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超能力者から学ぶゾンビの倒し方  作者: 風切ツバメ
第1章: 夜明け頃
5/22

<5>

 三人とも仕事がひと段落したみたいだ。成果を見せ合う。


「俺は園芸用の緑の棒数本と、包丁を組み合わせて武器を作った。これなら刺すにも押すにも使えて、柔軟性が高くて壊れにくい。四本丸めてあるから、そう簡単に折れ曲ったりもしない。これが2本だ。」


 園芸用の緑の棒4本をひもで縛り、先に包丁がついている。よく見ると竹棒一本一本に結び目があり、包丁は刃と柄の間の部分でかなり厳重に紐を結んである上、柄の先の穴にひもが通してあってそれが竹棒とつながっていて振ってもブレなさそうだ。弱そうなところはガムテープで舗装してある。

 僕はとりあえずそれを持ってみた。長さは包丁の先まで入れて、だいたい1、5メートルくらいだ。誰もいない空間に向かって刃を先にして思いっきり振ってみるが、びくともしない。


「凄いわね、よくこんなもので、これだけのものが」

「ほんとに。助かるよ。これでとりあえず武器は大丈夫だね」

「ははは、照れるな」


 と渡井はイケメンスマイル。次は渋谷さんだ。


「私はとりあえずサバイバルの技術を主に調べたわ、データフォルダに全部入れてあるから。あとはパソコンが使えなくなる前に全部印刷しちゃいたい。アイツらの情報も一応調べてみたけど、これは情報が多すぎてどれが本当かわからない。自分たちで調べたほうがよさそうね」

「確かに。いざ戦って、やっぱり情報と違いました、じゃ話にならないからな」

「りょーかい、じゃあ渋谷さんはコピーを頼むよ。印刷機はそこにあるから。インクは使ってないから十分に入っていると思う」


 これから電気もガスも止まるかもしれないから、そういう知識は絶対に必要だ。やっぱり居てくれてよかった。


「最後に僕か。僕はそんなに特別なことはしてないんだけど、とりあえず片っ端か蓋のある容器に水を入れてって、蓋のかからないものはお風呂場に置いてある。たぶん全部で300リッットルくらいは行ったんじゃないかな。」

「そんなにためられるのか、凄いな」

「やっぱりお風呂と洗濯機が大きいね。でもいざとなったら水はスーパーとか荒らしてテレポートで大量に持ってくればいいから、そんなに心配はいらないと思う。部屋漁りはいろいろ出てきたよ」

 

 そう言って僕は、戦利品を広げた。


・シャベル(武器に使える)

・電波腕時計

・ウィダーインゼリー、カロリーメイトなどの携帯食料

・自家発電ライト、テント、コンロ、リュックサック

・防犯ブザーや古くなった携帯電話(アイツらが音に反応す場合)

・バールのようなもの(鈍器)

・消臭剤(アイツらが臭いに反応する場合)

・ローラースケートのすね当てやひじ当てやヘルメット(防具)

・救急セット


「結構出てきたわね、本当に使えるかどうかわからないものも混ざっているけど」

「でもシャベルはいいな金属製で頑丈だしな」

「うん、これは渡井に使ってほしい。一番荒事に強そうだから」

「そうね、頼むわ」

「おう、任された!」

「よし、結構準備も整ったし、ご飯食べて少し休憩しようか」

「「賛成!」」


 と全会一致で休憩することになった。しかしこれで、だいたい準備は整った。整ってしまった。そろそろ活動を始めなくてはならない。


 時計を見るともう、針は2時を回っていた。




 ***




 料理をどうしようかと悩んでいたところ、渋谷さんの立候補により料理当番は渋谷さんに決定。その後焚いてあったお米と早々腐ってしまいそうな野菜と肉をふんだんに使ったチャーハンをいただいた。美味しかった。今はフローリングにあるちゃぶ台の上に三人分の空の皿が置いてある。


「そろそろ外に出てみないか?」

 

 初めに口火を切ったのは渡井だった。すごい勇気だ、思えば学校でも、あの時まともに口を聞けていたのは渡井だけだった。


「確かに準備も結構整ったし、そろそろ活動を始めないといけないわね」

「じゃあ、どこに行く?」

「やっぱりまずはちゃんとした武器とか防具をそろえるのが先じゃないか? いくら武器を作ったとはいえ、間に合わせでしかないからな」

「そうね、アイツら用にとりあえず飛び道具がほしいわ。あとちゃんとした防具も。アイツらについての研究はきちんとした防衛手段を持ってからのほうが安全ね」


 そう言うと渋谷さんは最寄りのミリタリーショップを調べてくれた。ちょうど駅の近くのよく知っている通りにあるみたいだ。これなら直で店の前の通りまで飛べる。なんと店名はミリタリーショップ・カビゴン。ダサいとかそれ以前に名付け親の人格を疑わせるようなネーミングだ。


