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錬金術師アーノルドの自由気ままな毎日  作者: 建山 大丸
6章 料理大会と錬金術師の過去、である
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贈り物と言うのは奥が深いのである


 我輩の名はアーノルド。自由気ままに生きる錬金術師である。






 応接間の惨劇から一夜明け、我輩達は都市中心部にある一つの建物に向かうのである。

 そこは、東方都市行政館という東方地帯の行政機関を集約させた施設である。

 普段も、様々な相談や手続きなどで多くの人が往来しているのを散策で見かけるのであるが、我輩達もその場所に用があるのでその人の流れに混ざっているところである。


 「凄い人の数だね、おじさん」

 「この列にいる者の大半は、料理大会の受付らしいのである」

 「こんなに沢山の人が作った料理が食べれるってこと? すっげぇ!」

 「違うわよ、デルク君。受付した人全員が料理を出すという訳じゃないのよ。料理の手伝いをする人や付き添いで来ている人もこの中にいるのよ」


 期待に目を輝かせているデルク坊に、リリー嬢は苦笑しながら答えるのである。


 「あ、そっか。俺やサーシャみたいなのもいるのか」

 「そうだよ。そうじゃなかったら私たちも料理を出さなきゃいけないよ」

 「僕もそれは勘弁してほしいね」

 「ふふっそうですね」


 受付の列にはダン以外の全員が並んでいるのである。ダンは昨日の状態から未だ抜け出せていないので、屋敷の部屋に放置している状態である。相部屋になっているドランの話では、時折何かを懇願するような様子を見せていたようである。

 まあ、死んでいなければ良いのである。


 「しかし、ドランは分かるんだけどさ、まさかセンセイまで参加するつもりだとは思わなかったよ」

 「センセイは、いつの間に料理ができるようになったのかしら?」

 「リリー嬢、我輩は料理は未だにできないのである」

 「じゃあ、なんで……。まさか?」


 何か思い当たる節があったリリー嬢は、顔をしかめるのである。まぁ、研究所当時のことを思えば理解できる気はするのである


 「錬金料理で参加するのである」

 「やっぱり……。センセイ、好奇心があるのは良いことだけれど、あれを出すのはやめた方がいいわよ」


 当然、研究所時代に錬金料理を口にしたことのあるリリー嬢は、我輩の行動を暴挙と捉えて止めにかかるのである。だが、手引き書を見てきちんとした作り方を知った錬金料理はあの頃とは違うのである。


