お悩み、なんでも解決いたします。
人生とは、時に残酷なものだ。
そして時に華やかなものだ。
ただ、辛かったり幸せだったりするだけじゃ人は皆、死のうとしてしまうからだ。
ある時、私はファーストフード店にいた。なんの変哲もない、ただのどこにでもある飲食店だ。
そこで、男の話を聞いた。
「最近、毎日がつまらなくてつまらなくて。ただの普通の日常が繰り返されている気がして。どうすればいいでしょう。」
ただのファーストフード店に出入りして、そこで相談しているのは確かにつまらないなと思った。私はとりあえず当たり障りのない返事をした。現段階では、男がどんな思想の持ち主で何を求めているのかわからなかったからだ。
趣味を見つければ、とか出会いを見つければ、とかそんなところだ。
そこで納得したらそれで私の仕事は終わりで、なんとも楽なものだったという感想を胸にそこを去るのだが、流石にそうそう簡単に納得する人は現れなかった。
案の定、男は納得せず私を詰り始めた。
「なんだ、お前は。何でも解決してくれるというから相談を持ちかけたのに、金だけとって逃げるつもりか。」
そんなことがあれば、あなたは詐欺に遭ったということで周りに自慢話の如くとうとうと話せるではないか。何でもない、ただの普通の日常ではなくなるわけだ。実際に欺いてやろうかとも思ったけどそれはポリシーに反するのでやめることにする。
代わりにこう言ってやった。
「いいえ、違いますよ。何でも解決する、というのには誤解があります。お客様が納得して下さるプランを提案して、そうなるように導いていくだけのことをやっているんです。」
神ではありませんので。その言葉は飲み込んで、私は笑顔を作った。
「お客様は、ただの普通の日常が嫌だと仰っておられましたが、ではこういうのはいかがでしょう。」
鞄からファイルに入った紙を取り出す。そこにはもっともらしくプランA、プランBなどと各プランの比較が円グラフとしてのっているものもあれば、仰々しく縁に金色の模様が刷られている契約書と書かれた紙もあった。その中にプランの例と書かれた紙を見つけたのでそれを机の上に置き、提案する。
「例えば、こちらに『新たな出会いを見つける』というプランがございます。お客様がこれをご希望下されば、お客様に新たな出会いが訪れるように私どもが最善を尽くします。」
相手を安心させ、信用させるにはまず、相手の目を見て話を進めることが重要だ。後ろめたいことがある者は目が泳ぎ、いかにも企んでますというような顔をしている。そんな者に仕事を頼みたいと思う人間はいるだろうか。
私は力強い言葉で相手の目をしっかり見て説明する。
「なるほど、確かに、それはいいかもしれない。君たちが俺のために出会いを用意してくれる訳だ。…だが、そうすると問題がでるだろう?出会いというのは偶然なものなのだからそれを知ってしまった時点で出会いではなくなってしまう。」
ひっかかった。
「私どもはこの道のエキスパートでございます。その点についてはどうぞご安心下さい。ただ、そのためにはお客様ご自身の働きかけも必要でございます。どうぞ、機会を見失わないように、積極的な姿勢でいてくださるとより、効果がでるかと思います。」
間違った言葉を選ばないように、しっかりと言葉を紡いでいく。
「そうか。わかった、君たちに任せよう。俺も積極的な姿勢でいることにするよ。」
男は納得した。
「料金は成功報酬という形をとっております。いまは相談料のみを支払っていただいて後は、効果に応じて満足度ごとの代金を払っていただきます。」
後払いというのも、相手が信用するための指標となる。
「そうか、では今日はこれを」
男は財布から告げてあった相談料をおいてファーストフード店を出て行った。
「これでよし。」
私は一言つぶやいてファーストフード店を出た。一仕事終わった後に外の空気を吸うのがなんと気持ちのいいことか。鬱屈した思考が広い空へ広がっていくようだ。
今日もまた、人生に悩む人を救った。
そんなことを考えると自分が神にでもなったような錯覚に陥る。
着信音が鳴った。私のケータイだと気がついて電話にでる。
「よぉ、調子はどうだよ」
たまに入る捜査の依頼を手伝ってくれている、佐々木という男からだった。
「まずまずかな。今日はいい鴨がいたからそいつを上手くあしらって適当に稼いだ」
ひゅーという口笛の音が聞こえてきて、
「お前は相変わらずセコいよな」
佐々木は少し馬鹿にするような、かといって見下してるわけではない口調でせせら笑った。
「何がだ。私はただ単に話をそいつの気にいる方向にもっていっているだけだ。」
少しムキになって言い返すと、
「そんなおこんなって。お前の話術は認めてるよ。」
諭すように言われたので何もいう気はおきなくなった。
「で?今回はどんな案件だったんだ?」
佐々木がさもこれが用件であるかのように聞いてきた。
「ただの、なんでもない日常が嫌なんだと」
「ほぉ、人間ってのはその日常のありがたみがわかってないよな。で、お前はどうしたんだ?」
うんうん、と佐々木は神であるかのように頷く。
「ただ、話を聞いて納得させただけさ。相談料という名目で金をいただいて。」
「それじゃあ、お前は相談料なんでちいせぇ金稼いだだけか?」
そんなことはないだろう、と佐々木は言ってくる。
「あぁ、もちろん、大金が入る」
ほぉともへぇとも表せないような声で佐々木が相づちをうってくる。
「人間は、消極的な者ほどなんでもない日常だ、ああつまらないというんだ。そうすると、積極的な者はどうか。そいつもやっぱりつまらないと思うが消極的な者に比べ、日々に潤いがある。自分で何かをしようとするからだ。大方わたしのところにくる人間は消極的な者がほとんどだ。積極性を持たせてやるだけで、そいつの人生は大きく変わる。それを、いかに私がやったかのように見せるかが問題だ。完全に信じ切っていれば、私のところに後払い金が舞い込んでくる。」
「へぇ、よく考えてるな」
佐々木が、そう言ったところで営業用のケータイがブルッと震えた。
「入金されました…か」
「もう金が入ったのかよ、やっぱ仕事早いなお前は。」
「今日の案件は簡単だっただけだ。で、お前は何の用なんだ?わざわざ私の仕事の内容を聞きに電話した訳じゃああるまい」
「いや、それがよ…」
「「金を貸してくれ」」
「は?」
「言うと思った。私にかけてくる時は大体そんなことだ」
「おいおい、はぁ…そうだよ金…貸してくれないか?」
「いいが、倍返しな」
「なーに言ってんだよ、お前。」
「私は冗談は言わない。」
言い切って電話を切った。やつは多分家に訪ねてくるだろう。その前に家に帰って鍵をかけねば。
比較的楽な日常が今日も終わった。