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錬金術師アーノルドの自由気ままな毎日  作者: 建山 大丸
5章 新しい協力者と不穏な影、である
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防衛戦、そして黒幕


 俺の名はダン。帝国で二人の現役特Aクラスの探検家だ。






 奇声をあげて前後左右、そして上から魔獣達が襲いかかる。俺は上方の敵に障壁石を使うことで攻撃のタイミングを遅らせて、その間に周囲の魔獣共を一薙ぎで一掃する。いつもの俺なら上の奴までぶった切れたが、今の俺の力だと微妙に間に合わない。全くもってやりづらい。

 急に現れた障壁によって、タイミングをずらされた事でパニックを起こしている上側の猿を真っ二つに切り捨てる。

 そこへ図ったように、先程切り伏せた左右の魔獣の影から、蛇が不意を打ったように襲いかかる。

 だが、既にその気配を察知していた俺にはその不意打ちは意味はない。微妙に早く襲い掛かってきた左側の蛇を掴むと、右側の蛇に向けて地面にたたき付けるように振り下ろし、そのまま蛇共の頭を持っていた魔法銀の剣で串刺しにする。


 俺は軽く一息つき、ドラン達は大丈夫かと辺りを見渡そうとするが、状況がそれを許さない。


 今度は森猫が俺の回りをうろちょろと撹乱し、樹上から数匹の猿の魔獣がこぶし大程の石を投げつけるなか、蛇が左右から二匹ずつ襲いかかる。


 避けるのもめんどくせぇ!


 俺は障壁を上方に展開し、左右から襲いかかってくる蛇を次々に切り捨てる。森猫達は元々好戦的ではない生物なので、その様子を見て恐怖を覚えたらしく早々に散っていく。

 樹上の猿共をどうしてやろうかと上を見るが、姿は既に無い。

 ちくちくとまどろっこしい連中だ。うざいったらありゃあしない。


 現在、夥しい数の魔獣達の襲撃を俺が矢面に立って防いでいる最中だ。

 爺さん、ドラン、ハーヴィーは、パットンが張った認識疎外の結界の付近の防衛をしてもらっている。

 恐らく、居住区の入口内部で防衛戦をした方がいいのだろうが、そうすると体のでかいドランと、遠距離攻撃の方が得意なハーヴィーが余り役に立たない。なので、パットンの結界内部からハーヴィーは樹上で指揮を取ってそうな猿を狙い撃ってもらい、ドランと爺さんは魔法との相性が余りよくない蛇の魔物共の迎撃を中心に行っている。

 恐らく、爺さんの体力が持っている間は何とかなると思うが、バテてからが本格的にきつくなるだろう。


 俺は、パットンの認識疎外の魔法の効果を少しでもあげるべく、連中の注目の的になるように普段使っている認識疎外の魔法とは逆の魔法をかけてもらった状態で、敵に突っ込んでいる。

 おかげで俺は単独で猿、蛇、猫、さらに憑依の魔物の波状攻撃を受けることになっている。

 普段の俺でもこの数の相手は結構厳しいのだが、今の俺は昨日の影響で力が低下している。なので、既に障壁石とキズいらずの世話に何度かなっている。

 センセイが渡してくれた障壁石は3つ。そのうち一つは既に使いきってしまっている。二つ目もそろそろ内部魔力が尽きる頃だ。

 俺は、徐に障壁石を傷つけると、猿共がいると思われる樹上にむけて思い切り放り投げる。明滅を繰り返していた障壁石内の純魔力が暴走し、爆発を起こす。

 大きな悲鳴を上げながら数匹の猿と森猫が吹き飛んでいく。


 身を守るために作った障壁石を、こういう使い方してるって知ったらセンセイは怒るだろうな。


 そう思って軽く笑った瞬間、頭が真っ白になる感触に襲われる。


 マズイ! 憑かれた!


