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【完結】拝啓、愛しの侯爵様~行き遅れ令嬢ですが、運命の人は案外近くにいたようです~  作者: 藤原ライラ
番外編:花の女神と祝福の庭

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2.揃いの色

「一般的にはどんな色を選ぶことが多いですか?」 


 こちらも白は結婚式のために外すとして、どういった色が好まれるのだろう。私は夜会にもあまり出ないからこういったことに明るくない。


「そうですね……よく選ばれるお色味としては、ブラウン系や紺、あとはシルバーやグレー、ゴールドなども華やかで好まれます」


「なるほど」


 シルバーは、絶対に似合う。なにせ相手は白銀の貴公子である。着せなくても分かり切っているけれど、最後には着てもらおう。


 紺はクリス自身が好んでよく着ている。いつも大変に似合っている。なので、これも後回し。


「じゃあブラウン系でお願いします」

「承知いたしました」


 ということでいくつか見繕ってもらった中から選んだものを、クリスに着てもらうこととなった。


 なんだろう。あのカーテンの向こうで何が起こっているのだろう。なんだかとってもわくわくする。

 待っているのも楽しいのだと、私はこの今はじめて知った。


「着たけど」


 着替えた本人は至って淡々とした顔をしている。ちなみにちっとも私の方を向いてはくれない。


 艶やかな光沢のある生地は、それだけで十分に品よく見える。あたたかみのあるブラウンは、落ち着いた印象を与えるし、足の長さは映える。


 しかしながら。


「なんかちぐはぐよね」

 私が掴み兼ねていたら、隣のエステル様が言った。


「そう、かもしれないです」


 クリスの名誉のために言っておくけれど、決して似合っていないわけではない。この美形は大体の服を着こなせるスタイルの良さを持ち合わせている。ただ、どことなく儚さすら与える銀色の髪とブラウンのシックさがかみ合わない。


