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エピローグ

 1942年9月21日。

 PQ18船団は、ソ連の都市アルハンゲリスクに到着した。ドイツ軍の攻撃で沈んだ船は13隻であり、前回のPQ17船団に比べれば遥かに良いけっかと言えるだろう。



「……まったく」


 積荷の陸揚げ作業を眺める、モーンの表情は暗かった。彼女はまた、同僚の商船たちを多数亡くしたのである。しかし輸送船団の一員として数度の戦場を経験してきた彼女にとって、それが日常になりつつあった。仲間が櫛の歯が欠けるように死んでいくことも、魚雷や爆弾が迫りくることも。死の恐怖に抗ううちに、自分の心が少しずつすり減っていくような感覚さえ覚える。やがて悲しみも悔しさも、全てすり減って無くなり、後に残るのはただの人形となった自分……そんな妄想さえ湧き起こってくる。

 アルハンゲリスク……ロシア語で『大天使の町』を意味する、無駄に縁起の良い町の名前にさえ、モーンは腹を立てた。海に沈んだ仲間たちの魂は、天使たちに手を引かれたのか。それとも暗い海の底で、今でも助けを求めているのだろうか。そして彼らの死は、ナチス打倒のためのささやかな犠牲として記録されることだろう。英霊だのなんだの、都合のいい言葉で飾り立てられて。


 寒気が、彼女の身を襲った。北国の寒さではなく、厚着や灯火では癒せない寒さが。


「誰のせいで……」


 自らの体を抱きしめ、モーンは寒さに打ち震えた。


「誰のせいですの!? こんな戦争ッ……!」


 彼女の声が聞こえる者はいない。海が静かに波打ち、作業をする水夫たちの掛け声が耳に響く。


 仕事を終えたらしい水夫2人が、船上に戻ってきた。彼らもまた、死の旅の後で疲れ切った表情をしている。

 と、その片方が何気なく話を切り出した。


「そう言やクロフォード少尉、オストロフに着陸したんだよな?」

「ああ、無事で良かったよな」


 モーンは目を見開いた。

 首に巻いた絹のマフラーをゆっくりと撫で……微笑を浮かべる。


「……まったく」


 やっぱり、ああいう男はしぶとく生き残るものだ。

 また会えたら『死にたくない理由』を教えてくれると言っていたから、そのときにはお茶くらい淹れてやろう。体の芯から温まる、熱い紅茶を。

 そう考えていると、モーンは少しだけ愉快な気分になってきた。



「そう、私は船魂……その日その日を、海に生きますわ」






























 記録には、PQ18船団の商船『エンパイア・モーン』から飛び立ったハリケーンはHe111を1機撃墜、ソ連領オストロフ飛行場に着陸した、と記されている。


 『CAMシップ』はやがて、より大型の『MACシップ』や正規の護衛空母が配備されるようになると、その役目を終えた。

 生き残った『CAMシップ』はカタパルトを撤去され、通常の商船に戻されたというが、詳細は不明である。








 ……そんな船に宿った少女と、死の空に生きる男のその後を知るのは、海だけであった……






あとがき代わりの艦魂人形劇



モーン「さて、お読みくださって誠にありがとうございます」

絹海「お久しぶりです。伊四〇〇潜水艦の艦魂・絹海です」

小夜「夜間戦闘機『月光』の精霊、小夜です」

モーン「アホ作者からあとがきの役目を押し付けられましたわ。まあささっとおわらせるといたしましょう」

小夜「で、本当に久しぶりの投稿だね。連載してた『戦場に咲く菊と葵』はどうするの?」

絹海「えーと、作者さんから預かったメモでは……とりあえず休止、続きを書くとしたら全体的に改訂したい、とのことです。あとドイツ空軍のお話の方はどうするか思案中だそうです」

