いつもの毎日、暇な一日である
初投稿です。
やることがないのである
いや、やりたいことは沢山あるのであるが、できることが何も無いのである。
と、言った方が正しいのであるな。
あまりにやることが無いので、退屈しのぎに我輩は、頭の中で自伝でも書き起こすことにしたのである。
我輩の名はアーノルド。帝国で唯一無二の錬金術師であった。
帝国とは
建国2000年を迎える巨大国家であり、過去は亜人や妖精なども多く存在していたのであるが、1200年ほど前の皇帝が何を思ったか、亜人排斥政策・人間唯一主義などと馬鹿をしでかした結果、文明が緩やかに退化しているのである。
特に、魔法技術に関しては森の民や妖精などがいなくなった結果、現在では種火を起こす事や飲み水を出す程度の事しかできないのであるな。
火の玉を出したり怪我を治したりできるものもいるが、そんなのは稀少である。
それでも数百年前までは特に問題などなかったのであるが、飢える心配があまりなく、小競り合いはなどはあれど大きな戦乱がないということは、人口が減る数より増える数の方が多くなるのである。
そして、400年ほど前に飽和状態を迎えたのであるな。
そこで帝国がとった方針は領土拡大政策。
ただ、大きな問題があったのである。
帝国の領土は肥沃な土地だったのであるが、領土の外は北は山脈、南は海原。
東は大森林で、西は岩と砂の荒野に囲まれていたのである。
しかも、魔物やら魔獣やら、排斥した亜人や妖精等の住み処もあるのである。
帝国建国の祖は竜が住むと言われている北の山脈を越えてこの地にやって来たと言われているのである。
だが、先程もいった通り魔法技術、そして戦闘能力も退化した帝国が領土を拡大するのは困難を極めることになったのである。
本当に亜人排斥運動をした皇帝はバカである。
そのようなわけで、何代か前の皇帝からこの状況を打破せねばならぬと、様々な研究が開始されたのである。
独自の魔法技術の構築やら過去の技術の再現やらであるな。
とはいえ、元々が魔法技術や製造技術に優れた森の民や土の民に支えられた過去の技術である。
その再現や新技術の構築などが人間だけですぐにできるわけもなく、できたとしても精々が紛い物の何かである。
それでも退化した時代に比べると進歩し、拡大政策も次第に結果が出てくるようになり、開拓が進んできてはいるのである。
そんな帝国の唯一無二の錬金術師が我輩であった。ということであるな。
そうしているうちに、頭が少々疲れてきたので先程淹れた紅茶に手をつけるのである。
思っていたよりも時間が経っていたらしく、淹れたてだった筈の紅茶は完全に冷めていたのである。
(思ったよりもいい時間潰しになるのである)
我輩はそう思い、一旦頭を休ませてからまた自伝を空想していくのである。
ちなみに、これを紙などにわざわざ書き記す事はないのである。
誰かに見られることは別に構わないのであるが、どうせ途中で面倒になるのである。
そもそもこんな取り留めも無い文章を、誰が好んで見るのであろうか。
我輩もこんな長ったらしい説明文など見たくもないのである。
そんなことを自嘲しつつ我輩は先を続けていくのである。
我輩の一族は代々【学者の一族】と呼ばれる研究家の一族である。
その中でも我輩の専門は、亜人種と呼ばれる者達が使っていたと言われる【古代精霊語】の研究である。
だが、研究……というよりも、バカ皇帝の亜人排斥政策の一環で行われた、文化清浄化運動を運良く逃れることのできた数少ない古代精霊語文献や、当時の言葉・歴史・文化等を細々と一族の間で受け継いでいった……というだけであるのが正しいのであろうか。
結果、時折発見される過去の文献などの翻訳などで研究開発に寄与していった結果、古代精霊語の権威とまで言われるようになったのである。
そんな事もあったのであるが、今からおおよそ10年ほど前に開拓先で、ある古代精霊語の書物が見つかったのである。
その名は、【錬金術初心~初級編 ー ノヴァ・アルケミスト著 ー】
その書の中には、錬金術の定義・必要な道具・いくつかのレシピなどが書かれていたのである。
内容がよく分からない部分もあったであるが、いくつか判明したこともあったのである。
まずは、錬金術というのは魔法能力は劣るが、向学心・想像力・応用力に優れる人間のために亜人と人間が作り出した模倣式の魔法技術、ということのようである。
そして、初心者に必要な道具は錬金術用の魔法陣と魔法金属の大釜。
この魔法陣は、様々な魔法陣を組み合わせたものらしいのであるが、魔法陣のことは専門ではないのでそこはどうでもいいのである。
魔法金属の大釜は希少な魔法金属であったり魔力含有量が多い方が効果的だそうである。
レシピに関しては、調合の基本的な考え方や調合の基礎となるもの、また、初歩的な応用編までが書かれていたのである。
ここまでは他の学術書とあまり変わらなかったのだが、ある一文に我輩は心惹かれたのである。
【この魔法技術が、人と亜人種を繋ぐ掛橋になることを願う】
まぁ、著者であるノヴァなる人物の売り文句なのであろうが、この一文は我輩がこの技術を研究しようと思うには十分な効果があったのである。
同じくその一文に興味を抱いた時の皇帝陛下の勅命を受け、錬金術の研究を始めていったわけであるが………………。
あぁ、もう面倒くさい。
結果を言えば、陛下が亡くなった後に宰相とゴタゴタがあり、研究を凍結、書は破棄され、東の辺境へ流されたのである。
錬金術の研究はとても楽しかったのである。
やりたいこともたくさんあったのである。
だが、設備は満足するものは得られそうにないのである。
資料も文献も資材を集める能力も無いのである。
今さら錬金術以外の研究をする気もないのである。
最初は周囲にあるもので何が作れるか等考え、行動もしていたのであるが、その状況が一年近くも続けば人は腐るというものである。
やれることが、できることが、もう無いのである。
「毎日食う、寝る、散歩のみの平穏な拷問なのである……」
グダーっと机に突っ伏しぼやいていると、ドンドンと玄関のドアをノックする音がする。
はて、このような辺鄙な場所に一体誰であろうか?