内田樹「人はなぜ仕事をするのか」解説
◆本文のまとめ
(問1)「人はなぜ仕事をするのか」。
(答)「お金を稼ぐためでしょ?」
(問2)「では、いま君の手もとに労働の対価として得た一万円の紙幣があるとしよう。この紙幣には何か「モノとしての価値」はあるだろうか」。
(答)「……」
(問3)「一万円札はただの紙切れだ。メモ用紙にもならないし、鼻もかめない。なのに、どうしてこのモノとしては無価値の紙切れを得るために、君は貴重な時間を費やしたんだろう」。
(答)「……だって、一万円あれば、いろいろなものが買えるから」。
※一万円の製造原価は約20円ほど。一円の製造原価は約3円ほど。
「そうだね。貨幣それ自体には何の価値もない。でも、これを「価値がある」と思ってくれる人がいる。おわかりだね。一万円札に価値があるのは、それをほかの誰かが「一万円の価値がある」と思って受け取ってくれるからだ。貨幣は「誰かがそれを貨幣として受け取ってくれる」場合に限り、つまり、次から次へと確実に「パス」されてゆく(受け取られていく)という「期待」(信用・信頼)の上に初めて貨幣は貨幣として成り立つのだ」。
※一万円自体にはあまり価値は無い。その価値は、「一万円の価値がある」という「期待」(信用・信頼)の上に成立している。
「だから、その「パス」の途中で誰かが「これは受け取れない」と言った瞬間に貨幣は無価値になる」。
・「期待」が喪失するケース
…「インフレーション」、「明日日本が破産する日」・「明日になったら無価値になるとわかっている貨幣」
◇「つまり、日本銀行券が貨幣として流通しているのは、日本政府は不滅であり、日本銀行券は世界が終わる日までモノと交換可能である、という幻想を私たちが共有しているからなのだ。「幻想」の上に成立するものであるからこそ、サクラガイでも金属片でも紙切れでも電磁パルスでも、どんなものでも貨幣になり得るのである。貨幣の条件は「それがすでに貨幣として流通している」という既成事実以外にはない」。
・「貨幣」という「不可思議」な存在
(問4)「貨幣の本質って何?」
(若手大蔵官僚の答)「運動でしょ」
「なるほど。貨幣の本質は運動にある。より正確に言うならば「運動を継続させること」にある。貨幣や商品とは「くるくる動き回るもの」である。市場とは「ものがくるくる動き回る場所」である。単純だが、実はこれこそ貨幣・商品・市場の本質規定なのである」。
「どうしてそうなるのかというと、私たちは何かが「くるくる動き回る」のを見るのが大好きだからである。理由はわからない」。
※「市場」…マーケット。モノが売買される場。
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・「何かが「くるくる動き回る」」こと
=「何かと何かを交換する」こと
=「交易」
「人間は必要に応じて物を交換すると普通は思われている。だが、ネアンデルタール人からクロマニョン人への決定的な飛躍は、むしろ逆に、交換が欲望を生み、必要を生んだことを教えている。」(三浦雅士『考える身体』)
✕「余った魚と余った野菜を交換したのが交易の始まりである」
〇「クロマニョン人はとにかく交易がしたかった。そこで、海の人は「必要以上に」魚をとり、山の人は「必要以上に」野菜をとったのである」。
「交換したくてたまらないものだから、無理して大量に採集し栽培したのである」。
「かくして労働が発生し、分業が発生し、貧富の差が発生し、階級(身分差)が発生し、国家が発生する」。
◇「この話のポイントは、私たち現生人類は、モノが大量かつ迅速かつ広範囲に交換されることが好きで好きでたまらないということである。理由はわからない」。
◇「貨幣は交換を加速するために最も効率のよい道具」。
→「貨幣形態の変遷(奴隷や貝殻から貴金属、紙幣、電磁パルスへ)は、「できるだけ速く、大量に、かつ広範囲に」モノが動くことを目ざして果たされた進化の帰結」。
(改めての問)「仕事とは何か?」
(答)「それはクロマニョン人が好きで好きでたまらないこと、つまり「モノをくるくる動かすこと」である」。
◇「お金を稼ぐことを望むのは、お金が「くるくる動く」ことそのものの純粋な「記号」(証拠、象徴)だからである」。
「出世を望むのは、上司に「くるくるこづき回される」ことより、部下を「くるくるこづき回す」ことのほうが人間の本性にかなっているから」。
「よい営業成績を上げたいのは、それが財貨やサービスが「くるくる動いた」ことの証拠だから」。
「店を繁盛させたいのは、そのほうが「はやらない店」よりもたくさんの人が出入りするから」。
「よいパフォーマンスをしたいのは、そのほうがつまらないものを見せるより多くの人がほめたり、けなしたり、笑ったり、感動したり、せわしなく「くるくる動き回って」くれるから」。
◇「「仕事をする」というのは、「他者を目ざして、パスを出す」(他者にモノや金を動かす)という、ただそれ「だけ」のことである」。
◇仕事の目的・意味・本質
✕「自分のために」、「自分に向けて」、「自分に何かをもたらし来すために」、「自己実現のために」、「俺の生きざまを示すために」、「自分探し?」。
〇「仕事の本質は他者を目ざす運動性(活動、関係性)のうちにある」。
「仕事を通じて私たちがしようとしているのは「パスを出す」ことである。多彩で予測不能の攻撃の起点となるような絶妙の「パス」を「次のプレイヤー」の足もとに送り込むこと、それだけである」。
※「仕事」は他者との関係性によって進む。金、モノ、情報を渡すことによる他者との関係性を構築するために、人は働く。
◆感想
・筆者は、「お金を稼ぐことを望むのは、お金が「くるくる動く」ことそのものの純粋な「記号」だからである」とする。しかしこれには貯蓄の概念が見過ごされている。不景気が続く日本において一般庶民は、投資に向かう富裕層に比し、自分の所に回ってきた金をそこで止めようとする。
・金の本質は「くるくる動くこと」にあることと、仕事の本質も「他者を目指す運動性のうちにある」と同列に扱うのは、論理展開に難があるのではないか。また、「出世」や「営業成績」等の説明の部分も無理がある。その目的が、そうではないことの方が多いからだ。
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