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錬金術師アーノルドの自由気ままな毎日  作者: 建山 大丸
6章 料理大会と錬金術師の過去、である
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料理大会に参加するのである


 我輩の名はアーノルド。自由気ままに生きる錬金術師である。






 「ついにこの日がやって来たーーーーーーーー!!!!」

 「お兄ちゃん、声が大きいよ」

 「まぁ、デルクにとっては待ちに待ったイベントだからね」 


 全身で喜びを表現するデルク坊を、恥ずかしそうに制止するサーシャ嬢である。

 だが、我輩達が受付を済ませた後からデルク坊が毎日そわそわしているのを見ているので、パットンの言うように大声をあげて喜びを表現する気持ちも分かるのである。


 「今日はどの辺りを攻めようか……」

 「大会期間は1週間ありますから、全部見て回れるのでは?」

 「招待部門の連中は、会場案内で事前に日程と場所は知ることができるけど、一般部門の連中は全くわかんねぇんだよ。隠れた逸品を探すには、狙いを付けなきゃいけねぇんだよ」

 「わからないなら、余計に狙いを付ける意味ってあるんですか? あ、こことかどうです?」

 「肉料理か……ドラン、お前今日でるのか?」

 「俺は明日ですわ」

 「じゃあ、肉料理は明日だな」

 「結局安定を求めちゃってるじゃ無いですか……」


 容態が良くなったダンが、歩きながら会場地図を見てぶつぶつ言っているのを、ハーヴィーが横から口を挟んでいるのである。


 大会といっても優劣を決める審査などがあるという訳ではなく、受付をした者達が期間中の特定の時間に出展することができる展覧会のようなものである。

 一応、受付の際に出す料理のサンプルを提出して簡単な審査を受け、余りに酷い料理はそこで弾かれることになるのであるが、できる限り沢山の人に料理を楽しんでもらえるようという配慮のため、一般枠の出展者は期間中に一日のみの参加が基本とされているようである。

 ちなみにアリッサ嬢は領主の、リリー嬢は領主夫人の推薦での出展なので、期間中に希望しただけ出展できるのである。


 この東方都市の商業区画と公園や広場などの公共区画を使って行われる料理大会であるが、部門ごとに場所が別れているのである。

 人気の部門は与えられている範囲も広く、競争も激しいのである。


 ドランの肉料理部門や、リリー嬢の菓子料理部門は1・2を争う人気部門でところ狭しと出展が並ぶことになっているのである。


 対して、アリッサ嬢は新素材料理部門、我輩は魚料理部門という余り人気が無い部門での出展である。


 新素材は当たり外れが大きすぎるので一般受けがあまり良くなく、魚料理はそもそも海の近く以外では余り定着されていない料理だからである。


 どちらも与えられている場所の範囲は広くないのであるが、休憩所の近くであったり、人気部門に挟まれている場所にあったりしているので、大当りの可能性もあるのである。


 「アリッサが新素材料理ってのは、まぁ当然だとして……」

 「アーノルド様が、魚料理で大会に臨まれるとは思いませんでした」

 「そうであるか? 我輩が一番錬金料理をしているのは魚料理である」

 「……そういえば、確かにそうだねぇ」


 我輩の言葉にアリッサ嬢が同意の頷きを返すのである。

 というのも辺境の家にいた時、捕りすぎて余ってしまった魚を減らすためと、錬金料理の練習のために魚料理を作っていたため、一番我輩にとって作りやすい物になってしまったという経緯があるのである。


 「てっきりお菓子で出展するのだとばかり思っていたわ」

 「それも考えたのであるが、どうせやるなら慣れているものでやった方がいいと思ったのである」

 「まぁ、それならそれが妥当ね。同じ場所で出展できると思ったのに少し残念だわ」


 少しばかり我輩に残念そうな顔を向けて、リリー嬢はアリッサ嬢の元へと行くのである。

 同じ会場内で出店するのであるから、大して変わらないと思うのであるが、何かリリー嬢的に違いがあるのであろうか。

 まぁ、今更そんなことを気にしても仕方がないのである。


 そんな感じで和気藹々と会場へと向かって行くのであるが、我輩達と同様に会場に向かう人が続々と増えて来ることで、デルク坊やサーシャ嬢は否が応にも大会に対する期待が膨れ上がって来るのである。


