謝罪は不要
「反省文は書かなくていい。緊急時は特例で、許可なく門から出ても、処罰されないんだ」
次の日、休んでいいと伝えたにも関わらず、いつものように出勤してきた2人に呆れつつもアデルはそう伝えます。
2人は、前日の傷を治療したのか、リアークは手に包帯、額にもテープを貼っています。テンコは頬に同じテープを貼り、足を少し引きずっています。昨日は気付かなかった小さな傷が顔や手についていました。
「あ~!よかった!門を超えるヤツだけとか言ってたら、絶対取りこぼすし、街中で戦闘しなきゃならなくなるもんね。あの戦闘スタイルだと、街に被害なく済ませるのは無理だしね」
アデルは確かに、と納得します。昨日、魔物を振り回していた二人は、広い場所で戦うには適しているかもしれませんが、狭い街中には不適切でしょう。
「でも、早く剣買わないと、いつまでもあんなことしてられないよね~」
「あんなこと?」
「僕は本当は、剣士ってやつなんだよ。素手で殴るとか、よっぽどじゃないとやらないよ…怪我するし…」
「じゃあ、昨日はなんで?」
「だから、剣貸してって言ったじゃないか?!あれは、苦肉の策だったんだから!!」
「そ、それは…」
泣きが入りそうな、リアークの嘆きに、悪かったと言おうとして、向かいに立つテンコが会話に入ってきます。
「貸さなくて正解だ。こいつの剣の扱いは雑だ。無事には返って来ないぞ」
「ひっど!!僕がこんなに痛い想いをしたっていうのに…」
「自業自得だ」
「ひどいっ!!」
どこまでもマイペースな2人にアデルは苦笑しました。
交代まであと数分という時。
「おい!門番!」
3人が眼を向けると、昨日のいちゃもんをつけてきた冒険者たちが立っています。
「なに~?昨日の続き?だったら、日を改めてください~。僕ら、今日は絶不調だからね」
リアークの人を小馬鹿にしたような物言いに冒険者たちは眉間に皺を寄せます。ですが、大げさではなく、2人の顔色は悪いというより、最悪の部類です。なんで、休まないんだ?と誰もが疑問に思うくらい、最悪です。
「…話しなら、さっさとしてくれ。ケンカなら、後日にしろ」
無口なテンコも、口を出すあたり、本当に体調が悪いのでしょう。
冒険者たちは、少し躊躇いがちに、口を開きます。
「…昨日は、悪かった。…別にお前らが悪いわけじゃ…」
パチン!!
「…終わりだ」
「はいは~い♪お疲れさま~」
「え…?!ちょ…!!」
懐中時計を懐にしまいながら、テンコはリアークを促します。冒険者たちは、立ち去ろうとする2人に慌てます。アデルも唖然としてしまいます。
「あ…!っと、別に謝罪は必要ないんじゃない?っていうか、謝罪されたって困っちゃうよ」
にこにこと笑顔で肩をすくめるリアークにテンコは、ため息です。
「…気にするな。別に止めるつもりで言ったわけじゃなかった。ただの気まぐれの忠告だったんだ。お前らの心情を考えれば、責めたくなる気持ちは分かる。謝罪は不要だ」
「…そ…うか」
何やら、思うところはあるようでしたが、2人に謝罪不要と言われては、もう何も言えません。
引き継ぎが終わり、勤務時間が終わった瞬間。
テンコは、がくんと膝をつきます。
「おい!!どうした?!」
「だいじょうぶ?テンコ…?歩ける…?」
「…お前こそ、熱が出ているだろう?」
「あ!ばれた?ちょ~っと限界かな?ほら、掴まって!宿舎までは、倒れないでよ?」
テンコは膝を着いたばかりとは思えないくらいしっかりと立ち上がります。そのまま、リアークの差し出した手を掴むことなくすたすたと歩いていきます。差し出した手を虚しく振ると、リアークはぼんやりとテンコの背中を見つめます。
「…行くぞ」
「あれあれ?僕の方が、重症みたいじゃない??」
「…貧弱だな」
「ひっど!!」
言い争う2人は、すたすたと歩いて行ってしまいました。
その場にいた誰もが茫然と見送ってしまいました。
そして、ハルファンドにいた者以外にそんな2人に注目する者が、3人…。
□□
「少しばかり、目立ち過ぎじゃのう…。しかし、あれほど強いとは…予想外じゃな。あの2人…」
□■
「…あらあら…。そんなにお強いんですの?噂の門番殿は…。でしたら、もっと2人を監視して、報告をお願いいたしますわ。より、利用できそうな方を見極めましょう。ふふふ」
■■
「へ~。今までの門番と違って、なかなか強いではないですか?おもしろそうな奴らですね。これは、ぜひ接触してみないと」
□□
そんなこんなで、くせのありそうな3人に眼を付けられてしまったテンコとリアーク。
ハルファンドの城塞都市の新たな門番になりました。
「ところで、テンコ。今日はえらくお優しかったね~!」
「…なにがだ?」
「気にするな、なんて。ぜ~ったい言わないような言葉じゃない?」
「…ふっ」
「ん?僕、おもしろいこと言った?」
「…人間関係の構築には気を使うことも重要だ」
「おお!!なになに、そのオトナな発言~!!?」
「…いいから、さっさと医務室に行くぞ!ダイアウルフの牙と爪の毒は一日でどうにかなるものじゃない。明日が休みとはいえ、さすがに限界だ」
「あ~!さんせ~…」
彼らは今日も職務にのみ忠実でした。
一応、終了ですが、3人ほど不明なキャラを出してしまったので、続きをシリーズで書くかも?
《ダイアウルフ》
昔、アメリカ大陸にいた大型の狼だそうです。体長は、1.5mあったとか…。それの倍以上って…。大きすぎる!!深く考えていなかった弊害が…!!現実は毒はないです。