「今あのおっさんの方が似合うって思っただろ?」

 鋭くなった青い目が、ちらりと私を見た。


「あのおっさんって、だあれ?」

 そんな人いたっけ。


 訊ね返すと、ぼそりと小さな声で、


「オースティン卿」


 とクリスは呟いた。


「そ、そんなこと思ってないよ!」


 言われてみれば、アラン様は夜会でもこういった色をお召しになっていることが多かった。さらりとした黒髪に重厚感のあるブラウンはよく似合うのだ。


 でも、そんなこと言われるまで一瞬も考えてなかったのに。やっぱりクリスは何かアラン様に恨みでもあるんだろうか。


「おれはこういう色は似合わないんだよ」


 なお、自覚もあるらしい。あまり着ないのも理由があったのか。

 では、次。


 華があることに越したことはない。私はぱっとしない顔立ちだし、新郎が輝いていたら婚約式もさぞ盛り上がることだろう。そう思って、ゴールドを選んだ。


「どう? そろそろ気は済んだ?」


 煌びやかなシャンパンゴールドがきれいだ。さっきとは違って明るいコーディネートだから、全体的に爽やかでクリスの雰囲気とも合っていると思う。


 しかしながら。


「なんだか、騒々しいわね」

「そう、ですね……」


 さすがは母というべきか、エステル様は本当に容赦がない。見事にクリスの眉間に皺が寄った。


「騒々しくて悪かったね」


 これも似合っていないわけではないのだ。サテンの生地も相まって本当に眩いばかりに美しい。でも、なんだかあっちもこっちもきらきらしていて、目にやさしくない。


「そういえば、わたしもこういう色は似合わなかったわ」


 なんというか、人には許容できる輝きには限度があるのだとよく分かった。ただいたずらに華やかにすればいい、ということでもないらしい。おしゃれって難しい。


 ということで、次。


 ここは満を持して、シルバーを着てもらおう。


 と思ったのだけれど。


「そういう色は、好きじゃない」


 俯き加減に銀髪は流れて、整った顔を隠してしまった。青い目はタイル貼りの床を彷徨っている。


「え、なんで? 絶対似合うよ?」

「知ってる」

「じゃあ」


 前髪の間から拗ねたような青い目が覗いた。何かを訴えるように私を見る。

「あんまり明るい色を着ると幼く見えるんだよ」


「そうね。クリスは童顔だから」

「気にしてることをあえて言わないでください、母上」


 そうか、気にしてたんだ。


「そんなことないよ。薄幸の美少年って感じできっとかっこいいよ!」


「それって平たく言えば『不幸なガキ』ってことだろ? やだよ」

 一応フォローしたつもりだったのだけれど、そっぽを向かれてしまった。ご機嫌斜めらしい。


「そうよね。ただでさえ年下なんだもの。大好きなキャロの前では大人っぽく見せたいものね」

「まあ……そういうことです」


 すこぶる不機嫌そうではあったけれど、クリスはそこは否定しなかった。


 別に本人が言うほど子供っぽくはないと思うのだけれど、嫌がるものは着せたくない。こうなると、彼が日頃好んで着ている黒か紺辺りにするしかなくなる。


 悩んだ私は、助けを求めてローランさんを見つめた。

 ひとつ頷いて、ローランさんはゆっくりと口を開く。


「キャロライン様はやはりクリストファー様にシルバー系を着て頂きたいですか?」


「そうですね。きっと似合うと思うので」

 私の純粋な希望だけを言えばそうだ。


 次にローランさんは、クリスに目を向ける。


「クリストファー様は、キャロライン様にどのような色のドレスを着て頂きたいですか?」

「おれは……」


 クリスは顎に手をやってきょろきょろしたり天を仰いだりして、しばしの間考えこんでいた。


「あの、ミントグリーンのとかよかったと思うんですけど」


 さっき三着目に試着したものだ。金のビジューレースが贅沢に使用された華やかなものだけれど、色味が爽やかだから私でも安心して着られる気がする。繊細なチュールが幾重にも重ねられて上品なデザインだった。


「それでしたら」


 ローランさんは一度奥に姿を消したかと思うと、一着のタキシードを持って戻ってきた。


「こちらなどはいかがでしょうか」


「きれいな色ですね」

 光の当たり方によって、シルバーグレーにもグリーンにも見える不思議な色味。生地の光沢はしっとりと落ち着いて見えるのに、それでいて華やかだ。そうそう、こういうのを着て欲しかった。


「ブルーとゴールドの糸を織り合わせて仕立ててあります。こちらでしたら殊更幼く見えるということはないかと」


 ちらりとクリスの表情を窺う。彼は静かに頷いた。


「それでは、お二人ともご試着して頂きましょうか」

「私も、ですか?」


 一度着たというのに、もう一度着る必要があるのだろうか。


「ええ、ここからはお二人で着て頂くことに意味がありますので」

 首を傾げる私に、ローランさんは妖艶に微笑んでみせた。



 *



 クリスの選んだミントグリーンのドレスを着付けてもらう。

「これでいいんでしょうか……?」


 すらりとした長身が隣に立つ。細身の意匠はクリスにとてもよく似合っていた。神秘的な色合いが彼自身と相まって、独特の透明感がある。


「すごい似合ってるね」

 思わず見とれそうになってしまう。彼が振り返れば、銀髪がきらきらと揺れる。


「こんなもんでしょ」

 襟元を直してクリスは大したことないとばかりににやりと笑った。


「それでは、お二人ともこちらに」

 ローランさんに促され、二人並んで一番大きな鏡の前に立った。


「あ」


 クリスが小さく声を漏らした。頭の上から爪先まで、切れ長の目が私と彼自身をなぞる。


「そういうことか」

 そのまま、青い目はローランさんに向けられる。


「さすがですね。マダム=ローラン」


「いえ、とんでもございません」

 彼女はいつものように、美しい礼をして返す。まずローランさんはクリスに微笑みかけた。


「クリストファー様の仰る通り、女性のドレスを先に決めるのが一般的ではあります。こちらの方が色が豊富ですから」


 そして、次に私の方を見てまたにこりと微笑んだ。


「ですが、キャロライン様が仰るように、男性のお召し物が何でもいいということはございません。こちらの選び方によって、映えるか映えないかが決まるからです。婚約式はお二人で出られるものですから、色味やモチーフを揃えるコーディネートが重要となってきます」


「なるほど……」


 そうして見ると、あのクリスのタキシードとこのミントグリーンのドレスはびっくりするほどよく似合っている。まるで私達がともにあるのが、当然とばかりに。


「今回はキャロライン様のドレスと雰囲気を合わせて、爽やかめのカラーをお選びしました。また、ビジュ―の色と生地の色を揃えてありますから、統一感も醸し出せるかと」


 初見では分からないかもしれない。けれどこっそりと同じ色を隠すのはなんだかとても深いところでクリスと結びついているようで、心が躍る。


「どんな風にご自身を表現されたいかを、お二人でよく話し合ってお決めになってみてはいかがでしょうか」


 ローランさんがそう締めくくると、クリスがひとつ溜息を吐いた。

「おれもまだまだだな」


 なんだか無性に悔しそうではある。いつでも背伸びをしてみせたいようなところがクリスらしいと言えば、クリスらしい。

 すっと、タキシードの袖を掴んで銀色の頭を見上げた。


「一緒に決めよう、ね」


 だってこれから先もずっと一緒にいるのだから。私はこうやって、クリスと色んなことを話し合えるのが嬉しい。


「そうだね」

「まあ、本当に仲がいいんだから」


 そんな私達を、エステル様がにこにこと見守ってくれていた。


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