パパパパンダ!!
パンダが死にました
笹野木空太郎、28歳。動物園の新人飼育員である彼は、今日、人生最大のピンチに立っていた。
「やばい、どうしよう!」
動物園に新しくやってきたパンダ「シャオシャオ」が、来園初日に死んでしまったのだ。原因は、空太郎が餌の笹に混ぜた栄養剤の分量ミス。シャオシャオは一口食べた瞬間、目を白黒させて倒れてしまった。
「なんでこうなるんだよ! 俺、ただの新人なのに!」
空太郎は頭を抱えた。パンダは国宝級の動物だ。こんなミスがバレたら、クビどころか国際問題になりかねない! 焦りで汗だくの彼は、倉庫の奥に目をやった。そこには、イベント用に用意されていたパンダの着ぐるみが無造作に置かれていた。
「これだ…! 一か八か、着ぐるみで誤魔化すしかない!」
空太郎は着ぐるみを引っ張り出し、汗と涙でぐしゃぐしゃの顔を隠すように被った。鏡を見ると、なんとも愛らしいパンダがそこにいた。ふわふわの白黒の毛、つぶらな瞳、ちょっと間抜けな表情。完璧だ。
「よし、これでバレない!はず…」
パンダ、初登場
翌朝、動物園の飼育員たちがパンダ舎に集まった。空太郎(パンダ姿)は、緊張で心臓がバクバクしていた。目の前には、動物園の部長である大熊部長と、同僚の荒井くまみが立っている。
「おー、これがパンダか! 可愛いじゃないか!」 大熊部長が目を輝かせた。恰幅のいい部長は、パンダに異様な愛情を注ぐタイプらしい。
「わー! 可愛いですね! ね、シャオシャオ、こっちおいで!」 荒井くまみが手を振った。彼女は動物園のアイドル的存在で、明るく無邪気な性格だ。
(マジか!? バレてない!) 空太郎は内心でガッツポーズをした。着ぐるみの動きはぎこちなかったが、なんとかパンダらしい仕草を真似てみた。首を傾げ、両手をちょこんと上げる。観客の子供たちからも「かわいー!」と歓声が上がった。
しかし、試練はすぐにやってきた。
「パンダって、笹を踊り食いするんですよね?」 荒井くまみが無邪気に言った。
(踊り食い!? 何それ!) 空太郎の脳内で警報が鳴り響いた。だが、ここで動揺したらバレてしまう。彼は即興で、笹の束を手に持つと、ぎこちなくステップを踏み始めた。
「むぐぐーっ!」と叫びながら、笹を口元に持っていく。着ぐるみの口は動かないので、笹を顔に擦りつけるだけだが、観客は大ウケだ。
「すげえ! 本当に踊ってる!」 大熊部長が拍手した。
(よ、よし、なんとか誤魔化せた…!)
無茶振りの連鎖
空太郎のパンダ生活は、予想以上に過酷だった。着ぐるみは蒸し暑く、視界は狭い。それでも、彼はシャオシャオとして振る舞わなければならなかった。
ある日、荒井くまみが新たな無茶振りを繰り出した。
「パンダって、太極拳を極めてるんですよね?」
(初耳だぞ…!) 空太郎は心の中で叫んだ。だが、彼女のキラキラした目を見ると、断るわけにはいかない。彼は着ぐるみの重い腕を振り回し、テキトーな動きで太極拳を装った。
「ホアチャーッ! ハアッ!」と気合を入れるが、動きは完全に素人のそれだ。バランスを崩して転びそうになり、慌てて笹の山に倒れ込んだ。
「わ、シャオシャオ、めっちゃ頑張ってる!」 荒井くまみが手を叩いた。観客も「パンダ、太極拳うまい!」と盛り上がっている。
(これでいいのか…? いや、いいんだ、誤魔化せてるなら!)
