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錬金術師アーノルドの自由気ままな毎日  作者: 建山 大丸
6章 料理大会と錬金術師の過去、である
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出展とその結果である


 我輩の名はアーノルド。自由気ままに生きる錬金術師である。






 大会三日目である。


 太陽も昇り、暖かくなったこの時間。目の前の通路は、料理大会の会場を行き来する人でごった返しているのである。


 「おじさん、人が多いのに止まってくれないね」

 「まぁ、みんな両隣の部門に行きたいからここを通っているだけなので仕方ないのである」


 我輩達がいる魚料理部門は、大人気である肉料理部門と安定した人気がある野菜料理部門に挟まれた形になっているのであるが、立ち止まるものは疎らである。

 一応列も出来ている出展もあるのであるが、何年も出展している馴染みの者か、招待枠で出展している者の場所くらいである。


 「まぁ、他の出展のように宣伝をしたり、絵や説明文などの看板で何の料理を出しているのか知ってもらうということを一切していないので、興味を持ってもらえないというのもあるのである」

 「そういえば、他のところは女の人が声を出したり、絵や文字があるね。おじさんはやらないの?」

 「昨日のドランが、特にそういう努力をしていなくても人を集めていたので、別に良いかと思ったのである」

 「でも、人気の場所だからだよね? あと、ドランお兄ちゃん声おっきいし」

 「デルク坊も元気一杯であったな」

 「呼んだ? お客さん?」


 その声に反応して、奥で横になっていたデルク坊が起きるのである。


 「昨日の話である」

 「そっかぁ。忙しくなったら教えてね……ふぁぁ……」

 「わかったのである」


 そういうと、デルク坊はまた横になったのである。さすがに昨日の疲れが残っている様である。


 「昨日はお兄ちゃん達凄かったもんね」

 「そうであるな。まるで戦場のようだったのである」


 昨日の大会二日目は、ドランの肉料理部門とリリー嬢の菓子料理部門が出展し、双方かなりの反響があったようである。


 リリー嬢の方は招待枠という事もあり事前の通達や、会場地図にも紹介されているのと、“元特Aクラス探検家“という肩書を利用したことで、帝国随一の英雄を人目みたいという者達がかなり集まったらしいのである。

 うまくやったものだと思うのである。


 ドランは、余り良い場所での出展ではなく、宣伝や看板なども使用はしていなかったので最初は苦戦したようである。

 だが、途中から肉を焼く際に大森林で採れる黒い実を使用したことで、その実から発せられる香りで道行くものの胃袋を刺激したようである。

 一人二人と立ち止まると、そこからはあれよあれよと人が集まりだして一躍大人気出展になったようである。


 「その点で言えば、手鍋に構成魔力の状態にしてしまっていることで、視覚にも嗅覚にも、さらに言えば聴覚にも訴えることができないというのは盲点であったな」

 「一つお料理作って、前に出しておく?」

 「それも考えたのであるが、生の料理になるのですぐに悪くなったり、埃なども被ってしまい見た目も悪くなるのである」

 「おじさん、お料理まちがえちゃった?」

 「一番慣れている物を出そうと思ったのであるが、選択は間違えたかも知れないのであるな」


 本日の出展が終わるまではまだまだ時間はあるのであるが、このままだと一つも出せないまま終わりそうである。それだと、素材となる魚を集めてくれた集落の者に申し訳がないのである。

 何か良い方法はないかと考えていたその時である。


 「お? 何か一カ所やってるかやってないかわかんねぇ場所があるな」

 「そうですね、こういうところは隠れた逸品があるらしいですよ」

 「まじか? じゃあ試してみるか。おーい、ここやってるかい?」


 何やら大袈裟に声を上げて一組の男達がこちらにやってくるのである。


 「なんでそんな大仰な演技をして……」

 「お兄さん達こんにちわ! やってますよ!」

 「……! お兄さん達、お料理食べますか?」


 目の前にいる男達、ダンとハーヴィーに演技の理由を尋ねようとしたのであるが、それを遮るように先程まで休んでいたデルク坊が急に立ち上がり、他人行儀のように二人に話しかけるのである。すると、何かに気づいたサーシャ嬢もデルク坊に合わせて接客を始めるのである。

 一体急に何が始まったのであろうか。


 「おぉ? 嬢ちゃん可愛いな。じゃあ一つ貰おうか」

 「隊長、そういうことを簡単に言うから、皆にからかわれるんじゃないんですか?」

 「おいおい、これくらい挨拶だろうが」

 「えへへ、ありがとうございます。おじさん、お料理を二つおねがいします!」


 ダン達から注文を貰うと、サーシャ嬢は我輩に料理を出すように指示するのである。

 まぁ、理由はともかく料理を出せるのであれば出すのである。我輩は早速手鍋の中の構成魔力を具現化させるのである。


 「どうぞ、お魚の切り身とお野菜のサラダです!」

 「へえ、なかなか綺麗に盛りつけられてて美味しそうですね」

 「お兄さん、ありがとうございます!」


 器に綺麗に並べられた生魚の薄切りの上に、こちらで採れる酸味のある果実のような野菜や葉物の野菜などを乗せたサラダが二人の前に出されるのである。


 「でもよ嬢ちゃん。生の魚なんか食べられるのか?」

 「特別なお料理の仕方をしているので、食べられます! 私たちだけしかできないお料理の仕方なんです!」

 「へぇ、秘伝の料理ってことか。ますます興味が湧いてきたな」

 「そのままでも美味しいけど、このソースをかけるともっと美味しいです!」

 「これでのことかな? どれくらいかけると丁度良いのかな?」

 「うーん、私はこれくらいが好きです。少なかったらもっとかけてください!」

 「俺は、少ししょっぱい方が好きだから、もうちょっと多くするよ!」

 

