間に、持っていた障壁石を発動させて二人の周りを囲っているのである。

 あれからいろいろやったのであるが、障壁石で発動される障壁は、効果範囲内であれば変形させられることが分かったのである。ただし、制御がなかなか難しいので余り使うことはないのである。


 「何がどうなってやがるんだ!」

 「見えない壁でもあるのか!? てめぇ、魔法使いか!」

 「魔法使いではないのである。何者か教える必要はないのである」


 我輩はそういうと、手に持っていたもう一つの魔法石に内包されている魔法を発動させるのである。

 すると、障壁内で白い煙りが上がるのである。


 「なんだこry………目が! 目がぁぁぁ!!」

 「ゲゴォッ! オゴォッ!」


 煙りが目に入ったらしい男は涙を流して倒れ込み、思い切り吸い込んだ男は咳込んで倒れる込むのである。


 「人に迷惑をかけた報いである。しばらくそこで反省すると良いのである」


 発動させた魔法は、以前使用した煙玉の構成魔力である。ただし、威力はかなり薄めである。護身用に持つという話をダンにした時に、<あのままだと凶悪過ぎてヤバすぎるから、頼むから威力を下げてくれ>と真剣な表情で頼まれたのである。


 なので、効果は以前の半分ほど、発動時間も十秒程度という廉価版を作成したのである。

 人前で使うのは初めてであるが、障壁石と併せたり、室内であれば無力化できそうな事がわかり、若干満足したのである。


 「これで通れるようになったのである」

 「あ……あのぉ……」


 これで安心して通れると思い、区画へと進もうとした我輩に、その場にいた民達から声をかけられるのである。

 あぁ、大切なことを忘れていたのである。


 「煙が収まったら問題はないので、騎士隊がやって来たら引き渡すと良いのである」


 我輩は騒動を見ていた民にそう言うと、今日大会を通じて初めて行くことになる料理の区画へと向かうのであった。






 我輩は、予想以上の収穫を得ることができ、大満足な気分で目的地の区画を後にするのである。


 先程までいたのは薬膳料理部門の区画である。“医療は食から“という観点から、健康に良いと言われる薬草や食材を使用した料理を出している区画である。


 やはり、健康に対して意識が高まる老人が多かったのであるが、それに混じり、貴族と思われる民とは立ち振る舞いが少々異なる者達がそれなりに見受けられたのが興味深かったのである。

 生活に余裕が出ると、健康等に興味を持つようになるのであろうなと我輩は推察するのである。


 薬草は基本的にえぐみが強かったり、苦かったりと食用に向いていないのであるが、それを食用に耐えうるものにしようと試みるのが、どことなく錬金術に通じるものを感じて刺激を受けたのである。

 また、エヴァ殿が書き記した素材図鑑にも無かったような食材や素材を使用した薬膳料理もあったので、それらも機会があったら調達して効果を調べてみたいと思ったのである。


 「思ったよりも楽しい区画であった。明日辺りサーシャ嬢を連れていきたいものであるが、そうするとデルク坊がつまらなくなってしまうのであるな」


 おそらく興味を惹かれないであろうデルク坊を誘い出すのに、どうすれば一番効果が高いであろうかと考えていると、進む先に人が横になっているのが見えるのである。

 見れば倒れている者は老人のようで、孫娘であろう少女が通行人助けを求めようとしているが、通行人は一瞥するとそのまま過ぎ去ってしまうのである。

 身なりがそれなりにしっかりしているので、下手に関わるよりも通報して騎士隊に任せようということなのであろうか。

 しかし、悠長なことを言っていられない場合もあるのである。


 と、いうことで我輩は老人達の元へと向かうのである。


 「どうしたのであるか?」

 「おじいちゃん、健康に良いからってどんどん色んな薬膳料理を沢山食べちゃって、満足したから帰ろうって歩いていたら急に具合が悪くなっちゃったみたいで……」

 「薬膳料理であるか……。何を食べたか覚えているのであるか?」


 我輩が尋ねると、少女は覚えているかぎりの出展を言っていくのである。


 薬膳料理は薬効のある食材を使用するのであるが、組み合わせによっては逆に毒と化してしまうものもあるのである。

 当日の出展者達は、この区画の他の出展者達と情報を共有し、そういう反応がないように出展物を提供する際に食べてはいけない出展物を教えるのであるが、おそらくこの老人はそれを無視したのか、聞いていなかったのであろう。


 やはり、少女の報告を聞くと中毒症状を起こす組み合わせの料理を幾つか食してしまったようである。

 一つくらいであれば多少具合が悪いくらいで済むのであろうが、幾つか中毒が重なってしまっているのである。このまま騎士隊によって医療所に連れていかれると、区画の評価がかなり悪くなってしまう可能性があるのである。

 もしかしたら、説明義務を怠ったとして明日の出展や明後日の特別出展が中止になる恐れもあるのである。

 それは明日も食べに来ようとしている我輩にとっては困るので、早めに治療したいところである。


 「うむ、おそらく食の組み合わせが悪かったのであろう。これを飲ませるのである」


 そう言って我輩は、少女に持っていた解毒薬を渡すのである。


 「これはなんですか?」

 「食あたりや食べ過ぎに効く薬である。我輩の知り合いに大食漢がいるのでこの大会期間中は常備しているのである」


 効果としては当たらずとも遠からずであるが、馬鹿正直に言って面倒事になるのは嫌なので、今回は嘘は方便という言葉に甘えることにするのである。


 「これを飲ませれば、おじいちゃんは治るんですか?」

 「治るのであるが、ちゃんと祖父殿に出展者の話を聞くことと、薬膳料理でも食べ過ぎは毒である事を言い聞かせるのである。話を聞きそうにないのであるなら、少女がしっかりと止めるのである」


 問題の根本はそこなので、そこをしっかりしてもらわないと同じ事が繰り返されるだけである。


 「は、はい。わかりました。ありがとうございます。こんな高価そうなものを……」

 「別に気にすることはないのである。民の為に働くのが我輩の仕事なのである。では、これで我輩は失礼するのである。そうそう、その瓶は好きに使ってもらって構わないのである」


 そう言って我輩は立ち上がるのである。そろそろアリッサ嬢の出展が終わるはずなのである。合流してリリー嬢の方に向かうのである。


 「え? あ! お名前を!」

 「名乗るほどの者ではないのである。では、楽しい大会を過ごすのである」


 我輩は、そのまま二人を置き去りにしてアリッサ嬢達のいる区画へと向かうのであった。






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