第1話:目覚めの聖女、裏に魔王あり
目を開けた瞬間、天井の白い光が眩しくて、私は反射的に手で顔を覆った。
静かな祈りの声が響く。どうやらここは神殿――聖なる場所らしい。
「聖女様が……目を覚まされた!」
わあ、と歓声が広がる。見知らぬ人々が私を取り囲み、口々に“聖女”と呼ぶ。手を差し伸べて私を迎えようとする者もいる。
私はゆっくりと身を起こし、微笑んでみせた。
「……聖女?」
その言葉に胸の奥がざわめいた。
――愚かだな。私は聖女なんかじゃない。
千年前、世界を恐怖で支配した“魔王”――その記憶と力が、確かにこの胸の奥に眠っている。
今の私にとって、癒す力も戦う力も、ただの手段に過ぎない。だが、人々が望むなら、少し演じてやってもいい。
「――はい。私は……聖女です」
その瞬間、掌から柔らかい光が溢れ、病に苦しむ人々の身体を包んだ。
痛みが消え、血色が戻り、驚きと歓喜の声が神殿内に広がる。
――面白い。人々は私を崇め、私はそれを利用できる。
その時、近くにいた神官の一人が、目を丸くして私を見つめた。
「聖女様……その力……まさか、奇跡を……!」
私は小さく笑った。魔王の知識が頭をよぎる。癒しの力だけでなく、戦術、政治、情報操作――何でもできる。
――滅ぼすより、作り変えたほうが面白い。
腐敗した貴族や教会、偽善に満ちた正義を、私の手で塗り替えてやろう。
「……まずは、この神殿での“お披露目”かしら」
神官たちは慌てて私の周りに立ち、計画や儀式の手順を説明しようとした。
私は聞きながら、目を細め、頭の中で次の一手を練った。
――この神殿を拠点に、情報網を整え、まずは小さな町の腐敗を正す。
それができたら、次は王城、そして……国全体。
人々は知らない。私の正体も、千年前の魔王の力も。
私はただ、微笑みながら光を振りまき、人々を癒す“聖女”。
だが裏では、冷酷に計算された“魔王の策略”が回っている。
目の前で、老人の病が完全に癒え、涙を流して喜ぶのを見た。
私の胸にも、ほんの少しの喜びが湧いた。
――ふふ。滅ぼすのは簡単だった。
でも、作り変えるのはもっと楽しい。
神殿の外には、すでに騎士や使者たちが私を迎える準備をしている。
彼らは私の表の姿しか知らない。無自覚チートな聖女の力に、驚き、崇めるだけだ。
――ふふ、今日から世界は私の手のひらの上。
手のひらに残る光を見つめ、私は小さく呟く。
「私にできないことなんて……ないんだから」