モーン「まったく、ろくな計画も立てずに長編なんかはじめるからですわ。で、他に作者からのメッセージはありませんの?」

絹海「えーと……後に珍兵器と呼ばれるものは全て必要と困窮に迫られて生まれた物であり、特にこのCAMシップは必死さが伝わってきたので題材にした……とのことです」

小夜「無いよりマシとは思うけど、いくらなんでも着艦不可能な商船に戦闘機一機だけ搭載って苦し紛れすぎない?」

絹海「ですよねぇ……」

モーン「あら、貴女たちこそ結構な変態兵器だと思いますけど?」

絹海「う……そ、それは確かに、隠密性が命の潜水艦が、攻撃機を発進させるために浮上してどうするっていうのは分かりますけどっ!」

小夜「私は爆撃機バタバタ撃墜したもんね!」


絹海「あ、あと……イギリス軍の素晴らしい変態兵器の中から特にアクの強い奴をリストアップしたから紹介するように、とのことです」

小夜「何故に変態兵器?」

モーン「スピットファイアなどの有名な兵器なら、作者が紹介するまでもないということでしょうね。他に説明してくれる人はいくらでもいらっしゃいますわ」

絹海「確かに……では始めますね」




イギリス軍 紳士的変態兵器



その1

航空母艦『フューリアス』


モーン「ああ、これは元々1916年に完成した大型巡洋艦だったものを、航空母艦に改装したものですわ」

絹海「イギリス海軍最初期の空母ですよね。どこが変態なんですか?」

モーン「改装の段階ですわ。まず、巡洋艦の前半分を飛行甲板にしました」

小夜「前半分……? 艦橋は?」

モーン「ありますわよ。ど真ん中にでーんと」

小夜「着艦できないじゃん!」

モーン「低速の複葉機の時代でしたから、後ろから艦橋を追い越し、機を横滑りさせて強引に着艦していたそうですわよ」

小夜「どこのサーカス!?」

モーン「で、死者も出たので禁止され、後部にも飛行甲板が設置されましたわ」

絹海「……艦橋は?」

モーン「ど真ん中にでーんと」

絹海「……」

モーン「その後、ようやく艦橋を取り払ってまともな空母になりましたわ。飛行甲板は二段式で、日本海軍がそのアイディアを取り入れていますわ」

小夜「ええっ!? 初期の『赤城』『加賀』の元ってコレ!?」



その2

ボールトンポール『デファイアント』戦闘機


モーン「これは後部の4連装動力機銃座以外に武装のない戦闘機ですわ」

小夜「何それ、逃げる専用?」

モーン「戦艦の同航戦を飛行機でやるつもりだったようですけど、三次元的な動きをする飛行機にそれは無理ですわね。ウィリアムさんもこれにだけは乗りたくないと言っていましたわ」

絹海「要は、役立たずだったんですね……」

モーン「いえ、昼間に出撃したら馬鹿を見るだけでしたけど、夜間戦闘機としてはそれなりの戦果を挙げたそうですわよ」

小夜「うわ、急にシンパシーが……私(月光)といいドイツのBf110といい、二次大戦中の夜間戦闘機はみんな同じような経緯辿ってるなぁ」



その3

対空火炎放射機『ザ・シング』


小夜「……は?」

モーン「あの作者……よりによってこんなものを……」

絹海「ええと……火炎放射機で飛行機を落とそうとしたんですか? 急降下爆撃機とかを?」

モーン「その通りです。1000mくらい炎が届いたそうですわ」

小夜「無駄にスゴイ!?」

モーン「まあ、こんな物で飛行機を狙うくらいなら普通の機銃の方が早いということで。それでもちょっとだけ実戦投入されたみたいですけど」

絹海「壮大なアイディア倒れですね……」



その4

幻惑砲『ダズル・ガン』


小夜「わーいSFだー」

モーン「……これはリング状に並べた鏡のようなものを回転させ、乱反射する光で飛行機のパイロットを撹乱しようという兵器だそうですわ」

絹海「……なんというか」

モーン「まあ、こんな物で(以下略)」



その5


小夜「え?」

絹海「槍って……暗号ですか? ロケット兵器とかの……」

モーン「これはバトル・オブ・ブリテンにて、祖国防衛隊がドイツ軍上陸に備えて作った装備ですわ。手ごろな長さの鉄パイプに銃剣を溶接したそうですわよ」

小夜「……要は、手ごろな長さの槍ってこと?」

モーン「ええ」

小夜「ドイツの機甲部隊相手にこれで何をする気だったの?」

モーン「何かする気だったのは間違いありませんわ」

絹海「……」

モーン「でもこれさえ用意できない部隊は、近所の教会とかから昔の刀剣やハルバートなどを借りてきて……」

小夜「あ、もういいよ」

モーン「噂ではもっと酷い部隊では、胡椒袋で武装……」

小夜「もういいってば!」

絹海「竹槍とどっちがマシかという議論が始まる前に終わりにします」




絹海「と、こんなところですね。作者さんは……イギリスには他にもパンジャドラムとかバネ仕掛けの対戦車砲とか、変態兵器が一杯あるから調べてみてね、と言ってます」

モーン「連合国が勝ってくると、今度はドイツ軍で同レベルの兵器が作られてきましたけどね」

小夜「では、またそのうちお会いしましょう。さようなら!」

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