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戯曲・帰って来る特攻隊員  作者: ロッドユール
5/5

第五幕・五回目の出撃

上官「・・・」

隊員「すみません・・」

上官「・・・」

隊員「また帰って来てしまいました・・」

上官「・・・」

隊員「上官殿にせっかく立派な特攻隊員として送り出していただいたのに、本当に申し訳ありません」

上官「・・・」

隊員「あれっ、殴らないんですか?」

上官「・・・」

隊員「首絞めないんですか?」

上官「・・・」

 上官沈黙・・。

隊員「なぜ何も言ってくれないのでありますか」

上官「・・・」

隊員「上官殿?」

上官「いいんだよ」

隊員「えっ」

上官「もういいんだよ」

隊員「あれっ、もう特攻行かなくていいんでありますか」

上官「終わったよ。戦争」

隊員「えっ、終わったんでありますか」

上官「終わっちゃったよ。もう、お前がもたもたしてる間に終わっちゃったよ戦争」

隊員「・・・」

上官「お前が海の上でぶらぶら暇つぶしている間に終わっちゃったんだよ。戦争」

隊員「じゃあ、仲間の死はいったい何だったんでありますか」

上官「お前が言うか、それ。お前よく仲間なんて言えたな、この野郎。お前にだけはその言葉使ってもらいたくねぇよ」

隊員「どっちが勝ったんでありますか」

上官「うるせぇよ」

隊員「日本は神の国じゃなかったんですか」

上官「うるせぇよ」

隊員「神の国って言ってたじゃないですか。絶対負けないって言ってたじゃないですか」

上官「言ったよ。ああ、確かに言ったよ」

隊員「逆ギレでありますか」

上官「ああ、逆ギレだよ」

隊員「全部嘘だったんでありますか」

上官「ああ、嘘だったんだよ。全部嘘だったんだよ。日本は神の国なんかじゃなかったんだよ。神風も吹かねぇし、死んでも英霊になんかならねぇよ。みんな犬死だよ。天皇もただの人間だったんだよ。ただの口ひげはやしたおっさんだったんだよ」

隊員「ひゃっほ~、僕が正しかったんだ。死ななくてよかったんだ。帰ってきてよかったんだ。特攻しなくてよかったんだ。ピース、ピース(上官に向けてピースサインを繰り出す)」

上官「ぐぐぐっ(上官悔しさに顔を歪ませる)」

隊員「僕が正しかったんですね。死ななくてよかったんですね」

上官「ああ、お前が正しかったよ。死ななくてよかったんだよ」

隊員「あなたが間違っていた(隊員、上官に指を差す)」

上官「ああ、俺が間違ってたよ」

隊員「いやっほぉ~、僕が正しかったんだ。僕が正しかったんだ。(隊員おおはしゃぎ)」

上官「ギギギッ(上官歯ぎしり)」

隊員「僕は正しかったんですよ。特攻なんてしなくてよかったんですよ。ピース、ピース(再び上官に向けてピースサインを繰り出す)」

上官「ぐぐぐぐっ」

隊員「ははははっ、上官殿が間違っていた。間違っていた。あはははっ(小躍りして上官に指を差す)」

上官「ぐぎぎぎぎ・・」

隊員「間違っていた。間違っていた。あははははっ(上官に指を差す)」

上官「ぐぎぎぎぎぎっ」

隊員「あははははっ」

 ドガッ

 上官、隊員をグーで殴る。

隊員「痛ったぁ」

上官「はしゃぎ過ぎだ。この野郎」

隊員「何でわたくしが殴られなきゃいけないのでありますか(頬を押さえる)」

上官「お前はなんかむかつくんだよ」

隊員「そんな理不尽な」

上官「調子に乗るんじゃねぇよ。(上官大きな声で怒鳴る)」

隊員「す、すみません。(ピリッと敬礼)」

上官「確かに戦争に負けたよ。俺は間違えていたよ。俺は確かに間違えたよ。大事な自分の部下たくさん殺しちゃったよ。無駄に死なせちゃったよ。でも、お前は許さないから。なんか許せないから。俺絶対お前だけは許さないから。絶対許さないから、お前だけはなんか絶対許さないから。戦争とかなんとか関係なくお前のその人間性がなんか許せないから」