 ハーヴィーはサーシャ嬢の、ダンはデルク坊の言った量のソースをサラダにかけるのである。


 「へぇ、なかなか良い香りがするな」

 「辺境の香りの良い黒い実を取り寄せたんだぜ!」

 「肉のところの奴か! こういう料理にも使えるのか、すげぇな」

 「肉のところの黒い実だって!? おい、行ってみようぜ」


 ダンの大袈裟なその言葉が聞こえたようで、昨日ドランの肉料理を食べたのであろう数人の通行人がこちらに興味を持ったようでこちらにやってくるのである。

 ドラン以外に黒い実を使った料理を提供しているところはないので、物珍しいのであろう。


 「へぇ、本当だ。同じ黒い実だ。」

 「生の魚らしいぜ。大丈夫なのか?」

 「なにか、秘伝の調理法らしいぞ」


 ダン達の料理を囲んで眺めながら、少しずつ人が集まりだしたのである。

 そのうち一人が、中にいるデルク坊に気づいたのである。


 「おや? 坊主は昨日肉のあんちゃんのところにいた坊主じゃねえか」

 「今日はこっちの手伝いなんだ! 辺境でもめったに食べられない生魚の料理なんだよ」

 「坊主のところは珍しいもん作ってんなぁ。昨日の肉も美味かったしな。……よし、物は試しだ、一つ貰おうか」

 「ありがとう! おっちゃん、料理一つ頂戴!」

 「わかったのである」


 こうして少しずつではあるが、我輩のところにも少しずつ人がやってくるようになったのであった。






 「本当はよ、食った味まで宣伝しようと思ったんだけどな」

 「まさか、ドランさんが使っていた黒い実に反応するとは思わなかったですね」

 「いきなり演技をしだしたので何事かと思ったのである」

 「昨日、俺達が通ったときに人が全然止まってなかったら、演技をするから付き合えって言われてたんだよ」

 「私はアリッサおねえちゃんに、そういう宣伝をしてる人もいるって聞いてたからきっとそうなんだって思ったの」

 

 出展も無事に終了することが出来た我輩達は、現在領主の屋敷で夕飯を摂っているところである。


 あれから、しばらくしてリリー嬢やドランもやって来たことで、さらなる注目を集めた我輩達は、一時的に魚料理部門でもっとも人を集めることになったのである。

 しかし、もともと人が沢山集まる前提で食材を揃えていた訳でなかったので、大会の時間が終了するよりも大分早い時間に出展を終了することになってしまったのである。

 それでも、試食をしてくれた者達からは総じて好評であったので良かったのである。


 「あたしのところは“最近噂の辺境産新食材を使った料理“って紹介があったから、最初から最後まで人が列を作ってて大変だったよ」

 「<過去最高に新素材料理部門が盛り上がって良かったです>って、さっき領主様から感激されていましたね」

 「まぁ、盛り上がったなら良かったけどね。こっちはへとへとだよ」

 「それだけ大森林や辺境産の新食材が、注目されていると言うことなのでしょうね」

 「リーダーに、朝一で辺境まで素材の確保に向かってもらわないとだね」

 「しょうがねぇなぁ」

 「そういえば、センセイの出展も大好評だったから最終日の特別出展が出来るみたいじゃない。どうするの?」

 「そうなのであるか? どこでそんなことが分かるのであるか?」

 「なんで知らないのよ。私は、領主様に会ったときにそう話を聞いたわ」

 「区画責任者から出展要請が来るんですぜ。俺もそうやって特別出展が決まったんですわ」


 大会最終日は、招待枠の出展者と各区画の責任者がもう一回出展してほしいと思った一般出展者を集めて開催される特別出展日である。素材や日程などに余裕があれば参加することができるのである。

 ドランも昨日区画責任者から要請を受けて、出展を決めたようである。


 どうやら、我輩の出展も同様に区画責任者に高評価をもらったようで、その枠をもらえたようである。だが、我輩はそんな話は聞いていないのである。


 「責任者が出展要請をしようと思ったら、既に引き上げてしまった後だったようですよ」


 食堂に、仕事から帰ってきた領主がやって来て話に加わるのである。

 困った区画責任者が、領主に話を通してもらうように頼んだらしいのである。


 「と、言うわけですが。どうされますか?」


 領主に尋ねられた我輩は、ダンの方を見るのである。


 「頼めるのであるか?」

 「やりてぇんだろ? 分かったよ。アリッサのと合わせて取れるだけ取ってきてやるから」

 「僕も手伝いますよ、隊長」

 「どうせなら俺も手伝いますぜ」

 「悪いな。どうせなら、集落の空いてる探検家連中も駆り出すかな」

 「ちゃんと報酬渡すんだよ」

 「分かってるよ!」


 ダンも協力してくれるようである。それならば何とかなると思うのである。

 我輩は領主に、特別出展を受けることを返答するのであった。





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