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超能力者から学ぶゾンビの倒し方  作者: 風切ツバメ
第1章: 夜明け頃
8/22

<8>

 壮太も起き、3人で話し合いを始める。


「じゃあ早く決めるわよ。今日何をするかだったわよね。私は食糧調達をするべきだと思うわ。こんな事態になってるんだから、生存者は保存食の類を確保して、少しでも安全を確保しようとするはずよ。それらが取り尽くされる前に頂かなきゃ」

「僕は拠点の確保をしたい。できればコンテナハウスみたいなものが欲しい。あれなら簡単に飛ばせるし、いつまでもここが安全だとは限らないからね。今のうちに必要な荷物を詰め込んでそこに住めるように隠れ家を作っておいて、いつでもテレポートで逃げれるようにしておきたい」

「俺はアイツらに早く慣れるように、戦闘訓練をするべきだと思うぜ。今のままじゃいざアイツらが目の前に現れた時に思ったように動けなくて、殺されることはなくてもかまれる可能性が高い。だからいろいろ活動して危険な状況に陥る前に、ある程度戦えるようにしておいたほうがいい」

「見事に意見が分かれたわね」

「だね、でもどれも必要なことだと思う。問題は順番だよ」

「そうだな、どうしたもんか」

「とりあえず、緊急性の高いものからやろう。放っといたらマズい物からいって食糧調達、戦闘訓練、コンテナハウス、の順番でいいかな」

「賛成よ」

「俺もだ」




 ***




 着替え終わって三人ともリビングに集合した。朝のことがふと思い出されて美紅のほうを見ると、まず背中にかけてある、僕の腕の長さぐらいの大きなクロスボウが目に入った。とても威力が強そうだが、大きさはともかく重さは問題なさそうに担いでいる。おそらく軽量加工が施されているものを持ってきたのだろう。

 ズボンは僕のジーンズから変わって、丈夫そうなスポーツズボンになっていて、上はシャツにグレーのパーカーを羽織っている。おそらくどちらも防刃のものだろう。グレーの服に金髪がよく映えてとても似合っている。


 壮太は左手に盾を持っていなかったし頭にヘルメットもつけていなかった。おそらく存外に使い勝手が悪かったのだろう。


「じゃあ行こうか、飛ぶから集まって」

「まって、どこに飛ぶの?」

「近くの小さなスーパーだよ。大きなところだと怖いからね、主に数が」

「いいわね」

「だな」


 そう言って、二人とも手を差し出してくる。その手を両手ともしっかり握って、僕は飛んだ。


 飛んだのは僕の近くの百坪くらいしかない小さなスーパーだ。小さい店の中に所狭しと棚と商品が並び、連日地元客で賑わっている。この事態が発生したのは平日の昼すぎくらいなので、おそらく専業主婦の皆さんぐらいしかいないだろうと踏んだ。


 しかしそれは浅はかな考えだった。とりあえずといつもお世話になっている、二つの棚に挟まれたお菓子コーナーに飛んだのだがレジ側に1、鮮魚側に3のアイツらがいた。焦って戦闘を開始しようとしたところで


「しっ、落ち着きなさい」


 美紅が言った。そして鮮魚コーナー側にいるアイツらを指さした。


「アイツら私たちに気づいていないわ。いい機会だからどうやって獲物を認識するか、試しておくわよ。とりあえず充、あそこ三つ頼むわ」

「うん、わかった」

「それといつまでもアイツらっていうのもわかりにくいから、もうゾンビって呼んじゃってもいいかしら?」

「そうだな、俺はいいぞ」

「うん、りょーかい」


 僕は話が終わると、一か所に固まってゆっくりと歩いていた三匹に狙いを定め座標を固定する。息を殺して約7秒後、三匹同時に紙をを飛ばして首を落とした。他は寄ってこない。どうやら近くにはいないらしい。


「オーケー、じゃあ反対側の首に座標を合わせて、終わったら壮太が何でもいいから音を鳴らしてちょうだい」

「座標指定は完了」

「了解、じゃあ手鳴らすぞ」


 壮太は斧を棚に立てかけて、手を広げると勢いよく鳴らした。パァン、という音が響き、それに反応するように明後日の方向を向いていたゾンビがこちらを向き、僕らをギョロりと目玉を動かして捕捉したように見えた。