隊員「はい、申し訳ありません。(ピリッと敬礼)」

上官「戦争終わっても、お前だけは絶対に許さないから」

隊員「はい、申し訳ないであります。(ピリッと敬礼)」

上官「俺は優秀な部下を殺してしまったことを無茶苦茶悔やんでいるよ。だけどな、今はそれと同じくらいお前を殺さなかったことを悔やんでいるよ」

隊員「わたくしだけが生き残ってしまった・・」

上官「そうだよ、お前みたいなのが生き残っちまったよ」

隊員「なんて悲劇なんだ」

上官「ほんと悲劇だよ」

隊員「なぜ、わたくしだけ生き残ってしまったんだ」

上官「お前だけ死んでほしかったよ」

隊員「悲劇だ」

上官「どうすんだよ。お前みたいな単細胞の薄らバカばっか生き残っちまって、マジメでちゃんとした奴はみんな死んじまったよ。これからこの国どうなんだよ」

隊員「わたくしは悲劇の特攻隊を生き残ってしまった悲運の男として、この悲しい戦争体験を背負って戦後を生きていきます。(隊員、遠くを見つめる)」

上官「お前何突然悲劇のヒーロー気取ってんだよ」

隊員「そして、暗い影を背負った男としてうらぶれた戦後の薄暗い路地裏の飲み屋のカウンターの片隅で、生きるってことの苦悩に打ちひしがれこの世の悲しい日陰者として孤独に酒を飲むのです。その暗い男の陰りに女も寄ってくるかもしれません。そのそこはかとなく漂うそのいぶし銀の男の背中に背負われた孤独な陰りに女は堪らなく欲情するかもしれません。しかし、わたくしはそんなわたくしにしなだれかかるように身を寄せる女の、その美しい華奢な体を軽く、それでいてどこかやさしく片手で払いのけ、女のその誘惑にも身じろぎもせず、悲しく孤独なタバコを一人吸うのです。(隊員自分に酔う)」