「よし、じゃあとりあえずそこに行って、色々とかっぱらって、テレポートで戻ってくると。それでいいか?」

「待ちなさい、アイツらいた場合はどうするのよ?」

「今の武装でも行けそうだったら倒して、無理そうだったら帰ってくるってことで。それでいい、渋谷さん?」

「わかったわ、それと苗字で呼ぶのはやめなさい。これから命を懸けて行くっていうのに、渋谷さん、は違う気がするわ。私のことは美紅って呼びなさい」

「そういや俺のことも名字で呼んでるよな、ミツルは。これからは壮太ってよんでくれ」

「う、うん。わかったよ、壮太にみ、美紅」

「よろしい」

「おおー、なんだか新鮮だな~」


 人を名前で呼ぶのは苦手だ。でも今回はなぜか悪い気はしなかった。


「じゃあみんなそこらへん漁って、なるべく頑丈そうでかつ動きやすい服に着替えて、もしアイツらがテレビに出てくるようなゾンビなら、かすっただけでも危ないからね。美紅は風呂場のほうで頼むよ」

「「わかった(わ)!」」




 ***




 結局僕は革ジャンにジーンズという無難な格好に落ち着いた。僕の場合はすぐに二人を連れて転移できるように、手に物は持たないで、背中に壮太特製の竹棒槍(今命名)をひっかける。左手首には電波腕時計を巻いて、ポケットには秘密兵器である剥がせるタイプのメモ帳を収納。

 

壮太は下は薄茶のカーゴパンツで、上は少しでも動きやすいようにと着慣れている学ランを着ている。右手には金属製シャベルを持ち、ベルトには一応防犯ブザーをつけている。

 

美紅はさんざん悩んだ結果、僕のスキニージーンズをはき、上には今日来ていた学生服を着用していた。念のためと肘あてをつけている。右手には壮太特製竹棒槍を持って準備万端な様子だ。回収したものを入れる大き目のリュックサックを追加で持ってもらう。

 テレポートのおかげで、余計な物を持って行く必要がないのでみんな結構身軽だ。


「よし、じゃあ、店の前の通りまで一気に飛ぶよ!」

「おう」

「わかったわ」


 二人の返事を聞くと、僕はいつも通っているその通りを思い浮かべて、音もなく飛んだ。

 


 目を開けるといつも通学に使っている通りだ。けれどいつもとは違い不気味なくらい静かで、あたりにはところどころ血が飛び散っていて、ぼこぼこに殴打されてもう原形をとどめていない死体や、頭の潰れている死体や、胴体と頭部が泣き別れしている死体が数体転がっている。

 それを見て僕たちは一瞬固まり、顔をゆがませた。


「ひどいな、これは」

「違いないわね」


 けれど二人とも話す余裕はあるみたいだ。さっき一度見たからだろうか。それにしてもアイツらも人間もいない。この通りの近くには緊急時に避難所に指定されている小学校があるから、そちらに生きている人間は逃げて、アイツらはそれを追っていたのだろう。


「こっちよ、ついて来なさい」

「わかった、先導は頼むよ」


 美紅について行くと、黄色い看板に赤い文字で大きく『カビゴン』と書かれている店の前に来た。どうやら店主はネーミングセンスだけでなく色彩センスも絶望的だったらしい。しかしシャッターが下りている。

 裏口に回ってみるとドアが開いていた。壮太が扉を開けてシャベルを構えながら中に入ったので、それに僕と美紅で続く。


「すぐに飛べるようになるべく離れないで」


 じりじりと狭い店内を壮太、僕、美紅、の順で少しづつ回る。そして棚を二つ挟んだモデルガンコーナーにソイツは居た。

 

赤黒く汚れた肌。限界まで見開いた眼。血のべったりと付いた口周り。そんな奴が僕たちの前に、幽鬼のように立っていた。咄嗟ポケットの中のメモ帳を震える手で取り出そうとするも、取り落としてしまった。


 しかしそんな中、僕の前にいる壮太は震える背中でシャベルを両手に持ち一気に大上段まで振り上げた。


「う、うおおおぉぉおおおおおお!」


 雄叫びとともにシャベルは驚くべき速度でソイツの肩口に、深々とのめりこんだ。


「やったか?」


 そう言って壮太は、肩で息をしながら首だけでこっちを向いた。僕はソイツが止まったのを見て安堵しメモ帳を拾い上げて言う。


「うん、どうやら、死ん」


 死んだみたい、と言おうとして止まった。


「(死んだなら、なんで倒れない!?)」


 僕は咄嗟にメモ帳から紙を二枚剥がすと、ソイツの位置を確認する。思考はもう追いついていない。

 その瞬間、ソイツの目がギョロリとこちらを見て、本能的に僕は二枚の紙を飛ばしてソイツの首を、切断した。


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