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錬金術師アーノルドの自由気ままな毎日  作者: 建山 大丸
5章 新しい協力者と不穏な影、である
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つかの間の休息


 俺の名はダン。帝国でたった二人の特Aクラスの探検家だ。






 「おおっ! これは美味いのだ!」

 「お父さん! 美味しいね! なのだ!」

 「こんな状況で、まさか今まで生きてきた中で1番豪華で、しかもこんな美味しいものが食べれるなんて……人間殿には感謝しきれないのだ」


 今、集落の広場にはこの集落にいるほぼ全ての獣人が集まっている。総勢で200人くらいだろうか。

 その全員がいま食べているのは、ハーヴィーとドランが狩ってきた獣の肉と、獣人達にパットンが認識疎外の魔法をかけながら付き添うことで、安全に採取することが出来た沢山の食材をふんだんに使った醗酵豆のペーストを溶かしたスープだ。


 やはりパットンの持っている魔法は反則だよなぁ。


 と、俺は改めて思う。


 確か、上級手引き書に認識疎外の魔法の模倣品が書いてあったが、パットンの使う魔法と違って結界の中に入っているもの同士でも認識が疎外されるらしいから、使い勝手がかなり悪そうだった。多分、ノヴァさんが基本的に単独行動をしていたから、その辺りの問題点は気にしていなかったんだろう。


 と、なるとだ。あの森の家の結界の魔法陣は誰が張ったのだろうか。


 俺は考えがどんどんと横道へと逸れていく。


 俺が読んだ限り、ノヴァさんの発明した道具ではパットンの使う道具以上の効果を出せるとは思えない。パットン並に意思の魔法の力を使え、尚且つ化け物じみた魔力制御能力を有した生物が協力者にいたとしか思えない。

 心当たりは無いわけではないが、余りにも現実ではないし、もしもそうだとしたらノヴァさんという人の破天荒振りは、センセイの比じゃない。


 まぁ、今更そんなことを考えても仕方ないな。


 俺は苦笑いし、考えを軌道修正させる。

 結局のところ、パットンがいなければ俺達はこんな深部で安全に生活できるわけが無いし、そもそも獣人達と意思の疎通すら出来ない。

 そう考えると、パットンの存在が俺達にとって1番重要なのだなと再認識する。

 そんなことを思っているとちょうど良いところにパットンがこっちの方に飛んできた。


 俺は、唐突だが改めて感謝を告げることにした。

 

 「パットン」

 「どうしたんだい、ダン」

 「お前は、俺達にとって本当になくてはならない存在だな。いてくれてありがとうな」

 「ちょっと待ってね」


 パットンはそういうと、俺の額にあるものをくっつけてくる。


 「……良かったよ。魔物に操られているわけじゃないんだよね」

 「お前、冗談にしてもそれはあんまりだと思うぞ」

 「アハハハハハハ、ゴメンね。あまりにも珍しいことを神妙な表情をして言うから、ボクの感覚でも掴むことの出来ないレベルの高い魔物でも付いたんじゃないかって心配になっちゃったんだよ」