上官「なんだよそのストーリー。何勝手な妄想膨らませてんだよ。お前全然悲運の男じゃねぇじゃねぇか。この非常な戦時下でぶくぶく丸々図太く太りやがって、この野郎」

隊員「わたくしは特攻隊という悲劇を生き残った戦争の生き証人です。わたくしは、この悲しい戦争の悲劇という出来事を後世に語り継いでいくのであります」

上官「悲劇って顔か。お前は悲劇じゃなくて喜劇だろ」

隊員「わたくしは新聞に出て、ラジオに出て、全国各地の学校を回り、講演して、いかに自分が上官に抗い、命の大切さを守ったかを聞かせて回ります」

上官「早速、事実が歪曲されているじゃねぇか。お前は特攻で死んでいった奴の分までうまいもんバカスカ食って、適当に海の上で暇つぶして帰ってきただけじゃねぇか」

隊員「このような悲劇を二度と繰り返さないためにわたくしは語ります」

上官「お前という存在が悲劇なんだよ」

隊員「戦争は人間を不幸にします」

上官「お前、戦争中にそんだけ太れるんだから、戦争なかったら絶対糖尿病になってるぞ。ある意味お前は戦争に救われてると思うぞ」

隊員「わたくしはこの戦争の悲劇を語り継ぎます」

上官「お前が生き残ったことが悲劇だろ」

隊員「わたくしはこの身を犠牲にして、戦争の本質と特攻の悲劇を語って行きます」

上官「何が語って行きますだこの野郎。お前に戦争の本質なんか分かってたまるか。だいたい、そもそも、お前が特攻行かねぇから戦争負けたんだよ」

 上官、隊員の口に指を突っ込み横に広げながら言う。

隊員「グゲゲゲゲゲェ、ぞんなむじゃぐじゃな・・」

上官「お前が特攻して死んでりゃなんの問題もなったんだ」

隊員「全部わだぐじのぜいなのでありまずが」

上官「そうだよ。戦争に負けたのも、空襲でボコボコにされたのも、原爆落とされたのも、天皇陛下がただの人間に戻っちまったのも全部お前の責任だ」

隊員「ぞんなむじゃぐじゃな・・」

上官「全部お前のせいだぁ~」

隊員「ぞんなぜっじょう(殺生)なぁ~」

上官「よしっ」

 上官、突然手を離す。

隊員「何がよしっ、なのでありますか(隊員、キョトンとする)」

上官「お前だけ、今から特攻行ってこい」

隊員「なぜですか、もう戦争は終わってるじゃないですか」

上官「そんなの関係ねぇ。行って来い」

隊員「そんな無茶苦茶な」

上官「行・く・ん・だ」

 上官、再び隊員の口に指を突っ込み横に広げながら言う。

隊員「どごに特攻ずればいいのでありまずが」

上官「それは行けば分かる」

隊員「そんなむじゃぐじゃな・・」

上官「行けぇ~」

隊員「上官殿、目が、イッでじまっておりまずぅ~」

上官「お前が特攻に行くまで戦争は終わらせない。お前に戦後は送らせねぇ」

隊員「ぞんなむじゃぐじゃなぁ」

上官「お前は死ぬんだぁ」

隊員「ぐがっががぁがあ、ぞんなごむだいなぁ」

上官「死ねぇ~」

 上官、限界いっぱいまで隊員の口を広げる。

隊員「ぐがががぁああ~、やめれぇ~」

上官「お前は死ぬんだよ。特攻で死ぬんだ。絶対死ぬんだ。死んでも死ぬんだ」

隊員「ぐがあぁああ~」

上官「分かったかこの野郎」

 上官手を離す。

隊員「ていうか、何でわたくしが死ななきゃいけないんでありますか」

上官「あっ、テメェ、開き直りやがったな」

隊員「そもそも、絶対死ぬ攻撃なんてやってらんねぇよ」

上官「武士道とは死ぬことと見つけたり。それが特攻という美学なんだ」

隊員「美学で人が死ねますか」

上官「死ぬんだ。これは男の生き様が研ぎ澄まされ、収斂された美しさの最終形態なんだ」

隊員「死なないように殺す、それが戦いの賢さってもんでしょ。殺す度に人が死んでたら、最後味方も何もいなくなって絶対に負けるじゃないですか」

上官「理屈じゃねぇんだよ。捧げるってことなんだよ。誰もよりも大事な自分の命を、その体を、お国のために捧げる。この美しさなんだよ。献身的崇高さなんだよ。特攻はすべてを超越した究極の美なんだよ」

隊員「自分は醜くてもいいから生きたいであります。(ピリッと敬礼)」

上官「武士は醜く生きてはならんのだ」

隊員「わたくしは武士ではありません」

上官「日本男児はみんな武士なんだ」

隊員「どんな理屈ですか」

上官「だから、理屈じゃねぇって言ってんだろ。頭じゃねぇ、ハートなんだよハート。(上官自分の心臓の辺りの胸を拳でバシバシ叩く)」

隊員「わたくしには、まったく意味が分からないであります」

上官「愛なんだよ。ラブなんだよ。究極の愛なんだよ。愛の到達点なんだよ」

隊員「愛で腹は膨れません。(きっぱり)」

上官「愛は戦いなんだよ。戦争なんだよ。特攻なんだよ・・。(上官叫びながら、崩れ落ちていく)」

隊員「えっ・・(隊員驚く)」

上官「・・・」

隊員「あれ?上官殿?」

上官「・・・」

隊員「なぜ急に黙ってしまうのでありますか」

上官「ううっ、うううっ。(上官突然泣き始める)」

隊員「上官どの・・、どうしたんでありますか。(隊員不安になる)」

上官「俺は情けないんだ。(上官その場に崩れ落ちる)」

隊員「何が情けないのでありますか。(隊員焦る)」

上官「俺は自分が情けない。俺は・・、俺は・・、お前を立派な特攻隊員に育てることが最後までできなかった。それが悔しいんだ。(上官、拳で床を何度も何度も力いっぱい叩く)」

隊員「・・・」

上官「俺は、戦争に負けたことよりもそのことが悔しい。日本男児としての生き様をお前に教えることができなかった。お前に特攻で死ぬということの崇高さを伝えることができなかった。その喜びを美しさを感動を伝えることができなかった。人間を超越した高みにお前を連れて行くことができなかった・・」

