第2話 手から零れるもの 2
「ベルガさん!今日の体調はいかがですか?」
ミオは優しく声をかけ、手を差し出す。ベルガは優しく微笑みながら、ミオと握手した。
「フィネから聞いたんですけれど、今日は全部御飯を食べられたそうですね。聞いたときに嬉しくなっちゃいました」
「フィネさんが作ってくれたミオさんの里の料理がおいしくて」
「じゃあ、またフィネに別の料理、教えておきます…というより、私が御飯を作りに来ますよ」
始めの挨拶が終わった頃だろうか。
ベルガが後ろにいる自分の方に興味が向いた。
「ミオさん、後ろの御方は…」
「私がお世話になっている、ジェイドです」
「あらあら……ジェイドさん、ベルガと申します。ミオさんにはとてもお世話になっています。宜しくお願いします」
「先日はアリフをありがとうございました。」
ベッドの上から優しく微笑まれ、俺は挨拶を返した。
ミオは、フィネが台所にいるからフィネの様子を見てくるように頼んだ。
台所に行くと、フィネがせわしく料理を作り置きしていた。
「フィネ」
「ジェイド様!」
フィネは俺の姿を見ると、膝をつけ、手を合わせ、最上級の挨拶をする。
「本来ならば、ジェイド様やミオ様の世話をしなければならないこと、分かっているのですが…」
「よい。ミオがここに来るようになってから活き活きとしているし、もとより私の世話はグレイスだけで足りている」
「ですが」
「構わない。お前は、ミオの喜ぶようにしてやればよい。あと、このような態度で接されると、ミオも何か感づくからやめろ」
ミオは唯一、何も知らず、俺の手を取ってくれる人間だ。それを壊したくはない。
「分かりました。……ジェイド様は、なぜ、ここへいらっしゃったのですか?」
「ミオの付き添い。まだ昼だから良いが、あいつを一人で歩かせるにはまだ不安だからな」
「ありがとうございます…私が付き添うべきなのですが」
「ベルガには、返しても返しきれない恩があるのだろう?ならば、返せるときに存分に返せばいい」
フィネは以前、ベルガに雇われ、此処で働いていた過去がある。
その際に、フィネはベルガに大変目をかけられ、可愛がられていたそうだ。
それに腹が立ったベルガの息子や孫に追われ、屋敷を追い出されるまでは。
「ベルガの血縁のものは、ベルガの世話には来ないのか?」
「なんでも、遺産の相続の話で忙しいんだそうですよ」
「なんということか」
ベルガには息子が3人、孫が8人ほどいる。
本来ならば、動けない彼女を世話するのは、ミオでもフィネでもなく、そいつらのはずだ。
「私が通い始めてから、ベルガさん、以前のようにだいぶ笑うようになられて…嬉しいんです。ミオ様にも診ていただけて、本当に…」
「いや、礼ならちゃんとミオに言え。俺は何もしていないし、俺はミオに逆に色々教えて貰っているしな」
そう、今日ついていくなら、実践でいろいろ教えてくれる、とミオは張り切っていた。
最初に握手したのも、あれは手に触れることで様々なコトが分かるのだという。
例えば、手の温度。ベルガは腎臓が悪く、貧血気味だ。貧血だと末端の血流が悪くなり、手が冷たくなることが多いのだという。
また手の感覚。腎臓が悪くなる原因の持病があるそうでそれで、感覚が無くなることもあるのだそうでそれも確認出来る。
あとは、手のむくみ。腎臓が悪くなると、水の排泄がままならず体がむくむのだという。他にも握力や爪の様子なども分かるといっていた。
部屋を追い出された後は、骨折した足の確認と、足先の感覚や浮腫などの確認をした後に、マッサージや爪切りをするのだそうだ。
さすがに女性だから見せられないとはいっていたが、屋敷でグレイスを相手に(グレイスは面白いようにひやああなど声を上げていてうるさかったが)マッサージのポイントなどを実地で教えて貰った。
だからどの位時間がかかるのか、予想はついているのでその時間を潰すだけだ。
「フィネ、今日はベルガと一緒に食事した後に、屋敷に来い。ベルガについて聞きたいことがある」
「はい、分かりました。伺います」
俺はしばらくした後に、ミオと一緒にベルガの屋敷を去った。
後から見直すと、会話しかなくて申し訳ないです…。。。
でもやっぱり、偉そうな蘊蓄になってしまった…
…手をみる、結構簡単なことなので、自分のおじいちゃんおばあちゃんに対してやってみてください。
高齢の方だと、腎臓が悪いことも多いのですが、逆に結構水を飲まなくて大変になることも多いです(エコノミー症候群の原因に)。浮腫がない場合は水を適切に飲んでいるか(唇の乾燥など)、頻尿の気がないか確認することも。。。(特に、男の方だと、頻尿が酷いから水をコップ一杯も飲まないって方もいます)
いつも健康でいて欲しいからこそ、大切な人の手、握ってみて確認してみてくださいね!爪の切り方なんかも載せたかったんですが長くなるのでカット……。。。
そういえば、アリフ=牛、です。。。
気付かれた方もいるかもしれませんが、名前etc=ドイツ・ギリシャ風、思想など(特に医学に関して)=古代エジプトを参考にしています。
(去年のトリノ・エジプト展で興奮したので…)
言葉なんかはどっちからも適当に検索してなんとなーくでつけてます。
ミオの知識は、こないだの自分の実務実習(半年)で得た知識だったり、研究(臨床系)で得た知識を使ってます。