 必死で意思を強く持ち、懐から紙人形を取り出す。すると、先程までの感触は一気に無くなっていく。俺よりもうまそうな意思を持っていると誤解し、紙人形に取り憑いたのだ。

 息をつく間もなく、嫌な予感がした俺はその予感に身を委ねて地面を転がる、すると、先程俺のいた場所に樹上から三匹の猿が襲い掛かっている。俺は攻撃しようと立ち上がるが、猿達は攻撃が失敗に終わったと見るや即座に樹上に上がり逃げていく。

 その猿に向けて、数本の矢が飛んでいく。ハーヴィーが猿の姿を見逃さなかったようだ。一匹は首に貫通し絶命し、一匹は足に刺さって落ちたところを俺にとどめを刺される。もう一匹は難を逃れて安全距離まで逃げていった。


 戦闘が始まり、数十分が経過している。かなりの数の魔獣や魔物を掃討したと思うが、気配はまだまだ減っていかない。一体どんだけいるんだっていう話だ。この勢力度合いからしても、魔獣達に獣人達は玩具のように遊ばれていたのがよくわかる。


 もしかしたら、奴らからしたら今もそうなのかも知れない。


 そんなことを思っていた矢先、俺が気配を察知できる範囲内に猛スピードでこちらに突っ込んでくる生物の気配を感じる。この気配は以前あったことがある。


 まじかよ! あいつらこんなのも手懐けてるのか!


 俺はドランに叫ぶ。


 「ドラン! そっちの方向に角猪が2頭突っ込んでくる! 対処しろ!」


 俺が叫び終わるとほぼ同時に、少し外れた藪の中から二本角の猪が結界内に向かって突っ込んでいく。

 俺は今注目を集める魔法がかかっている最中だから、あちらの応援に回ることができない。ドランになんとかしてもらうしかない。

 そんなことを思いながら樹上から飛んでくる石を避け、襲いかかってくる蛇と憑依の魔物の相手をしていると、猪の悲鳴が上がってくる。どうやらドランがどうにかしたようだ。


 「問題ないですぜ!」


 ドランの馬鹿でかい声がこっちに響いてくる。まだ元気そうだ。

 だが、はっきり言って状況はどんどん悪くなってくる。奴らの勢力は予想を遥かに越えている。話に聞いてなかった敵が何種類も存在している。そして、恐らく予想される存在も。


 と、俺は異様な気配を察知し、その場から離れる。

 俺のいた場所の周囲には数本の矢が刺さり、圧縮された水弾で地面が刔れていた。


 そう、ずっと考えていた。いくら猿共が魔獣化したとして、ここまで賢く、いろいろな魔物や獣を取り入れ勢力を拡大して、その戦力を獣人達の襲撃で試すようなことをするのだろうかと。

 敵に、憑依の魔物がいる時点で早めに気付くべきだったのだ。そうすれば、俺達だけでここへくるという選択肢はださなかった筈だ。そういう意味では確かに最近平和ボケしたのだとも言える。


 「ニンゲンノクセニ、ヨクヤル」

 「よぉ。猿回しはお前らかい?」

 「死ニユクモノニ、コタエルヒツヨウハ、ナイ」


 そこには、成長したであろう憑依の魔物に憑かれた森の民と、見知らぬ種類の獣人がいたのだった。






 俺を取り巻く状況は最悪だ。良く死なずにここまで持っているもんだと我ながら思う。


 「小癪ナ、ソノ異常ナコウカヲモツ傷薬ハ、ナンダ」

 「さぁて、何だろうな! っと!」

 「ソノ、カミモ、ヤッカイダ」


 獣人に憑いた魔物がそう言うと猿が一匹、俺が敵に投げた紙人形を受け止める。


 「こいつらは憑かれてないのかよ。じゃあどうやって、こいつらを従え……」

 「オ前ガ、知ルヒツヨウハ、ナイ」


 森の民に憑いた魔物が、水弾を次々と発射する。嬢ちゃん達が使っているような遊びの水弾じゃない、圧縮・硬質化されて殺傷力が増大している魔法だ。

 一定以上成長したこの魔物は、憑いている種族の特徴をかなりうまく使えるようになるとは以前聞いたことがあったが、確かにこれはやばい。魔獣共を抑えるのでも余裕がなかったので、天秤は完全に向こう側に傾きつつある。