隊員「上官殿・・」

上官「俺は悔しい・・」

隊員「上官殿・・」

上官「俺はさ、士官候補生の中で唯一大学出てねぇんだよ。家が貧しくてさ。成績はよかったんだけど、金なくてさ、大学にも、士官学校にも入れなかったんだよ。でもさ、戦争の人材不足もあったんだろうけど、こんな俺を士官候補生にしてくれたんだよ。この国は。ど田舎の貧乏な小作人の三男坊のこんな俺をさ、上に引き上げてくれたんだよ。この国は」

隊員「・・・」

上官「俺は泣いたよ。号泣するほど泣いたよ。だから、俺は誓ったんだ。この国のために、何があってもこの身を捧げようと、そう誓ったんだ」

隊員「・・・」

上官「士官学校じゃ散々いじめられたよ。大学出てねぇ、馬鹿が何で俺たちと一緒なんだって。貧乏な小作人の息子がなんで士官候補生なんだよって。お前なんか畑耕してろって、肥え桶担いでろってみんなに笑われたよ。それがお国ためだって。先輩にも同級生にもさ、教官にも、みんなに馬鹿にされてさ、食堂のおばちゃんまで冷たかったよ。毎日毎日いじめられてさ、胃に穴空いて死にかけたよ」

隊員「・・・」

上官「悔しかったよ。この戦争は、肥桶担いでる奴のそんな生活守るための戦争だろうって、肥桶担いでる奴でも幸せに、豊かになれるための戦争だろって、そのための戦争だろうって。兵隊にとられた奴はみんな田舎の貧しい小作人の息子だろって。そいつらが命かけて前線で戦ってんだろって。俺は悔しくて、悔しくて、毎晩布団の中で一人泣いたよ」

隊員「・・・」

上官「でも、俺はこの国を愛していた。どんないじめを受けても、理不尽なことを言われても、どんなに冷たくされても、まったく微塵も揺らがずこの国を愛していた。俺は最高にこの国を愛していた。俺の愛は絶対だった。完璧だった。どんな苦しみの中でも俺の愛は揺るぎなかった。そのどんな苦しみにも揺らがないその俺の愛の大きさが、同時に、俺に対するこの国の愛でもあった。だから、俺は何をしている時も、寝ている時でさえ、常にこの国の愛をビシバシ感じていたよ。この国に包まれてる、守られてるそう感じていた。俺は常にこの国の大きな愛に包まれていたんだ。俺は幸せだった。最高に幸せだった。俺は何があってもこの日本という大きな存在に守られていた。だから、どんな苦しいことがあっても平気だった」

隊員「・・・」

上官「俺はこの俺が感じている最高の愛をみんなにも教えてやりたかった。この至上の愛を、幸福を、快感を、みんなにも味わわせてやりたかった。だから、この愛を何とか形にしたかった。みんなに伝えるために、分かち合うために、目に見える形にしたかった。だが、その形はなかなか見えなかった。どうしていいのか分からなかった。どうしていいのかがまったく分からなかった。俺は悩んだ。円形脱毛症ができるくらい悩んだ」

隊員「・・・」

上官「そんな時だった。俺は神の啓示のように特攻に出会ったんだ。最初に話を聞いた時、俺は震えたよ。総毛だつように震えたよ。これだって思った。これだ。これだ。俺が求めていたものはまさにこれだ。俺の中の動脈から政脈に流れていた血は逆流し、泡立つくらい沸騰した。脳天に百万ボルトの電撃が走った。お国のために、すべてを捧げる。身も心も魂も。これ以上に、お国のために捧げる形ある愛はないだろうと思った。それは最高の愛の形だと思った」

隊員「・・・」

上官「だから、俺は立派な特攻隊員を育てて、そして、この国の本当の美しさと幸福を伝えたかった・・。この国の愛。この日本という国に生まれたことのその奇跡と幸福。そして、この国を愛するということの至上の幸せと、この国に愛されるということの最高の至福を伝えたかった。俺は、本当の愛を完成させたかった。愛っていうのは、家族を愛するとか、女を愛するとかそんなせせこましいことじゃないんだ。国という、壮大な宇宙を越えた愛なんだ。この壮大な愛の物語を完結させるということなんだ。その身をもって敵艦に突っ込むというこれ以上ない献身によってこそ、その愛は完成させられるんだ」