 「フォローになってねぇよ」


 人が珍しく心の底から感謝を伝えればこんな風に対応しやがって。


 いくらかの拗ねた気持ちを抱えながら、パットンから目をそらす。

 が、パットンはすぐに俺の目の前に飛んできた。なんだよ。


 「ありがとう、ダン。君達にそう心から感謝されると、ボクも君達のために頑張ろうって思えるよ」


 そういうパットンの表情は、今まで見たことが無いくらい華やかな、それこそ物語に現れる俺達の思い描く妖精そのもののような可愛らしい笑顔だった。

 始めて見るパットンの笑顔に不覚にも見とれていると、いつもの意地悪な笑顔を浮かべてくる。


 「どうしたんだい?ダン。もしかして、ボクに見とれちゃったのかい?」

 「ああ、不覚にもな」

 「……本当に大丈夫かい?もしかして、錬金術師アーノルドがいないから寂しくなっちゃったのかい?」

 「だから、紙人形を持ってくるな」


 まったく、人が素直に物を言うとそんな反応をしやがる。本当に意地の悪い奴だ。

 だから、この後にパットンに降りかかる災害は知らせないでおこう。

 パットンの笑顔を見ていたのは俺だけじゃないからな。

 俺は、そいつがパットンへと向かって行きやすいように、一歩横にずれる。すると、そいつはものすごい勢いでパットンに突っ込んでくる。


 「か、かわいい! かわいいですぅぅぅ!!」

 「え? ちょ、ちょっと。治療師クリス! 顔が怖い! 怖いよ!」

 「パットンさぁん、もう一度今の顔をしてくださぁい」

 「ひぃ……」

 「怖がってるパットンさんの顔も意外にかわいいかも……」

 「ダン! 助けておくれよぉ!」

 「人の素直な気持ちを弄んだ奴のことなんか知らねぇな。ドランが飯を食い終わるまで我慢するんだな」

 「そんなのいつ終わるか分からないじゃないかぁぁぁぁぁぁ!!ボクに感謝してるんだよねぇぇ!?」

 「それとこれは別の話だ」


 俺だって、たまにはガキみたいに拗ねたい時だってあるんだ。

 大人気無いかなとは思いつつ、助けを求めているパットンに少しは反省しやがれと思いながらスープを受け取りに行くのだった。


 「俺にも一つ貰えるか?」

 「人間殿! どうぞなのだ」


 給仕をしている獣人に俺が尋ねると、獣人は器いっぱいにスープを盛りつけてくれる。

 こんなところでまで優遇しなくても良いだろうにと若干ほほえましく思いながら俺は礼を言って器を受けとる。


 「隊長、クリス姉はどうしたんですかい?隊長の方を見ていたと思ったら、一気に向かって行きましたけど」

 「おかげで、この子達はようやく落ち着いてご飯を食べれるみたいですけれど」

 「そ、そ、そんなことは無いのだ」

 「人間殿に、か、か、か、可愛がってもらって光栄なのだだだだ」

 「無理すんな。怖かったんだろ?後で、あのおじさんがあの姉ちゃんのところを叱ってやるからそれで許してやってくれよ」


 どうやらクリスは、パットンを標的にする前まで、この獣人の子供達を猫可愛がりしながら食事をしていたようだ。

 あいつの、可愛いものに対する愛で顔はどう見ても獲物を見つけた獣だからな。どちらかというと駆られる側の獣であったこいつらからすれば恐怖の対象だろう。


 「もともと可愛いものに対して執着が強い人だからなぁ。まぁ、一応締めておきますわ」


 そういうドランの体のあちこちには、最近出来たばかりの細かい傷がいくつもある。ハーヴィーも同様だ。

 この傷は、狩りの最中に魔獣に襲われた時についたものだ。

 やはり、捜索団長達と予想した通り、ドランは少々相性が悪いようである程度勝手が分かるまでに、キズいらずを使うほどの大怪我を何回か負ったようだ。


 「確かに、ありゃあ厄介ですわ。連中相手には、並の力量しかない重戦士系の探検家は、肉壁程度の役にしかたたねえっすね」

 「つまり、お前は並ってことか」


 俺の言葉に、ハーヴィーは大きくため息をつく。


 「違いますよ。この人、<まずは俺にやらせろ>とか言って、襲ってきた3匹一人で相手にするんですよ」

 「はっはっは、遠くにもう一匹いたんだろう?そいつをお前がやらなきゃ仲間を呼ぶかもしれんだろうが」

 「それ、僕が敵に気付いたのは、ドランさんが戦ってる最中ですよ!」

 「はっはっは、細かいことは良いじゃねぇか。仕事の後のこのスープ、マジでうめぇな」


 つまり、狩りの最中に遭遇した魔獣に対してドラン(バカ)はいつもの病気が発動したと言うことか。

 もう少し話を聞くと、ドランは戦闘を開始して早々にこのままではまるで相手にならないことを悟り、致命傷を負わないようにだけ気をつけながら、相手の動きや戦い方を学習することにしたらしい。

