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錬金術師アーノルドの自由気ままな毎日  作者: 建山 大丸
5章 新しい協力者と不穏な影、である
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その後の話である①


 我輩の名はアーノルド。自由気ままに生きる錬金術師である。






 獣人達と魔獣の決戦が終わり数日が経ったのである。

 あれからダン達と森の民、犬の獣人とキズの癒えたリスの獣人の戦士達が魔獣の巣があった場所へと向かって行ったのであるが、そこには既に魔獣の姿は無かったようである。

 やはり、黒幕と思わしき成長した憑依の魔物が“負けを認める“ということを書き記していたように前線基地のようにしていた魔獣の巣から撤退したのであろう。

 その場には、魔獣や魔物の餌にされていたのであろう獣の死骸に混ざり、森の民や獣人の死体もいくつもあったので、それらを処分したようである。


 「我等が同胞も何人か餌になっていたのだ」

 「覚悟はしていたけれど、やっぱり悔しいのだ」

 「森に住む以上覚悟はしていますが、その光景はいつ見ても不快なものです」

 「改めて思うが、過酷な場所で生きてるんだな」

 「皆を森へと追いやって、平地で安穏と生きていて申し訳ない気持ちになるの」


 バリー老の言葉を聞き、親御殿は首を横に振るのである。


 「これは、私等が求めたことなのですよ。だからお気になさらずに」

 「じゃが……」

 「爺さん、このことについては俺達と向こう側で伝わっている事が違うらしいんだ」

 「なんと……」


 ダンの言葉を聞き、バリー老は言葉を失うのである。

 そう、この事については人間側と亜人種側で大きな認識の違いがあるのである。いつかこのこと知るものがいる集落へと話を聴きに行きたいものである。


 「とりあえず、今回は敵を撃退することは出来たが、お前達はこのままここに住むのか?」

 「長老達とも話さないと何とも言えないところなのだ。ただ、できることならばここではない場所が良いとは思っているのだ」

 「我等は自分たちで思っていた以上に弱く、そして賢くなかったのだ。森に住む以上は完全に安全な場所は無いのは知っているのだ。だけど、比較的森の外に近い場所の方が安全だというのは知っているのだ」


 つまり、今よりも人間の住む場所に近いところに移ろうと言うことなのであろう。

 それを聞いて、今まで何も言わなかった捜索団の分隊長が口を開くのである。


 「ならば、私たちの集落へ来るか、近くに集落を作る事も一応考えてほしい。もしもお前達がそれを望むならば私から集落長達に提案してみようと思う」


 意外な提案に、我輩達は分隊長を見るのである。


 「簡単な話だ。集落の防衛の面でも、樹上の戦いを得意とするものがいるのは有利だ。それに、この地下居住区はなかなか素晴らしい。何かあったときに戦えない子供や老人をここに避難させれば、我等は集中して戦いを行うことが出来る」

 「そうですね、集落で受け入れるというのは現状では難しいかもしれませんが、協力関係を結ぶというのは出来るかもしれませんね」

 「うむ。集落間で深い協力関係を結べるようになると、私達の活動も幅が広がることだろう。まぁ、その分しがらみも多くなりそうだが」

  

 そんな隊長と親御殿の話に隊員は驚きを隠せないようだ。


 「隊長、いつの間にそんなことを考えるようになったんですか?」

 「隊長ってそんな知性派じゃなかったですよね」

 「お前は、今度家に赴いたときにドラン殿にとことんしごいてもらおうとしようか」

 「まじっすかぁ! 勘弁してくださいよ!」

 「失言は身を滅ぼすって奴だよ」


 そんな隊員達の反応を無視し、分隊長は話を続けるのである。


 「錬金術師様達を見ていると、他種族との共存というのも楽しいかもしれないなと思うんだよ」

 「気持ちはわかりますが、これはまだ個人レベルだから成り立つんだと思いますよ」


 親御殿の言葉にダンが大きく頷くのである。


 「そうだな。人間の集落に嬢ちゃん達も連れていってるが、森の民だってことは隠してるしな」

 「ボクは、姿を魔法で隠しているしね」


 そう、以前から集落にいた者達はほぼ全員、サーシャ嬢とデルク坊が森の民だという事は周知の事実であるが、新しく住みはじめた者達には秘匿している状態である。とうぜんそれは、いらぬトラブルを起こさぬようである。

 なので、人間からすると妖精にしか見えないパットンの存在はさらに隠しておかないといけないのである。

 結局のところ、異種間交流が出来ているのは個人レベルでしか無いのである。


 「まぁ、確かににそうか。ただ、私としては謎の敵性勢力が現れた以上、ある程度の関係強化は必要だと思っている」

 「それは、我等もそう思うのだ。長老達にそれも含めて話をしてみるのだ」


 そう言うと、獣人は話をしに行くのかその場を離れていくのである。


 「今の話、私達も加わらせてもらってもよいでしょうか?」


 ずっと話を聞いていた犬の獣人の一人が、分隊長に向かって話しかけるのである。どうやら彼は、今回送られた援軍の責任者のようである。


 「今回戦ってわかりましたが、あの魔獣達に襲われたら私達だけでは成す統べも無かったと思います」


 彼らの話を聞くと、彼らの種族は連携戦闘が得意で鼻が効くのであるが、樹上戦闘はからきしなようで、猿の魔獣との相性がリスの獣人とは別の意味で悪いらしいのである。


 「だから、協力関係を結べるならば結んでおきたいということか?」

 「どちらかというと、集落をそちらに移動させたいという方です。今回分かったのですが、私達は自分たちだけよりも、誰かと共に戦う方が向いているようなのです」

 「そうか、分かった。ただ、それもお前達の考えだろう?集落へ行って考えをまとめてまたうちの集落へ持ってきてもらいたい。私も集落長へ意見を聞いてみないと何とも言えない。」

