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錬金術師アーノルドの自由気ままな毎日  作者: 建山 大丸
5章 新しい協力者と不穏な影、である
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その後の話である②


 我輩の名はアーノルド。自由気ままに生きる錬金術師である。






 活気のある声や音が、森中に響き渡るのである。

 その場にはリスの獣人や犬の獣人が、我輩の作った木材を穴リスの獣人が掘っている地下へと運び入れている光景が見えるのである。

 その地下内では、手先が器用な森の民達が木材で壁や床、階段や家具などを作り、人が住みやすいように作り替えているのである。


 「こんなにしてもらって申し訳ないの」

 「いえいえ、これくらいの事は容易いのだ」

 「そうなのだ。人間殿には本当に助けてもらったのだ。これくらいじゃ足りないくらいなのだ」

 「共に生きる仲間が助けられたのです。これくらいの礼はして当然ですよ」


 獣人達は笑ってバリー老の言葉に応えると、楽しそうにその場を離れていくのである。


 「済まなかったのである」

 「何度も言うとるが気にするでないわい。正直なところ結界石よりもこちらの方が良かったと思うわい。なっはっは」

 「それはそれで複雑である」


 今我輩達は、森の内部に探検家達の活動拠点を作るべく、作業を進めている最中なのである。







 「結界石は当分作れそうに無いのである。本当に申し訳ないのである」


 我輩は、バリー老に頭を下げて謝罪をする。一度ならず二度までも約束を反故にするなど、代案を提案してくれたダンやずっと手伝ってくれたサーシャ嬢やミレイ女史にも申し訳ないのである。

 我輩の言葉を聞いたバリー老からは返事が無い。それは当然である。我輩の身勝手な口約束を好意で反故してくれたのである。なのに、その好意に応えるべく出した代案も結局実行することが出来なかったのである。

 

 「あぁ、そういえばそんなこともあったのぉ。すっかり忘れていたわい」


 だが、長い沈黙を破ってバリー老から発せられた言葉は、我輩の予想外の言葉であった。


 「なっはっは。驚いたかの?」

 「珍しいな、センセイが言葉に詰まるとか」

 「それだけ、真剣に悩んでいたってことだよ。バリー爺、茶化すんじゃないよ」


 突然の言葉に、返事を返せないでいる我輩を見て愉快そうに笑うバリー老とその様子に驚くダン、そしてバリー老を窘めるアリッサ嬢である。


 「いや、悪いの。気を悪くせんでくれ。集落での戦いが以外ときつくての。本当に頭から抜けておったんじゃよ」


 そういってバリー老は我輩に軽く頭を下げて謝罪をして来るのである。それだけ今回の出来事は大変だったと言うことなのであろう。


 「それは分かったのである。だが、バリー老の約束を……」

 「あぁ、それはもういいわい」


 改めて謝罪をしようとする我輩をバリー老は制するのである。


 「今回のことで良く分かったがの、現時点で普通の人間が森の深部へ探検に行くのは無理じゃわい」

 「だが、我輩達は……」

 「オヌシ達は普通なわけが無いじゃろうが」


 呆れたようにバリー老は笑い、話を続けるのである。


 「現時点で結界石を作ってもらったとして、功を焦ったり調子に乗った探検家が深部に突入して全滅するのがオチじゃの」

 「まぁ、持ち運びが出来るからな。そういう可能性は高いな」

 「それよりも、回復手段の確保の方が急務じゃの」


 そういってバリー老はクリス治療師を見るのである。


 「本部へ戻ったら、治療院との協力関係を強化することを今まで以上に進めるかのぉ。森の調査には必ず一人は回復役が必要じゃよ」

 「治療院としても協力したいところなのですが……」


 バリー老の言葉に対するクリス治療師が返事はあまり反応が良くないのである。探検家のチームに治療院の人間がいれば効率が上がるのは、ダン達のチームで実証済みなので探検家ギルドは治療院との関係を強化していこうとしているところらしいのである。