 我輩は、腰に提げていた袋から丸い小さな食べ物を幾つか取り出して、そのうちの一つをリリー嬢に渡すのである。


 「これは何?」

 「食べてみるのである」

 「色は綺麗だけれど…………本当に食べられるのかしら?」


 リリー嬢は、我輩から手渡された鮮やかな赤色が映える球状の物体をまじまじと眺めるのである。

 その様子からは、はっきりと警戒の色が見えているのである。


 まあ、以前我輩が作った錬金料理の被害にあった以上、警戒するのもわかるのである。

 我輩も、同じ理由でリリー嬢の作る菓子を警戒しているので、その気持ちは良くわかるのである。

 なので、リリー嬢を安心させるために、手に持っている一つは我輩が食べ、デルク坊とサーシャ嬢にも食べてもらうのである。


 「おじさん、私これ好き。甘くてコロコロして」

 「俺、いつも途中でかじっちゃうんだよなぁ」

 「まぁ、各々の楽しみ方があるのである」


 二人は、我輩からもらった食べ物を口の中で遊ばせながら美味しそうな表情を見せるのである。

 我輩も口に入れた食べ物をころころと転がしながら、少しずつ唾液によって食べ物から溶け出てくる果実の甘さを楽しむのである。


 「あたしにもちょうだいよ」

 「分かったのである」

 「無ければ無いで別に問題ないけど、あると知ったら欲しくなるね」

 「あー、わかるなぁー。それ、良くわかるなー」

 「はっはっは! オッサンみたいになってるぞ、デルク」


 アリッサ嬢が、気楽に我輩から同じような物を受け取り口に入れるのを見て安心したのか、リリー嬢も決心してそれを口に入れるのである。


 「…………あら? この味……」

 「リリー嬢は、確かその果実が好きだったはずである。昨日の菓子の礼である」

 「あら、そんなことをするなんて今まで無かったわね。明日、龍でもやって来るのかしら」

 「酷い物言いであるな」

 「ふふ。ごめんなさいセンセイ。あまりにも珍しいから、つい」


 楽しそうに微笑みながら、口に入れた菓子を楽しそうに遊ばせているリリー嬢を見て、我ながら慣れないことをしたと思いながら、やってよかったなとも思うのである。


 そのために、リリー嬢のことをよく知るミレイ女史と共に、朝市へと出掛けたのである。






 リリー嬢の菓子を食べ、リリー嬢の想いを知った我輩は、何かした方がいいのではないかと思っったのである。

 ただ、何をどう返せばよいのかわからなかった我輩は、こういう時に頼りになるのはミレイ女史だと思い、部屋を訪ねたのであった。


 急な訪問に驚いたミレイ女史であったが、部屋を出て話を聞いてくれたのである。


 「でしたら、室長の好きなものを使ってお菓子をお作りになったらいかがでしょうか?」

 「菓子であるか」

 「お菓子のお礼ですから、お菓子で良いと思いますよ。粗末なものや豪華すぎるものは失礼になりますから」


 やはり、ミレイ女史を頼ったのは正解である。ダン辺りだと、<んなもん適当で良いんじゃねぇか?>位にしか返事が来ないのである。


 「なるほどである。ただ、問題があるのである」

 「なんでしょうか?」

 「我輩、リリー嬢が何を好んでいるか知らないのである。リリー嬢、知っていたら教えて欲しいのである」


 と、言うわけで今日の早朝に二人で朝市に出掛けることになったのである。


 「アーノルド様は、9年一緒に仕事をした方の嗜好をご存じ無いのですか?」

 「全くそういう事柄に興味がなかったのである」

 「うふふ、アーノルド様らしいと言えば、らしいですね」


 朝市に向かう途中、昨夜の話の事になり、その事に対して若干呆れたような表情をしたミレイ女史にそう言われるのである。

 我輩も過去を省みると、適当に何かを返していたことはあるような気はするのであるが、相手の嗜好などは全く考えたことはなかったのである。

 その事をミレイ女史に言うと、


 「研究所の頃は、陛下からの仕事というのもあったと思いますのでそれは別として、今は隊長やアリッサさんは好意でアーノルド様といるのですから、何かの際に、きちんとした感謝の気持ちを送った方がいいと思いますよ」


 と、笑顔で返答をしたのであった。

 なるほど。勉強になるのである。


 「他にも、デルク君やサーシャちゃんのような小さな子達も一緒なのですから、何かの記念に相手の好きなものなどを送る癖をつけた方がいいですね」

 「そういうものであるか」

 「そういうものなんですよ」


 さすがは伯爵令嬢である。そう言うことに関してはミレイ女史に頼ろうと我輩は思ったのである。


 なので、我輩はそのために必要な質問を早速ミレイ女史にするのである。


 「ちなみに、ミレイ女史は何を貰えると嬉しいのであるか?」

 「え? ええ!? 私ですか?」


 突然の我輩の質問が予想外だったようで、ミレイ女史は返答に窮してしまったようである。暫くうんうんと唸っていたのであるが、どうやら考えがまとまったらしく、返事を帰すのである。


 「私は……こうやって、二人きりで……どこかに出かけることが嬉しいです」

 「贈り物の話の筈なのであるが」

 「人それぞれ、もらえると嬉しいものが違うんです! 私は……アーノルド様から二人きりの時間を貰えるのが嬉しいです」


 そう言っているミレイ女史の顔は赤く染まっているのである。

 しかし、贈り物というのは奥が深いのであるな。相手の嗜好を知り、それを適切に相手に贈る。相手の人となりを見極めることが重要ということである。はっきり言えば、我輩にはかなり難しいものである。が、それが分かっただけでも今回の収穫といえるのである。