 「それもそうですよね。申し訳ございません」


 耳を垂れて深々と頭を下げる犬の獣人をみて、分隊長は慌てて頭を上げさせるのである。


 「いや、頭を上げてくれ。そもそも私が思いつきでいろいろ言い出したのがいけないのだから」

 「ですが、そうやって他種族で協力し合って集落を形成するのも夢があると思いますよ」

 「そういってくれると助かるよ」

 「では、私達も長老に話をしてみようと思います」


 そういって、犬の獣人達も自分の集落へと戻って行ったのであった。


 その後、リス・穴リスの獣人そして犬の獣人は、森の民の許可を貰えるならば森の民の集落の隣りに集落を形成し、協力体制を築きたい旨を分隊長に告げ、その話を受けた集落長達は受け入れを決めることになるのである。






 「儂らはまだ帰らなくても良いのかのぉ」

 「何言ってんだよ、俺達はここでまだやらなきゃいけないことがあるんだよ」


 我輩達は、現在森の民の集落にいるのである。

 集落長や老婦人に頼み事があるので、現在彼らが来るのを待っているのである。

 彼らは今、リスの獣人と犬の獣人の責任者とこれからについて話し合っているところである。

 獣人の受け入れを決定したこの集落ではあるが、それで終わりと言うわけではないのである。なにせ初めての事なので、いろいろ細かいことまで詰めていかないとということで、時間がかかっている様である。


 「何をするんじゃ?」

 「爺さん達に渡す荷車にしろ、荷車の作り方にしろ、どこで見つけたかっていうのを報告しないといけないだろ?」

 「そのための場所を使わせてもらう許可を貰おうと思ってるのである」


 おそらく勝手に使ったとしても問題無いとは思うのであるが、筋は通しておこうと思うのである。


 「錬金術師様、お待たせいたしました」

 「今回はこちらに頼みがあるとか。私達に出来ることであれば何でも言ってください」


 そのまま暫く雑談をしていると、部屋に誰かを伴い集落長と老婦人が入ってきたのである。


 「錬金術師殿のおかげで被害がとても減って助かったのだ」

 「私達の集落でも、毒で死ぬものや大怪我が元で死ぬものが減り、感謝でいっぱいです」

 「気にすることは無いのである。帝国民の幸せを守るのが錬金術師の勤めなのである」

 「錬金術師様もそういっておりますので頭を上げてくださいな」


 部屋に入ってくるなり、地面にぶつかるのでは無いかと思うほどに頭を下げて来るリスと犬の獣人を、困ったように笑いながら老婦人は頭を上げさせるである。


 「そうですか。ですが、私達集落のものが抱いている感謝はこの程度では表せられません」

 「そうなのだ。森の民殿同様、我等も出来ることがあれば何でもするつもりなのだ」


 獣人達は頭を上げてこちらを見るが、どうにもその偉い人を見るようなキラキラした目は苦手である。

 しかし、良いことを聞いたのである。であればこの獣人達にも協力してもらうのである。


 「それであれば、早速頼み事があるのである」


 そう言って、我輩は今回の用件を告げるのである。


 「はぁ、なるほど。それは問題ないのですが、錬金術師様がお造りになった道具を人間の元へ届けるのに、そんな面倒なことをしないといけないのですか?」

 「このセンセイ、俺達帝国の一部では超問題児として有名だからの」

 「なにせ、国のナンバー2をタメ口で罵るのを何の躊躇いもなくするからねぇ」

 「なんと……」

 「罵ってないのである。事実を述べただけである」

 「限度があるだろうが、限度が」

 「錬金術師様は豪胆な方なのだ!」

 「無神経って言った方がいいと思うけどね」


 呆れるもの、目を輝かせるもの、開いた口が塞がらない者など様々な反応があるが、とりあえず告げた用件に対する反応は悪くないのである。

 今回提案したのは、発見現場として集落跡地を使わせてもらえないか尋ねたのである。

 彼らの生活の場からそういうものが発見されたことにしておけば、彼らの文化・生活レベルが人間より上だと言うことで、至上主義者がのたまう亜人排除の声を牽制することも出来ると考えたからである。


 「そういうことならば、私達の集落跡地も是非お使いください」

 「我等の居住区跡も是非使ってほしいのだ」

 「感謝するのである」


 これで、一つ大きな問題は解決したのである。しかし、やらねばならないことが山積みなのである。


 我輩は、バリー老に報告するべく声をかけるのである。


 「バリー老」

 「ん? どうしたんじゃ? 改まって」

 「実は、結界石は当面できそうにないのである。約束を反故してしまい、大変申し訳ないのである」







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