隊員「・・・」

上官「しかし、それはできなかった。お前に、それを伝えることができなかった。この国の本当の幸福を、美しさを、その愛をお前に伝えることができなかった。そのことが悔しいんだ。(上官、拳で床を何度も何度も力いっぱい叩く)」

隊員「上官殿・・、そんなにまでわたくしのことを・・」

上官「うううっ、ううっ。(上官泣き続ける)」

隊員「上官殿・・」

上官「うううっ・・」

 上官、突然腰の銃を抜き自分のこめかみに当てる。

隊員「上官殿っ!」

上官「俺は死ぬ。こんな恥ずかしい愚かな男がいたっていうことを、お前が後世に語り継いでくれ」

隊員「上官殿っ」

上官「とめるな。俺を逝かせてくれ」

隊員「上官殿っ」

上官「後は頼んだぞ」

隊員「わたくし、行くであります。(隊員叫ぶ)」

上官「何?」

隊員「わたくし行くであります。特攻へ行くであります。(ピリッと敬礼)」

上官「気を使わなくていい」

隊員「上官殿、わたくし行くであります。わたくし行くであります。(ピリッと敬礼)」

上官「お前は案外いい奴だったんだな。それが分かっただけでも俺はうれしいよ」

隊員「行かせてください。わたくしを特攻に行かせてください。お願いします。上官殿。(ピリッと敬礼)」

上官「分かったその気持ちだけで俺はうれしい」

隊員「上官殿、わたくしは本気であります。(ピリッと敬礼)」

上官「分かった。分かった。もういい」

隊員「わたくしは本気であります。(ピリッと敬礼)」

上官「ありがとう。もういい。お前のその気持ちだけでうれしいよ。本当にありがとう」

隊員「特攻に行かせてください。上官殿っ。上官殿っ。わたくし行くであります。上官殿っ。(隊員叫び、ピリッと敬礼)」

上官「本気なのか」

隊員「本気であります。(ピリッと敬礼)」

上官「本当なのか」

(上官、拳銃を下げる)

隊員「本当であります」

上官「本当なんだな」

隊員「本当であります」

上官「そうか、よく言った。俺はうれしいぞ。(上官涙ぐむ)」

隊員「はい。(ピリッと敬礼)」

上官「よしっ」

隊員「えっ、何がよしっ、なのでありますか」

上官「俺も行く」

隊員「えっ」

上官「俺も行く」

隊員「特攻にでありますか」

上官「そうだ」

隊員「・・・」

上官「どうした。なぜ黙る」

隊員「わたしくだけで大丈夫であります。(ピリッと敬礼)」

上官「・・・、お前・・」

隊員「わたくし一人で大丈夫であります。(ピリッと敬礼)」

上官「・・・」

隊員「見ていてください。上官殿。わたくしは立派にやり遂げるであります」

上官「お前・・」

 二人、見つめ合い、感動に包まれる。

上官「お前は死ぬんだ。死んで、特攻というこの神聖で崇高な儀式を完成させるんだ」

隊員「はい。完成させるであります。(ピリッと敬礼)」

上官「国は戦争に負けた。だが、我々は精神のもっと深い高みのところで戦争に勝つんだ」

隊員「はい」

上官「我々は絶対に負けない。大日本帝国は永遠に不滅だ」

隊員「はい、大日本帝国は永遠に不滅であります。(ピリッと敬礼)」

上官「頼んだぞ。(ピリッと敬礼)」

隊員「行ってまいります。(ピリッと敬礼)」

上官「おうっ。(ピシッと敬礼を返す)」


ナレーション

(彼は飛び立って行った。最後の特攻隊員として、もうしなくてもいい特攻をするために。死ななくていいその命をお国に捧げるために。敵のいない遥か彼方の海の向こうの水平線に、彼はゼロ戦と共に消えて行った)

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