結 追放
念夫の死を警察に通報したのは晴だった。状況が状況だっただけに、初めはぼくと晴も重要参考人として取り調べを受けた。しかし検死の結果、念夫の死因は頸動脈が内側から破裂したことによる大量出血であり、一切外傷はなく、他に不審な点も見られなかったので、他殺の線は取り下げられた。頸動脈がいきなり破裂した原因は全く分からなかったが、とりあえず事件性はないということで念夫の死は原因不明の突然死として扱われた。
ぼくも晴も、念夫殺しの犯人を知っていた。それなのに取り調べでは一切「彼女」のことは話さなかった。これは「彼女」の犯行の隠蔽に協力したことになるのだろうか。もっとも、祟りで人が死んだなんて話をしたところで信じてもらえるはずもないが。
その後は羊子のときと同じだった。既に夏休みに入っていたので念夫の死は連絡網で学年中に伝えられた。葬式にぼくらは呼ばれなかった。学校がないので皆の反応がどうだったか分からないが、きっとすぐに悲しみなど忘れていつもの日常に戻っていったことだろう。
晴はあのとき生贄と言った。その言葉を聞いて思い出すのは、祭の夜、カザカミの祠の前で「彼女」が語ったことだ。生贄にされるというのは死んだ後に人間社会の外、神の領域に追いやられるということ。晴は初め、羊子は自分のせいで死んだのではないか、と罪の意識に苛まれた。しかし羊子は祟り神に殺されたのだということが明らかになり、晴れて彼女は無実となった。なるほど、確かにこれは追放だ。晴はカザカミを信じることによって、自らの罪と共に羊子を神の領域へと追いやったのだ。
もう晴を責める気にはならない。ただこの街から消えた羊子のことを思うと、心のどこかが空虚になった気がする。
最後の夏休み。そんなセンチメンタルな響きに悲しみの青い色が滲んだ。