12/25
序 噴水
「ここが稲無田じゃなくて良かったね」
公園の噴水の前を通り過ぎたとき、あなたはそんなことを言った。
「きみらくらいの年頃って、女の子と一緒に歩いてたってだけで周りから冷やかされるでしょ」
風鈴のように高くて透き通った声。
「別に、相手が大人なら、そうは見られませんよ」
「えー、あたしならギリギリ中学生に見えると思ったのに。背低いし、童顔だし」
「だとしても、歩き方、話し方、仕草……、同級生たちとは全然違います」
「そっか。じゃあ、あたし、やっぱり大人だ」
そう言うとあなたは、あの太陽のように明るい笑顔を見せた。
十五の夏。ぼくは稲無田の外を歩いた。