第1話 はじまりの生活 2
夕食を食べおわり、片付けも終わった位だろうか。
玄関が賑やかな気がして、いつもは近づかないのに玄関の方へ行ってしまった。
『あ、●△$ー?』
後悔したのは、知らない男性がいたこと。
ジェイドやグレイスはゆっくり話してくれるから聞き取りや理解ができるのだけれども、その男性は早く話しかけるので聞き取りが難しい。
しかも妙に馴れ馴れしく、どうすればいいか分からない私は逃げ出したかった。
けれど、逃げ出してジェイドやグレイスの迷惑になるのは避けたかったので中途半端にニコニコして理解不能の言葉を聞くこうとになった。
その様子におかしい、ということを気付いたのか、その男性はなにか思い立ったように私を見て、何かを一人合点していた。
『そうか』
そう言って、その男は、何かを言って私の髪を掴んで、キスをしてきた。
「ひぃいいいーーー!」
私は余りの驚きに、自分の国の言葉で、近所迷惑になるのも忘れて大きな声を上げてしまった。
『ミオ、何があったんですか?!』
グレイスがその声に走ってきてくれた。その顔を見て泣きそうになっていた私は、グレイスを盾にその男から隠れた。
『まあまあ、そんなに驚かないで。あ、グレイス、久しぶり』
『クリス様』
その名前に聞き覚えはあったけれど、私の中で‘要注意人物’の指定をうけた人物がそれだとは信じたくなかった。
『ミオ、紹介しますね。この方が、魔法師のクリス・マイヤー様です。ク・リ・ス』
グレイスやジェイドは固有名詞は一音一音区切って教えてくれる。けれど何故かいつもと違って聞き取れる気がする。
『分かりました、そこの変態の人がジェイドの言っていたクリスなんですね』
言ってから私はビックリした。日本語で言っていたはずなのに、自分の口から出たのは滑らかな異国語だったから。
日本語だからと思って、小声とはいえ、かなり失礼なことを言ってしまった。気がついても後の祭り。
『ほう…?僕を変態呼ばわりだなんて、かなり変わった子だね』
『え、え、なんで、私、言葉が話せているんですか?!というか、あああす、すみませ…ん…!』
『いいよ、別に僕そう言うの気にしないし。言葉ができるようになったのは魔法をかけたんだよ。
簡易的なものだから1週間ほどしか効果無いけど、あとでしっかりかけ直してあげるよ。半年間、大変だったね』
ジェイドの言っていた不便とは、言葉の不便ということだったのか。
どういう仕組みで分かるようになったのかさっぱり分からないが、魔法といったのか、この人は!
自分に何をされたか分からないことが少し気持ち悪くなってぞっとしていると騒ぎを聞きつけてか、奥からジェイドがやってきた。
『どうした? クリス。早いじゃないか』
『色々あってね。その子が神子なんでしょ?なかなか可愛い姿で出迎えしてくれてね』
『まあ、……それは、グレイスの着せ替え人形だから』
格好のことについて言及されているのだろうか。
私の服は白を基調にした、リボンやらフリルやらが沢山ついたワンピースだ。
他のも黒だの、青だの、ピンクだのの服はあるが、基本フリルやリボンがてんこ盛りの服。
初め見たときは、さすがに成人式も通り越してから、こんなコテコテのフリルをきるのはどうなのかと思ったのだけれども、
この世界でこういった服が普通のようなことをグレイスがいっており、それを鵜呑みにしてずっと着てきた。
半年も着ていればさすが慣れたのもあって、あんまり抵抗感がなかったのだけれども、やはりおかしいのだろうか。
『グレイス……』
『いえ、あの、ミオ』
『やっぱり、20歳の、もう小娘でも何でもない女に、このフリルはないよ!こういうの、普通は着ないんだね?』
『ミオがあまりにも愛らしいからで……って20?』
正確に言うと、半年くらいすぎたから21になってしまったかもしれないが。
グレイスが露骨に私の年齢を聞いて驚いている。
確かに、西洋風の女性というのは大人びているんだろう。
私は身長は日本人の成人女性の平均よりは少し低いくらいだったのもあってか、若く見られたのだろうと推測する。
『15くらいかと思っていましたよ……まさか、同い年だなんて』
『え、グレイスって20なの?もっと上かと思った』
この会話を端から聞いていたジェイドたちがクスクスと笑っている。
『出会って半年にして、年齢をきくとはな。普通なら、ありえねぇな。ちなみに俺は24だ』
『僕は28だよ。…ねえジェイド、僕は長旅で疲れているし、中に通してくれると嬉しいんだけど?』
グレイスが我に戻り、急いでクリスの荷物を持って中に入るのの後ろをついていった。
お気に入り登録などありがとうございます。
書くと、思ったよりキャラがたってきたことに驚いています…。
美緒が思ってたより元気です…。