第1話 はじまりの生活 5
『そもそも、お前を看病し始めた頃、神子だと言うことすら知らなかった』
ジェイドは、私のベッドに腰掛けて(大きくない、ビジネスホテルの一室を広くしたような部屋なのでベッドが隣にある)、そう言う。
『お前が神子だと分かったのは、クリスに相談を持ちかけた時に、“もしや”ってクリスに言われなければ、背中の刻印にすら気付かなかったさ。……というより、お前は男の前、というより男と一つ屋根の下だというのに無防備すぎだ』
いつ見たのかと問うと、私が夏の日に、グレイスからもらった夜着をきて(そのときは夜着だというのが分からなかったのもあるけれど)歩き回っていたとき、背中の文様が透けて見えたらしい。意識しなければ分からない程度に薄かったから、疑ってみて初めて分かったのだという。
なぜだか、ブラが透けて見えるといわれたときのような気恥ずかしさが今更ながらに襲ってきた。
確かに、彼らに限らず、私は“異性”というものにたいして、そのような意識を持つのは疎いのかも知れない。と思い当たる節は元の世界でも指摘されていた。
『今だって部屋に野郎を二人も入れるし』
『えっと、あの…ごめんなさい?』
『まあいいさ。グレイス、クリスが昼過ぎに来るから、ミオの準備は任せたよ』
準備?と首を傾げると、いつの間にか持ってきていたのか、たくさんのフリルのついたドレスが見える。
もしかして、それ、私が、……着るの?
『じゃあ、着替えてくれるよね?』
にっこり笑ったグレイスに、はい。としか返せなかった。
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あの後、服を置いて出て行った男二人。
服を着たのはよいのだけれども、服が白のフリルとリボンがこれでもかとついている薄紅色のドレス。
着替えたことを伝えると、グレイスが中に入ってきて髪を結ったり化粧をしたり。
グレイスはとても器用に髪を結い上げ、まるで着せ替え人形になったような気分だった。
どうして今日は気合いを入れて着飾るのかと問えば、笑顔で昨日のリベンジだと答えた。
『僕と、ジェイド様がどれだけミオを可愛がってるのか、見せつけてやるんだよ』
『へ?』
『クリス様が、男所帯に女一人は神子にも僕たちにもキツイだろうって、ミオを引き取るようなことをいったんだよ』
『クリス、が…?』
『ミオは、僕たちはそうは思ってないけれど、政治的なアイテムとしても魅力的だしね。……本当は僕たちが侍女を雇えればいいんだけど、
色々あって雇えないから…。でも、僕たちだけでも充分、ミオに不自由させてないのをアピールしようって、ジェイド様と決めたんだよ』
笑顔でメイクまで施したグレイスはジェイドを呼んでくる。
ジェイドは一瞬驚いたような顔をしていたけれど、笑顔で似合うよと言ってくれた。
こんなフリフリドレスの似合う二十歳も、少し奇妙で、コスプレをしている気分になるんだけれど。
『ねえ、明日もこんな格好…?』
『うん、これから僕が毎日頑張る!それともドレス、きつかった?』
『え』
申し訳ないが、このドレス、いつ採寸したのか分からないが確かにぴったりで…そら恐ろしいとは思った。
けれど、このドレス。かなり重い。昨日までの服は、フリルは満載であったがここまで重くはなかった。
そして、靴はヒールが涙が出るほど高く、歩くのがヒョコヒョコになってしまう…というか、服の重みに耐えられず、ヒールが折れそうだ。
走るなんてできないし、
『僕さ、妹がいるって言ったでしょ?だから、こういうの、得意なんだよね』
『でも、会えないって』
『ここ数年の話。その前は毎日のように髪を結ってだの、ドレスを選んでだの、我が儘ばっかりの、……僕に懐いて、本当に可愛い妹だったよ』
どこか遠い目で寂しそうに言うグレイス。
『だから、苦って訳じゃないし、本当に楽しいよ』
と思ったら一瞬で切り替えてきた。
これで分かったと了承したら、本当に毎日されそうだ。
平安時代の女貴族達を賞賛したい。私にははっきり言って無理だ。毎日毎日こんな重い服を着るなんて。
返答に困ってどうしようかと思ったとき。
『きゃああああああああ』
断末魔が、家の外から聞こえてきた。
私は何も考えず、そちらの方向へ、靴を脱いで、かけだした。
一回消えちゃったので書き直したら別物になっちゃいました…
というかこの描き方なら、線の前まで前話に入れた方が良かったですね…
次回、少しグロイ表現があるかもしれません。
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(早く色々、身近に役立つ医療豆知識入れたい…!)