 体力がまだ残っているから回避に専念すればなんとかなるが、反撃に転ずる余裕など全くない。

 しかも、先程と違って攻撃の仕方が変化しつつある。猿の魔獣や蛇に俺を襲わせて殺す方向から、奴らを陽動に回しつつ憑依の魔物で俺を攻撃する方向に変えてきた。


 こいつら、俺を乗っ取るつもりか!


 そう思った俺は、手持ちの武器で近づいてくる憑依の魔物を攻撃しようと試みるが、蛇や猿共が邪魔をして攻撃が届かない。その隙に、別の方向から何体もの憑依の魔物が俺に襲いかかる。避けよう跳躍するが、それに合わせて獣人の魔物の弓と森の民の水弾が襲いかかる。確実に殺しにかかっている。


 くっそ! さっきのはフェイクかよ!


 咄嗟に障壁を展開し奴らの攻撃を防ぐ。だが、まだ攻撃の手は休まらない。紙人形の存在を察知した憑依の魔物が暴走して次々にこっちに襲い掛かってくる。なので、紙人形を数枚空中に投げ捨てて連中の足止めをする。その間に、その場にいる憑依の魔物を切り捨てる。


 「ヤハリ、アノ紙ガアルト、子供タチハ、ツカイヅライナ」

 「イウコトヲキカナクナルカラ、レンケイガ、トリヅライナ」


 まるで、俺を使って色々試しているように森の民の魔物と獣人の魔物は会話をしている。むかつく野郎共だが、遊ばれているのも事実だ。


 「ソレニシテモ、キサマノモッテイルドウグハ、キョウミブカイ」

 「マホウノ、壁カ。コイツノ知識ニハ、ソンナモノハ、存在シテイナイ」


 魔物は軽く頷くと、こちらに下卑た笑いを見せる。


 「ヤハリ、貴様ハ殺スニハ惜シイナ」

 「ダカラ、オレガハイッテヤルカラ、オトナシクシテイロ」

 「はっ! 人の気持ちを無視するような奴は嫌われるんだぜ、覚えておきな!」

 「ナラバ、動ケナクサセルマデ」


 魔物がそういうと、先程よりもさらに魔獣達の攻撃が激化する。

 大半の敵がこちらの攻撃に回っているのが感じられる。

 居住区の防衛という点で言えば成功っちゃあ成功なんだが、さすがにこれは捌き切れなさそうだ。

 ハーヴィーは、結界内から攻撃をしているが、ほとんど雀の涙みたいな状況だし、ドランも爺さんも、能力が低下している俺よりも弱いから、こんなところへ救援にきても正直役に立たない。先に体力が尽きてこいつらに飲み込まれるのが落ちだ。

 一応、連携の隙を見て反撃もしているが、効果もあまりない。逃げたいところだが、あの亜人達に憑いている魔物がそれを許すとは思わない。


 やっべぇなぁ、詰んだなぁ。ぎりぎりまで粘って、いざとなったら障壁石を暴走させて一匹でも多くの敵を巻き添いにするか。


 そんなことを考え出したときだった。


 俺への攻撃の手がすこしだけ緩まる。


 「ナンダ!? ナニガオキタ!?」

 「分カラン! 急ニアソコノ連中ガ崩レダシタ!」


 連中が見ている方角は、居住区の方角だ。どうやらそちらの敵の包囲が崩れだしたようだ。そのために、俺への波状攻撃の手が緩まったようだ。


 助かったが、援軍の気配は感じない。誰が一体?

 ……気配を感じない?おいおい、まじかよ……?




 

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