第3話:聖女の微笑、王城への進撃
町での一件から数日後、私は神殿で書類や情報を整理していた。
手のひらにはまだ微かな光の余韻が残る。人々の笑顔が、胸の奥で静かに満ちていく。
――小手調べは終わった。次は、王城だ。
私の目には、王城と貴族たちの腐敗の全貌が浮かんでいた。
横領、裏取引、陰謀……そして、民の苦しみを楽しむ者たち。
すべて、魔王の知識で把握済みだ。
騎士のレオンが私の前に現れる。
銀の鎧が夕日に光る。彼は私に深々と頭を下げた。
「聖女様、王城へのご出立の準備が整いました」
私は微笑む。
その笑みは、慈悲深い聖女の顔。しかし胸の奥には、魔王の冷徹さが潜む。
「ありがとう、レオン。明日には王城に到着できるわね」
翌日、王城の門前に立つと、騎士や使者たちは緊張の色を隠せずにいた。
民衆の前では慈悲深い聖女として振る舞うが、ここで私が見せるものは、ただの“癒し”ではない。
王城内部、豪華な玉座の間。
王と側近の貴族たちは、私の訪問を疑念と警戒の混ざった表情で迎える。
「聖女……様……?」
王は声を震わせ、私を見つめる。
この国の権力者たちは、魔王の名が生きる者の血筋には警戒していた。だが、目の前の少女――癒しの光を放つ聖女――に、ただ戸惑うしかない。
「民が苦しむ理由、すべて見せてもらったわ」
私は手を軽く翳す。
玉座の間に、王や貴族たちの悪行の映像が浮かび上がる――横領、虐待、陰謀、密通。どれも隠せない。
王の顔色が変わる。
側近の貴族は唖然とし、言い訳も出ない。
私は微笑みを崩さない。慈悲深き聖女の微笑――しかし、魔王の裁きがそこにある。
「これを、民に知られる前に正すべきよね」
私はそっと告げると、玉座の間に静かな光が満ちる。
光は、悪意に触れた者たちの心を映し出し、虚偽を暴き、罪を自覚させる。
貴族たちは次々に震え、涙を流す者もいる。
私はただ見守る。声を上げる必要はない。魔王の力が、すべてを正すのだ。
――ふふ、滅ぼすより、ずっと楽しい。
王城から出ると、民衆が門前に集まっていた。
王や貴族の不正が暴かれ、民は歓喜する。
私の微笑みの下で、世界は静かに、しかし確実に変わっていく。
その夜、神殿へ戻る道すがら、レオンが私に尋ねた。
「聖女様……その力、どうしてそんなに冷徹なんですか?」
私は夜空を見上げ、静かに答える。
「私は……誰かを傷つけるために生まれたんじゃない。だけど、悪は見逃せないの」
手のひらに光を集め、闇を切り裂くように振るう。
慈悲と裁き――二つの力が私の中で共鳴する。
――さあ、次はもっと大きな国の腐敗者たちを相手にしてみせる。
銀髪が風になびき、私の目には魔王としての冷徹な光が宿る。
外からは聖女、内側には魔王――
世界を変える少女の戦いは、これからが本番だ。