9・・一人の時間
寒い・・・
今日は とても寒い。
誰も集まらなくなってしまった部室はガランとしている。
「こんなに広かったかな?」
私はあたりを見回した。
洋子が居て、浩美が居て、
楽しく過ごしていた日は ついこの前だったはずなのに
とても遠い日だった気さえしてしまう。
弟君が言っていた
「カナは居ないんだよ・・」
カナは何処に行ってしまったの?
不思議なことに この学校にカナのことを知っている人は居なかった。
カナはこの学校の生徒では無かったのだ。
カナに会えない日だけが過ぎて私は高校を卒業した。
最後にカナに会ったのはいつもことだったか
それさえも忘れてしまうほど長い月日だった。
「カナは居ない」
そういった弟君の言葉がず〜〜っと気になっていたが
私は弟君に それ以上聞くことが出来なかった。
<聞いてはいけない!>
私の潜在意識が そう指令を出している気がしたのだ。
また弟君も そのことにはそれ以上ふれなかった。
二人の間でカナの話は自然と厳禁になっていた。
いつもそばに居てくれた弟君は
地方都市の大学に進学してしまい
地元に一人取り残されてしまった私は就職した。
私は毎日変わらない日々の繰り返しで退屈だった。
仕事を覚え人に慣れたころ
<同窓会>の通知が送られてきた。
弟君が出席出来ないと言うので私も欠席にした。
行ってみたかったが洋子たちの話もで出るであろう場所に
一人で出向く勇気が無かった。
直接 私が彼女たちに何かをしたわけではないが
一人だけ裏切り者のような気分を捨てることが出来なかったのだ。
そして同窓会のことは すっかり忘れていた。
とにかく毎日が退屈だった。
特別心配事も無いのに寝付けなかった。
ダラダラした生活をして体を動かさないからかな?
そう思い気にもしていなかったが確かに睡眠不足だったようである。
夏休みになって弟君が帰ってくるのだけを楽しみにして過ごしていた。
一日が何時間にも感じられ時間の感覚が麻痺してしまう日があった。
自分が何をしていたのか?解らない。
ぼ〜っとしたまま時間が過ぎていることに気が付くのである。
「え・・?もうこんな時間なの?」と自分でも愕いてしまう。
半日 ぼ〜〜っとしていたこともあった。
夏休みが来るのが遅く感じられた。
「待ちきれない」そんな思いで
休暇をとって自分から会いに行くことにした。
私らしくない行動だったが弟君は 勿論喜んでくれた。
久しぶりに彼の顔を見て安心した私は その日ぐっすりと寝た。
眠りから覚めた私に彼が聞いた。
「同窓会 楽しめた〜!?」