 「なるほど、いろいろ教えてくれて感謝するのである。また、機会があったら二人でいろいろ見て回るのである」

 「ほ、本当ですか!」

 「ミレイ女史は、我輩にいろいろ教えてくれるのである。感謝の気持ちである」


 そう言って歩き出す我輩の横を笑顔を見せたミレイ女史がついて来るのである。

 その顔の作りは、大人びて華やかな感じであるが、浮かべる笑顔はまるで子供のようである。

 しっかりしているようでも、成人を迎えて一年ほどである。まだ子供っぽさがあるのも当然である。


 「ありがとうございますっ。あ、あの、わがまま言っても良いですか?」

 「なんであるか?」

 「……手をつないでも良いですか?」


 どうやら表情だけではなく、心もまだ子供のようである。


 「いいであるよ。サーシャ嬢が羨ましかったのであるか?ミレイ女史もまだまだ子供であるな」

 「そういう意地悪なことをおっしゃいますと、もう、何も教えませんよ?」

 「それは困るのである。すまなかったのである」

 「うふふ、冗談ですよ」


 このような感じで、少々子供に戻ったミレイ女史と一緒に、リリー嬢の好きな食べ物を探しに市場を見て回るのであった。


 その後、我輩達が朝市に行ったことを知って、拗ねてしまったサーシャ嬢とデルク坊とパットンの機嫌を納めるために、もう一度市場へ出掛ける事になるのである。






 「確かにこれなら人前に出せるわね。というか、普通に美味しいわ」

 「気に入って貰えたであろうか」

 「そうね。気に入ったわ」


 そういって笑顔を浮かべるリリー嬢に、我輩は腰に付けている袋ごと手渡すのである。


 「気に入っていただけたのであれば、これをあげるのである。先程の菓子が沢山あるのである。市場で見つけることの出来たリリー嬢の好きな果実を全てこの菓子にしたのである」

 「センセイって、私の好みを知っていたかしら?……あぁ、ミレイね」

 「そうであるな。我輩は、人の嗜好などに興味が全然無かったので、ミレイ女史にいろいろ聞いたのである」

 「こういうところにまで気が回るようになったのね。センセイ、この二年で本当に人間みたいになったのね」

 「人間みたいとは何であるか。我輩は元から人間である」

 「センセイが人間みたいになれたのは、サーちゃんやミレちゃんのおかげなんだよ」


 これは好都合とばかりに、アリッサ嬢がリリー嬢の一言に食いついたのである。面倒な。


 「あら、そうなのね。サーシャちゃん、ミレイ。センセイを人間にしてくれてありがとう」

 「おじさんは、人間じゃ無かったの?」

 「そうね、昔のセンセイは人間じゃ無かったわね」

 「そうだね。鬼か悪魔だったね」


 調子に乗って、どんどん物言いが酷くなって来たのである。いい加減やめてほしいところである。


 「でも、私たちがダメで、サーシャちゃんやミレイなら変わるってことは、もしかしてセンセイは……」

 「リリー、それ以上は駄目。今は駄目だよ」

 「さすがに失礼にも程があるのである。我輩は少女趣味はないのである」


 あるのはダンである。ちなみに、ミレイ女史はともかく、見た目と精神は少女でも、サーシャ嬢は年上である。


 「ねぇ、ミレイお姉ちゃん、少女趣味って何?」

 「え? えぇ? えっと、それは……」


 我輩達の会話を聞いて、サーシャ嬢が気になる言葉の意味をミレイ女史に尋ねるのである。

 ミレイ女史もさすがにその返答には困るのである。

 というよりも、少女であるサーシャ嬢がそう言ったことで、列に並んでいる者達が我輩達をいかがわしいものを見るような目で見だすのである。


 「ち、ちょっと……この場でその話は」

 「そうですぜ、みんな見てますぜ」

 「だから、その話を止めようとしたのにセンセイが余計なことを言うから」

 「リリー嬢が変な疑惑を口にするのがいけないのである」

 「私のせいかしら? 私は確実にセンセイのせいだと思うわよ」


 素直に感謝を表そうと思ったのであるが、結局いつも通りな感じになり、我輩達は好奇な目に晒されながら、受付をすませるのであった。






 

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