 治療院としても、探検家ギルドに協力することは帝国繁栄に繋がるので、できれば協力したいらしいのであるが、そちらに有能な治療師を回せるほど人材が余っているというわけではないのが実情らしいのである。


 「准治療師の実地研修みたいな感じでも良いんじゃがのぉ」

 「そもそも、治療師を目指すもの達というのは基本的に内勤希望が多いですし、私やゴードン様のような派遣治療師も治療院の無い集落に赴き活動するのが主な役目なので、なかなか実現は難しいですね」

 「それは、前の話し合いでも言われたわい」


 クリス治療師の言葉に、バリー老は悩ましい顔を見せるのである。


 「で、あるならばギルドで治療の講座を開けば良いのではないであろうか」

 「それもやってみたのだがの、厳ついものや柄の悪い者達に教師役の治療師が萎縮してしまってのぉ」

 「今まではそうであったであろうが、これからは大丈夫であろう?」

 「どういうことじゃ?」


 我輩の言葉に、バリー老は疑問を浮かべるのである。


 「そこらへんの探検家では、遭遇できないような修羅場をくぐり抜けた凄腕の治療師が目の前にいるのである」

 「へ?」

 「おぉ、そうじゃの。すっかり頭から抜けておったわい」

 「へ? へ?」

 「講義の際はウォレスに立ち会ってもらって、態度の悪い奴はシメて貰えば良いさ」

 「なるほどのぉ、それも良い案じゃの」

 「あの? 私……」

 「というわけで、帝都に戻ったら治療院に早速提案してみるかの。よろしく頼むの、クリス治療講師殿」


 そう言って、晴れやかな笑顔でバリー老はクリス治療師の肩を叩くのである。叩かれたクリス治療師は、がっくりと肩を落とすのである。


 「私の意思は無視ですか……。……きっと、提案通るんだろうなぁ……」

 「まぁ、がんばれや。クリス姉」

 「人事だと思ってぇ……」


 何やらじゃれあいだしたドランとクリス治療師は放置し、バリー老は話を続けるのである。


 「そんなわけでの、結界石を使って大森林内に拠点を作るとかという話以前の問題なのじゃよ」

 「そうであるか、だが、拠点は欲しいのではずである」

 「まぁのぉ。森の入口からこのあたりの中間地点くらいに簡易拠点みたいのがあれば、ある程度の長期活動が見込めるものもいるからの」


 そのバリー老の話を聞き、穴リスの獣人の長老が一歩こちらにやってきたのである。


 「それならば、我等に任せるのだ。このあたりは地下で活動するような魔物がいないのだ。なので、地下に拠点を作れば安全なのだ」




 という言葉があり、あれよあれよと言う間に話が進み、現在の状況になっているのである。


 「しかし、明らかに怪しいのぉ」

 「まぁ、そこは発見した集落跡地をダン達が拠点に改造したとでも説明しておくしかないと思うのである」


 そういっている我輩達の目の前には、地下へと続く入口があるのであるが、明らかに不自然な木の扉がある洞穴である。


 「雨の時に水が入り込んだり、料理をするときにの排煙等はどうするんじゃろうな」

 「それは問題ないのだ。我等穴リス族の技術の結晶をお見せするのだ」


 バリー老がふと漏らした不安をちょうど通り掛かった穴リスの獣人が聞いていたらしく、こちらにやってきて胸を張って答えるのである。


 「どんなじゃ?」

 「それは秘伝なので教えられないのだ! 楽しみにしているのだ!」


 そういうと、穴リスの獣人は得意気に笑い、作業に戻っていくのである。


 「あまり言いたくはないがのぉ。あやつら抜けておるから………不安じゃの」

 「我輩はバリー老ほど彼らと付き合いはないのであるが、同感である」


 そんな我輩達の心配をよそに一月後、特に問題も起きずに地下拠点は完成したのであった。






