最強種の竜を殺した男は、その後何を思う。
誰しも最強を望む。
この世界の誰よりも強く、誰をも屈せられる最強の存在。
「ああ、つまんね」
この世界の最強種。
竜。
その死体に座りながら、俺はため息を吐く。
「一撃か」
開幕一手。
俺は竜に瞬時に接近し、その誇り高いであろう胸部に拳を叩き込んだ。
爆散だ。
一瞬だった。
最強種、竜。
そのさらに上の竜王。
それが今、奴はオレの尻に敷かれている。死んでいる。
「おかしいなあ」
唯一無二の存在をこの手で葬った。
けれど俺は、この胸に宿る空虚感に苛まれるばかりだ。
「はあ……」
ただの人間。
それが俺だった。
貧乏な家に生まれ、奴隷に堕とされ、買われ飼われて戦闘奴隷として生き、生き残るために生き、国の最強を見て最強を目指した。
俺は俺として、今最強に居る。今ここに、最強種を殺して俺が最強になった。
なのにこの虚無感。
「最強種も大したことないな」
竜王の残骸をすべて回収した。
帰って売る。
すげえ金額になるだろう。
どうでもいい。
今は腐るほど金がある。豪邸がある。
奴隷ではない、自由を手に入れている。
最高の自由を、最強を。
「…………」
あれから一か月。
俺は一人山の中にいた。
称賛と嫉妬。
そして政治。
嗚呼、なるほど。下らない。
最強になったからどうだ。
周りが騒ぐ。俺を取り込みたがる奴ら。
嗚呼、下らない。
興が冷めた。俺は今日も一人で山で薪を割る。
今は秋。直に冬だ。
蓄えは終わらせている。一日遠征に出ればすぐだった。
今も一人で鍛錬している。加えて、噂で聞いた強い相手に俺は片っ端から挑んでいる。
だがどいつも弱かった。誰も俺を超える奴はいなかった。
「つまんね」
と、次の木を薪にしようとしていた時だった。
「泣き声……?」
遠くから赤ん坊の泣き声が聞こえた。
こんな山奥に赤ん坊。誰かがやってきた形跡はない。
おそら転移魔法。
「運の良い奴だ」
俺はそこへと急ぐ。
辿り着くのは一瞬だ。
数十キロの道を数秒。
目の前にはおくるみに包まれた男の子。
「ふーん……」
泣き声をあげるこいつを、俺は抱える。
魔力を発し、赤子を包み込む。
泣き声が消えていき、安堵するように身体を縮めて俺にすり寄ってきた。
「俺はお前の親じゃねえんだけどな」
銀色の髪が特徴的だった。
俺と同じ、銀色の髪。
「……あ、そうだ。こいつを育てりゃあいいんだ」
こいつから感じた強い何か。
そして俺に似た特徴の人間。
こういった人間に合うのは久しぶりだ。
三人目だろうか。
「あいつら、元気にしてるかなあ」
魔力の潜在能力がずば抜けて高いほど髪が銀に近くなる。
こいつを捨てた親はその事実を知らなかったのか。
もしくは隠したか。それこそ捨てたか。
なんにせよ、こいつはもう俺のモノだ。
「こいつを最強に育てる。俺を超えさせる最強にだ」
何とはなしに感じた途轍もない力。
その最強に至れるに足る潜在能力を。
「最初からこうすればよかったんだな」
最強を、強い奴を探すんじゃなく、最強を作り上げる。
竜の血を飲み、長寿を得た。
老いもしない。
もっと強い奴と戦うために得たもので、後悔もしたが。
「こいつにも竜の血を飲ませてやらねえとな」
幼児の時分から竜の力を得るなんて贅沢、本来ならあり得ねえが。
だからこそより大きな成長の糧になる。
「俺を負かすだけのつええやつになってくれよな。ゼーレ」
この世界を創造したと言われる神の名を冠し。
俺は帰路に就く。
この先に完成されるだろう最強の相手を想像して。
俺はにやりと笑った。
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【集】我が家の隣には神様が居る
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