生ハムメロンと義妹
春の暖かな風に揺れる、満開の桜の下。ビニールシートを引いたうえに、豪華な重箱を嬉しそうに広げているのは、桜の妖精かと見間違うほど清らかで愛らしい少女だ。
「さあ、たんと食べてくださいねぇ、おねぇさま?」
小首を傾げ、頬を桃色に染めて少女は見つめる。その先には、げんなりとした様子の少女がいた。おねぇさま、と呼ばれたその少女は重箱とニコニコ笑う桜の妖精ーー否、義妹の桜花を見比べた。
「はい、あーんですわあ」
「……ね、ねね、桜花さん? それ、なに?」
「生ハムメロンですわ、おねぇさまは生ハムメロンがお好きでしょう?」
おねぇさまこと、瑛子は確かに生ハムメロンが好きだ。だがしかし、花見の席に似つかわしくない。さらにいえば、重箱の中身。
「桜花さん、あの、生ハムメロンばかりだね……? も、もしかして、ぜんぶ」
「おねぇさまの大好きな生ハムメロンですわよ!うふふ」
「ひょえー! 五段の重箱ぎっしりの生ハムメロン!? いや、すごい贅沢だけど!」
「三ヶ月分のお小遣いを費やしましたの!」
にぱーっと桜花が笑うと、瑛子はもはや何も言えなくなり、引きつりつつも「ありが、とう、桜花さん」と礼を言い、ぱくんと生ハムメロンを食べた。
「おいしーよ! ほんとにありがとうね」
「おねぇさまっ……!」
歓喜極まり桜花は瑛子に抱きつく。瑛子はよしよしと桜花の頭を撫でてやる。
「桜花さんも食べよ?」
「あーんしてください、おねぇさま」
「はいはい、あーん」
桜花は幸せそうにもぐもぐと食べつつ、上目遣いで瑛子をみつめる。その視線に気づきつつも、瑛子は義妹に目をやることなく桜を見上げた。からりと晴れた青空。
「愛してますわよ、おねぇさま」
「うん、ありがとう」
瑛子は桜よりも空が気になって仕方なかった。