 地下拠点が出来てから数日後、大森林では雪が降りはじめたことで季節は徐々に冬へと変化していったのである。

 冬の大森林の状態を調べるためにダン達は、森の家や出来たばかりの拠点で冬を越すことを提案したのであるが、元々そのつもりであった我輩は当然それを受け入れたのである。


 その間にも時折、捜索団の面々が素材を持って家にやってきたのであるが、その面子にリスの獣人と犬の獣人が一人ずつ増えていたのが印象的だったのである。



 「錬金術師殿の家は快適なのだ! このままここにいたくなるのだ」

 「こら、私達は新人なのにいち早くふにゃけててどうするんだ」

 「そうは言っても、暖かくて気持ちいいのだ~~~。」


 犬の獣人に窘められるも、すっかりリラックスしきった表情でリスの獣人が感想を漏らすのである。

 森の家にかかっている温度調節の魔法のおかげで、家の中は程よい暖かさを保っているのである。これも我輩が森の家で冬の期間を過ごそうと思った理由の一つになるのである。


 「我輩の家ではないのである。サーシャ嬢とデルク坊の家である」


 我輩の言葉を聞き、リス獣人隊員は気の抜けた顔を元に戻し、サーシャ嬢とデルク坊にむけて慌てて頭を下げるのである。


 「そ、それは失礼いたしましたなのだ!」

 「へ? 気にしてないよ。なんか、もう殆どおっちゃんの家みたいだもんな」

 「ここは、私達みんなのお家だよっ」


 サーシャ嬢の言葉に、我輩達全員が何とも暖かい気持ちになった気がするのである。


 「そういえば、ドラン殿達がいないようだがこの寒い中森の調査へ行ったのか?」

 「ドラン達は実際の使い勝手を報告せねばならないので、今は地下拠点の方にいるのである」

 「そうか、雪上での戦闘訓練でもと思ったのだが残念だ」

 「確か予定では、後2・3日はあちらにいるはずなのである。帰りにでも寄ってみたらどうであろうか?」

 「そうか……新人達にも経験を積ませたいところだし、帰りはそのルートで行ってみようか」

 「うおぉ……まじかよ……」


 若干嬉しそうな表情の分隊長を引き気味に見る隊員達と、何が何だか分からない様子で両方を見る新人達である。頑張ってほしいものである。


 「話は変わるのですが、魔物からの手紙にはなんて書かれていたのですか?」


 先程まで話に参加せず、サーシャ嬢達と会話をしていた親御殿が真面目な顔をして尋ねてきたのである。おそらく、それを聞くためにこちらへやってきたというのもあるのであろう。


 「簡単に言うと、今回は負けを認めて一度退くが今度はそうはいかないということと、連中の最終的な標的は帝国だという事である」

 「多分、過去に帝国に対して大きな恨みのある人間に憑依した魔物が成長したのか、その人間が枠を越えたかしたんだろうね」

 「我輩達が分からない文体を使っていることから、かなり昔に大森林に放逐された人間のようである」


 我輩達の言葉に、捜索団の面々が先程と違い真剣な表情を浮かべるのである。


 「そういう訳である。人間のいざこざに巻き込ませてしまい申し訳ないのである」


 我輩の言葉に、隊員達は首を横に振り笑うのである。


 「我等森の民は、帝国内に森の危険分子が入り込まないように戦うためにここに住ませてもらっているのだ。気にすることはない。」

 「そうなのだ、人間殿。我等は森の民殿達同様に、帝国とともに歩んできた獣人なのだ。敵性生物を森から出さないように戦うのが務めなのだ。むしろ、いいようにやられてしまいこちらこそ申し訳ないのだ」

 「私達は元から森に住む在来の種族ですが、共に生きる仲間が戦うというならば、私達も戦うのみです。それに、帝国とかそういうのはわかりませんが、錬金術師殿には恩があります」