 その瞬間僕は紙を飛ばしてしまったから、本当はどうだかよくわからなかったけど。


「お、おい、いま俺たちの方見たよな? 眼球動いてたよな?」

「そう、ね。充が咄嗟に殺すのもわかるわ。あの眼は寒気がするもの。あと音にも確実に反応したわね」

「じゃあ音で探して目で捕捉する、みたいな感じかな?」

「ええ、見る限りではそんなところね。他の要素は今の実験じゃわからないけれど」

「そんじゃあ極力音をたてないように食糧調達するか。まずはこのお菓子の山をもらおう」

「賛成よ、お菓子は意外ともつものね」

「いや、俺はただ甘いもの食べたいなぁ、と思っただけなんだが。まぁいいか」


 壮太は意外と甘党なのだろうか。三人でお菓子をリュックサックに入れると、その場を後にした。


 向かったのはレトルトやカップ麺など保存用食品の置いてあるコーナー。


「体に悪そうとか言ってられないよなぁ」

「そうだね、生鮮食品はすぐ腐っちゃうし」

「近いうちに栄養源の確保も必要ね、長期間この状況が続くなら必須だわ」


 僕はいつも高くて手の届かなかった高めのものを選んでいく。これぐらいの贅沢は許されるだろう。明星極麺、一回食べてみたかったんだよね。


「あとは飲料水ね」

「まあ、風呂に貯めてある水はあんまり飲みたくないしね」

「あとはガスコンロとかも要るな」

「りょーかい、じゃあ跳ぶよ」


 目を開くとさっきの鮮魚コーナーが見える。僕は即座に壁を後ろにして左を向いて、メモ帳とカビゴンで手に入れた大ぶりのカスタムナイフを構える。壮太は正面に斧を、美紅は右に向けてクロスボウだ。目に見える範囲にゾンビがいないことを確認すると、僕らは一息ついた。

この陣形は昨日の夜にお互いの装備を見て決めておいた。もし跳んだときに至近距離にゾンビがいた時に、すぐに対応できるようにしたものだ。


 陣形を崩すと壮太、僕、美紅の順で飲み物コーナーへ向かう。その途中にもゾンビは数匹いたが、遠距離からテレポートで危なげなく倒していく。このスーパーでは、この暑い夏にやられて、飲み物を求める人々を店へ入れるために、飲み物コーナーを入り口付近に設置してあるらしい。店長の一人息子とは友達だったので、そんなことも覚えていた。


 じりじりと進んでいくと、入り口付近で数匹のゾンビがいるのを見つけたが、無視して床にレジャーシートを引きその上に水を載せていく。他にもこれを取りに来る人はいるはずなので全てとっていくわけにはいかないが、半分ほどはもらっていくつもりだ。

 

 黙々と作業をしていると見張りをしていた美紅が無言で僕の肩を叩いた。指さす先には人、それも制服からして学生だ。入り口にあるスロープからちらちらと顔を出して、ゾンビ数匹をうかがっている。

 おそらく僕らと同じで食糧を確保しに来たのだろう。三人とも背中に大きなリュックサックを背負っているのが見える。


「どうするよ、リーダー」


 今のところこちらに実害はないが、もしゾンビに見つかった場合十中八九大きな音を立てるだろう、そうすると集まってくるから危険。という風に普通だったら考えるのだが、テレポートがあるので何の問題もない。


「いいよ、作業を続けよう」

「わかったわ」

「了解」


 そのまま12本入りの箱を移し替える作業を続けて、3分ほどたった頃。金属製のものが何かにぶつかったときに立てる独自の、よく通る音があたりに響き渡った。




 ***




 咄嗟に顔を向けて状況を確認すると、三人ほどの学生がゾンビと戦っている。驚くことに一人は女子生徒だ、しかもその子は素手で戦っていた。素早いフットワークで両手を駆使して肩と胸と顔面を狙い、うまくバランスを崩している。

 しかし状況は良くない、数が多い、倍以上いる。男子二人も金属バットを振り回して頑張っているが、囲まれてしまえばおしまいだ。壮太と美紅もそれに気づいたらしく、難しい顔をしている。


「どうするよ、多分このままだとあの三人、死ぬぞ」

「そう、ね。でも助けるのも、リスクが大きいわ」

「確かにな、あの数は危険だ。しかも音で他も集まってくる」


 その通りだ。倒すのは論外として、逃げるにしても音がネックになる。


「ここはあの人たちには悪いけど、おとなしく逃げたほうが得策だわ」


 確かにそちらのほうが得策だろう。僕たちには何も被害がない。けれどその考えをどこか否定する自分がいる。


「そうだな、残念だがここは」

「でも、テレポートを使えばいける! かも」


 話が決まりそうになったところで、僕は咄嗟に壮太の話を遮ってそういっていた。


「いいのか!?」

「危険よ?」


 僕らはテレポートを、仲間内以外では使わないと決めていた。この能力は今この世界では大きなアドバンテージとなる。それにこの力はそもそも人間として異常だ。壮太と美紅は受け入れてくれたが、異常、異端は迫害されて狙われるのが世の常だ。知られたら何をされるかわからない。

 

 でも、それでも。


「目の前にいる人を助けられるのに助けないのは、何か違う気がするから」


 そう言うと、二人は驚いた顔をして僕を見た後、少し黙り、そして笑い出した。


「ふふっ、あはは、そうね。なんたって後味が悪いわ、眠れなくなりそう」

「ははっ、確かにそういう経験をするのは、本当に無理な時だけで十分だ。すまん、弱気になっていたみたいだ」

「いや、僕もだよ。多分二人がいなかったらすぐに逃げてた」

「オーケー、じゃあとりあえずあの3人を連れて逃げる方向で行くわよ」

「おう!」

「うん!」


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