 ある程度慣れてきたら実際に迎撃を開始して、調整を繰り返していったようだ。正直なところキズいらずという超速傷薬がなければ出来ない真似だと思うし、あったとしてもやりたいとは思わない。


 「お前、やっぱりバカだろ」


 呆れたように言う俺に、ドランは意外な回答をしてくる。


 「時間がたっぷりあればいくら俺だって、もっと安全な方法を取りますぜ。ハーヴィーもいますし。だけど、ある意味いつ大量の魔獣に襲われるかわかんないんですぜ。もしかしたらハーヴィーと分断される可能性だってありますわ。一対多の慣れない戦闘に早く慣らしておかないと、真っ先に足を引っ張るのは俺じゃないですかい」


 やっぱりこいつバカだけど、ただのバカじゃないんだよな。頭の良いバカだ。若干考える方向が強引な所もあるが、なんだかんだで色々考えて動いている。

 とは言え、やはりいきなり同時三匹は無理があったようでハーヴィーが遠いところにいる魔獣を倒すまでの間に全部を倒しきることは出来なかったようだ。


 「おかげで、結局そのあと3回も襲撃されたんですから。最初から二人で全部倒すようにしておけば、あんなに襲われずに済んだんですよ」

 「だが、本番前の良い訓練になっただろ?」

 「だろ?じゃないですよ!三回目なんか八匹ですよ! 本気で死ぬんじゃないかって思ったんですから!」

 「俺が五匹担当したんだから文句言うな、ハーヴィー。しかし、本当にキズいらず様々ですわ。正直あれがなければ2回くらい死んでますわ」

 「僕は4回くらい死んだと思いますよ」


 そう二人が感想を漏らしていると、それに同意する声が聞こえてくる。

 そちらを見ると、集落の外であった獣人達がこちらへとやってくる。


 「そうなのだ! あの試練の傷薬は本当にすごい物なのだ! あれのおかげで私たちも劇的に生存率が上がっておりますなのだ」

 「この前も言ったけど、薬の効果は素晴らしいのだ。だけど、それ以上に薬に甘えないようにするための工夫が素晴らしいのだ」

 「ただ、治すだけじゃなく、反省の意味を踏まえてすごく染みるように作るなんて本当にすごい考えなのだ」

 「おかげで、極力薬を使わないように、立ち回りを考えて戦うようになったのだ」

 「毒を持っている面倒な生き物もいるのだ。我々の知っている解毒の薬草だと効果が薄い時もあったので、あれも助かるのだ」

 「あの薬も、毒をくらった反省を促すために口がしばらく痺れてしまう試練があるのがすごいのだ」

 「紙人形のおかげで、体を乗っ取られて集落内から攻撃される心配をしなくて済んだのだ」

 「一時的にリス族と穴リス族の中が険悪になりかけたのだ。本当に助かったのだ」


 おそらく、ここだけではない。他の獣人の集落もここと同じようにかなり厳しい生存競争の中ここまで生き延びてこれたのだろう。

 魔法による回復手段がある森の民とは違い、強力な回復手段を持っていない獣人にとって、回復手段の所持はまさに革命的な物だったのだろう。

 だが、それが逆に今回の展開を生んだとも言えるのかもしれない。もしかしたら、キズいらずの存在がなければ巣を近くに発見した時に存続をかけて戦うという選択肢は出なかったかもしれない。


 実際の所はわからないが、そう思うと何となく申し訳ない気持ちを感じてしまう俺だった。

 だから、できる限り獣人の被害を少なくするように立ち回ろうと思ったわけだが、同時にこいつらがセンセイと会ったときに、今の言葉を言わないようにしっかりと口止めをしようとも思う。


 もしも、あんな風に言われたらせっかく嬢ちゃんとミレイの教育の賜物で副作用を抑えると言うことを覚えはじめたセンセイが、調子に乗って副作用を増進する方向へと舵を取りかねない。俺は半ばそう確信しているのだった。






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