 「これは、私達の集落だけでは手に負えなくなりましたね。戻ったら各集落に協力を求めるようにしましょう」

 「ありがとうなのである。よろしく頼むのである」


 我輩はそういって、頭を深々と下げるのであった。



 そして冬が明けるのを待ち、我輩達は辺境の集落へと移動するのであった。


 「ここでお別れじゃの」

 「寂しくなるね、ドランちゃん」

 「は? 俺はそんなことない……って、痛ってぇ!」

 「ふんだ! ドランちゃんの馬鹿っ!」


 現在我輩達は辺境の集落を出発した先にある分かれ道にいるのである。片方はバリー老達が戻る帝都へと延びる街道で、もう片方は我輩達が向かう東方都市へと延びてていく街道である。


 「で? 結局審査はどうなったんだ?」


 ダンの言葉に、バリー老はやれやれといった様子で首を振るのである。


 「嫌らしい奴じゃの。儂が森で審査を行うと言ったのは建前で、実際は森の民と繋ぎを得ることや活動拠点を得ることが主な目的だったということは分かっとるんじゃろ?」

 「まぁな。目的を達成できて良かったな」

 「所長に刺し殺されなくてすみそうだねぇ」

 「そもそも弟などにやられるほど老いてはおらんわい」

 「調子の良い爺さんだな、全く」

 「なっはっは」


 そう言って、ダンとアリッサ嬢とバリー老は笑いあっているのである。


 「え? そうだったんですか?」

 「まじかよ……」

 「そんなぁ……」

 「え!? お前ら気づいてなかったのかよ!」


 そんなバリー老の言葉に、クリス治療師、ドラン、ハーヴィーの三人は力無く崩れるのである。


 「審査自体など、辺境の調査の時点で終わっとるわい。おぬしらは十分に適性を満たしておったわ。辺境の首長に通知を出すので、戻り次第きちんと確認するんじゃぞ。では皆またの。とても有意義な時間じゃったわ」


 そういうと、バリー老は荷車の元へと歩いていくのである。


 「あ、ちょっとグランドマスター! 待ってください! 皆さん、いろいろありましたがとても楽しかったです。今度帝都に来たときに治療院に遊びに来てくださいね。歓迎します! あ、待ってくださいって!」


 クリス治療師も慌ただしくバリー老を追って、荷車のもとへ向かうのであった。


 帝都へ向かう彼らを見送ると、我輩達も自分たちも荷車へと移動するのである。


 「騒がしい連中だったなぁ」

 「でも、いなくなると寂しいね」

 「そうだなぁ、一緒にいっぱいご飯を食べる人が少なくなると寂しいなぁ」


 デルク坊の言葉に、寂しくなる理由はそこなのかと一同苦笑いを浮かべるのである。


 「今度会うときは帝都でしょうか」

 「俺の受爵式ですかねぇ、面倒ですわ」


 そのこともあるので、今回の遠出はあまり長い間行うことができないのである。

 

 「ですが、その前に素材の確保をしに行かないとですね」

 「そうであるな、ついでに東方都市へ赴き料理大会に行くのである」

 「参加するのかい?」

 「それは、アリッサ嬢に任せるのである。どうやら大きな祭のようなので、サーシャ嬢やデルク坊に見せてあげたいのである」

 「あぁ、なるほどねぇ」

 「ボクがいないと、困るんだからそこのところ分かってるよね」

 「当然である。何か気に入ったものがあったら言うのである。ダンが買うのである」

 「俺かよ!……ったく」

 「あははははは!楽しみだねぇ」

 「では、行くのである」


 我輩がそういうと、ドランがゆっくりと荷車を牽きはじめるのである。

 今回向かうのは東方都市、そしてそのさらに南にある海である。一体何が待っているのであろうか。


 「楽しみだねぇ、おじさん」

 「そうであるな」


 何やら不穏なものもあるのであるが、今はこちらを楽しもう。

 そう思いながら我輩は、荷車に酔わないように作製した酔い止めを口に入れるのであった。






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