 「どんどん人が増えてきたね」

 「これ、全員大会に参加する人なのかなぁ」

 「出展するしないはわからないのであるが、我輩達のように大会を楽しみにしている者達という事は確かであるな」

 「すっげぇなぁ……」

 「デルっち、サーちゃん、逸れないようにあたし達の誰かと手をつないでいくんだよ」

 「うん、分かった」


 そう言うと、デルク坊はドランと、サーシャ嬢は我輩と手をつなぐのである。


 「あら、どちらも仲の良い親子に見えるわね」

 「うーん……ま、いっかぁ。えへへ」


 リリー嬢の言葉に少々複雑そうであるが満更でもなさそうな表情をサーシャ嬢は浮かべるのである。


 実年齢でいえば我輩の方が子供であるが、まぁ、実際サーシャ嬢は子供であるので今更である。

 今更であるが、そう思うと不思議な気持ちになるので、つい思ってしまうのである。


 「褒められているのであろうが、複雑であるな」

 「良く似合ってるってことだから良いじゃねぇか」


 我輩同様に困り顔なのはドランである。


 「俺はまだ、22なんですがねぇ」

 「全くそう見えないから問題ないですよ、ドランさん」

 「なんのフォローにもなってないぞ、ハーヴィー」

 「そりゃそうですよ。してないんですから」

 「はっはっは! あとで覚えておけよ」


 ハーヴィーも遂に、ダン達の醸し出す空気に馴染みきってしまったのである。

 と、言うことは、残る常識人はミレイ女史と我輩だけになってしまったのである。きちんとしないとである。


 「さぁ、そろそろ会場の端だね」

 「どんな料理があるんだろう、楽しみだなぁ」

 「良いかぁ、デルク。絶対一人でうろちょろするなよぉ?」

 「しないよ、それよりもドラン兄ちゃんこそ、俺を置いてどっか行かないでよ?」

 「はっはっは! こうすりゃあ絶対大丈夫だろう?」

 「うわぁ! 危ないよ……うっわぁ。遠くまで見える!」


 そう言ってドランはデルク坊を肩に乗せるのである。急な出来事で驚いたデルク坊であるが、人が多くなって視界が悪くなって来たところで、一気に視界が開けたことと肩に乗せられるという行為にとても満足そうな表情を見せるのである。


 「良いなぁ……」


 その様子を見ていたサーシャ嬢は羨ましそうな声を上げるのである。

 慣れないことではあるが、いつも我輩を助けてくれるサーシャ嬢である。きっと、これが感謝の返礼になるはずである。


 「ちょっと待つのである」

 「おじさん、どうした……きゃあっ!」

 「おいおい、大丈夫か?」

 「大丈夫である、サーシャ嬢は軽いのである」

 「慣れないことしてるから、若干足震えてるぞ」

 「どうであるか? サーシャ嬢」

 「……ぐらぐらしてちょっと怖いよ」


 我輩は、羨ましそうにしていたサーシャ嬢に肩車をすることにしたのであるが、逆効果になってしまったようである。やはり、慣れないことをするものではないのである。

 サーシャ嬢を降ろすと、唐突な行動と怖がらせてしまったことを謝るのである。


 「ううん、いきなりでびっくりしちゃったけど、嬉しかったよ」

 「デルク坊を羨ましそうに見ていたので、我輩もやってみようと思ったのであるが、慣れないことはするものではないのであるな」

 「そんなことないよ、ありがとう。でもね、私はおじさんに肩車されるよりも手をつないで一緒に見て歩きたいな」

 「そうであるか」

 「うん!」


 そんな我輩達の様子を、邪な目で見る者達が3人いるのである。


 「本当に、センセイはサーシャちゃんが絡むと人が変わるわね」

 「森の民への愛が大きすぎるんじゃないかね」

 「サーシャに求愛されたら応じるんじゃねぇの?」

 「え? それは困るよ。あたし達の責任者が少女趣味とか」

 「少女というより幼女だぜ、まだ」

 「変態ね」


 我輩にもサーシャ嬢にも失礼なことをポンポンと言っているのである。

 ここは一つガツンと言ってやらないといけないのである。


 「いい加減にするのである。我輩にもサーシャ嬢にも失礼なのである」

 「そうは言ってもね、私たちがいくら言っても気を遣ったりしなかったのに、サーシャちゃんにはそうやって気を回すのを見ると、そう愚痴を言いたくなるじゃない」

 「サーシャ嬢はまだ子供である。大人より気を使うのは当然であろう」

 「その割にはデルっちには、余り気を遣ってないと思うよ」

 「デルク坊は、アリッサ嬢やダンやドランが付いているのである」

 「サーシャやフィーネみたいな幼女ばっかり面倒見てるからそういう疑惑を持たれるんだろうが」

 「それを言ったらダンの方が……」

 「ストップ! わかった、俺が悪かった。センセイは普通だ。うん。至って普通だ」

 「どういうこと?」


 急なダンの変わり身に、訝しげな表情を浮かべるリリー嬢に、素早くアリッサ嬢が以前あった出来事を話すのである。


 「……リーダー、センセイのことをとやかく言えないじゃない」

 「だから、俺はそういうことじゃなくて」

 「変態ね」

 「だーかーらー!!」


 リリー嬢の菓子の洗礼を受け、要らぬ容疑をかけられ弄られたりと踏んだり蹴ったりであるが、普段から我輩にしつこく絡んで来るので良い薬になるはずである。少しは反省してもらいたい物である。


 「止めなくて良いの? ダンおじさん大変そうだよ?」

 「良いのである。たまには我輩の気分を味わってもらうのである」

 「ねぇ、おじさん」

 「なんであるか?」

 「昨日も聞いたけど、少女趣味って……」

 「もう少し大人になったらそのうちに分かるのである。今は知らなくて良いのである」

 「ふーん。そっかぁ」

 「人だかりが一層多くなったのである。あそこから会場であるな」

 「そうなの? 楽しみだなぁ」


 さぁ、これから料理大会の始まりである。どんな料理と出会えるか胸に期待を抱きながら、我輩はサーシャ嬢とともに会場に集まる人波の中に入っていくのであった。






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