しかし、試練はまだ続く。大熊部長がニヤリと笑いながら言った。
「そういえば、予防接種の時期だな。シャオシャオ、準備しろよ!」
(予防接種!? 待て、俺は人間だぞ!)
空太郎が逃げようとした瞬間、獣医師が巨大な注射器を持って現れた。針の先がキラリと光る。
「ブスッ!」
「アイヤーッ!!」
空太郎の悲鳴がパンダ舎に響いた。着ぐるみの厚い布のおかげで針は刺さらなかったが、衝撃で尻もちをついた彼は、ゼェゼェと息を切らした。
「ぜぇぜぇ…、パンダも楽じゃないな…」
ライオンとの同居!?
空太郎のパンダ生活は、毎日が綱渡りだった。だが、ある日、最大の危機が訪れた。
「パンダって、ライオンと仲良しなんですよね?」 荒井くまみが無邪気に言った。
「ほお、そうなのか! じゃあ、ライオンの檻に一緒に入れてあげないとな!」 大熊部長が目を輝かせた。
(!!?んな訳あるか!ライオンは肉食だぞ!) 空太郎の心臓が止まりそうになった。だが、部長の命令は絶対だ。ライオンの檻の前に連れていかれた彼は、震える足で中に入った。
ライオンの「レオ」は、巨大な体と鋭い目で空太郎を睨んだ。空太郎は必死にパンダらしく振る舞おうとしたが、ライオンが近づいてくると、思わず「ヒィッ!」と情けない声が漏れた。
「シャオシャオ、怖がってる? 大丈夫だよ、レオは優しいから!」 荒井くまみが檻の外から応援する。
(優しいわけねえだろ! こいつ、俺を食う気満々だ!)
レオが一歩近づくたびに、空太郎は後ずさり。だが、着ぐるみのせいで動きが鈍く、ついにレオの鼻先が空太郎の顔に迫った。レオがクンクンと匂いを嗅ぐ。
(終わった…! 食われる!)
しかし、意外なことに、レオは興味を失ったようにあくびをし、寝転がってしまった。どうやら、着ぐるみの人工的な匂いに興奮しなかったらしい。
「ほら、仲良しじゃん!」 荒井くまみが笑顔で言った。
(仲良しじゃねえよ! 心臓止まるかと思った!)
パンダの日常
空太郎のパンダ生活は、こうして続いた。毎日が無茶振りと危機の連続だが、彼は次第にパンダとしての振る舞いに慣れていった。笹を食べるふり、太極拳を装ったダンス、子供たちとのふれあいイベント。観客の笑顔を見るたびに、彼は少しだけ誇らしい気持ちになった。
「シャオシャオ、今日も大人気だな!」 大熊部長が満足げに言う。
「ホアチャーッ!」 空太郎は、すっかり板についたパンダのポーズで応えた。
だが、心のどこかで、彼は思う。いつまでこの生活を続けられるのか。シャオシャオの死を隠し続けることは、倫理的にも限界がある。いずれ、本物のパンダが必要になるだろう。
決断の時
ある夜、空太郎は着ぐるみを脱ぎ、倉庫で一人考え込んだ。
「俺、なんでこんなことやってるんだ…? シャオシャオの死を正直に話すべきだよな…」
だが、動物園の仲間たちの笑顔、子供たちの歓声が脳裏に浮かぶ。彼の誤魔化しが、みんなを幸せにしているのも事実だった。
「もう少し…もう少しだけ、このままでいいよな?」
彼は着ぐるみを手に取り、再びパンダの姿になった。
パンダは続く
翌朝、動物園はいつも通り賑わっていた。空太郎はパンダ舎で、今日も「ホアチャーッ!」と叫びながら笹を振り回す。観客の笑い声が響き、荒井くまみが「シャオシャオ、今日も絶好調!」と笑う。
「パンダって、空も飛べるんですよね?」 荒井くまみが新たな無茶振りを始めた。
(飛べるわけねえだろ!)
空太郎のパンダ生活は、今日も続く。