降り止まぬ雨、少女の雨
「む、雨よ、濡れておるではないか!」
「月狐、傘とタオルを持ってきてくれ!」
「かしこまりました」
「おかしい…。確かに強大な魔力の存在を感じる。なのに何故身体を覆わない?」
普通上級魔族の有り余る魔力は自らの身体を覆う。
そうすることで雨風や寒さ、暑さなどから身を守るのである。
また、魔力によっては『領域』なるものを作り出すことも出来た。
「仕方ない。原因を調べるのは後だ。」
今は雨(さめ)を暖めるのが先だ。
雨は今全裸である。
このままでは風邪をひいてしまう。
「……お母さん?」
「ん?何だ」
「…それ」
現在禍は〈暖〉の魔法を使用していた。
雨は魔法印と呼ばれる光を見つめていた。
「これは魔法印だ。いずれ雨にも教えよう」
「……ん」
「……暖かい……」
* * * * *
「魔王様」
雨が眠ってしまった少し後に月狐は帰ってきた。
その手にはタオルと傘が二本あった。
そのままタオルを雨の身体に巻く。
「すまない。急いで帰ろう」
「跳んで帰えりますか」
「雨を起こさないようにな」
月狐が〈空間跳躍〉を実行する。
一気に周りの景色が変わり、和風の屋敷の前へと現れる。
「むぅ…やはり慣れんな…」
「魔王様は散歩をすこし減らした方が民のためでは?」
魔界最強の魔王がホイホイと歩いてくるのではたまったものではない。
「雨様の衣服を用意しました」
「早速着せてみよう」
「似合っておる……」
黒の浴衣はとても似合っていて、幼い外見のせいか儚く見える。
「ああ、可愛いなあ……」
禍は起きてしまうぞ!といいたくなるくらいに子の頭をナデナデしていた。
「雨様の魔力を調べるのでは?」
「そうだった!!」
早速〈魔見〉を使用する。
「!!!」
禍の顔色が急に悪くなる。
顔中には一瞬で汗がついていた。
「どうされました!」
魔王の顔色を変えるような事だ。
珍しく月狐が緊張した様子で尋ねた。
「三十倍だ……」
「え?」
「私の三十倍の魔力の量をこの子は秘めている」
「…!!で、でもそれなら何故身体を覆わないんです?」
「雨の魔力は強大すぎる。身体に収まらなかった魔力の行き先は……」
「空だ」
空を覆っていた雲。降り注ぐ雨。
雨(さめ)は名の通り雨を宿す魔族ということだ。
「幸い、雨(あめ)は魔力を帯びている。木々共は適量だけを吸収するから問題はないだろう」
「しかし、雨様の身体を覆っていないとなると…」
「ああ、雨を防ぐ傘が必要になる」
禍の手に傘が現れる。
「この傘は私の魔力で創った物だ。破れないだろう」
黒い紙の傘は黒い少女に。
禍は雨の黒い髪を撫でる。
「お前の将来が楽しみだ」
「起きたらこの傘をプレゼントしよう」
次回
少女を守る傘、それは家族。
次に彼女が得るものは…