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戯曲・帰って来る特攻隊員  作者: ロッドユール
1/5

第一幕・最初の出撃

ナレーション

(特別攻撃隊特別作戦。通称特攻。

 それは決して生きては帰れない片道切符の必死の作戦。そのあまりに理不尽な作戦ゆえに戦争末期、様々な悲劇を生んだ)


上官「おいっ」

隊員「はい、なんでありますか(ピリッと敬礼)」

上官「なんでありますかじゃねぇよ」

隊員「といいますと?」

上官「といいますと?じゃねぇよ」

隊員「はあ」

上官「お前昨日出撃したよな」

隊員「はい、出撃しました(ピリッと敬礼)」

上官「確かに行ったよな」

隊員「はい、行きました(ピリッと敬礼)」

上官「・・・」

隊員「・・・」

 しばし、沈黙・・

上官「じゃあ、なんでいるんだよ。ここに」

隊員「・・・」

上官「・・・」

 お互い見つめ合い、再び、しばし、沈黙・・

隊員「帰って来たからであります(ピリッと敬礼)」

上官「なんで帰って来るんだよ。特攻は片道切符。帰ってきちゃいけないんだよ。あり得ないんだよ。そんなことは。あっちゃいけないんだよ」

隊員「でも、帰ってきちゃいました。てへっ」

上官「でも、帰ってきちゃいました。てへっ、じゃねぇよ」

隊員「いや、なんか怖いじゃないですか」

上官「いや、なんか怖いじゃないですかじゃねぇよ。しかも、しれっと言ってんじゃねぇよ」

隊員「だって死ぬんすよ。めっちゃ怖いですよ」

上官「死ぬよ。死ぬんだよ。怖いよ。怖いもんなんだよ。特攻っていうのは。でも行くんだよ。それを乗り越えてお国のために、敵艦に突っ込むんだよ。その身を散らすんだよ」

隊員「なんでですか」

上官「なんでですかじゃないんだよ。行くんだよ。日本帝国軍人はお国のために行くんだよ。みんな行ってんだからお前も行くんだよ」

隊員「行きたくないであります(ピリッと敬礼)」

上官「いや、そこは話済んだじゃない。みんなで話したじゃない。話し合ったじゃない。お国のため、その身を犠牲にしてさ、天皇陛下にその身をささげるって言ったじゃない。お前も言ったよな」

隊員「はい、言ったであります。(ピリッと敬礼)」

上官「お前が特攻行くって言うからさ、昨日、最後の晩餐会開いたじゃない」

隊員「はい、開いていただきました。(ピリッと敬礼)」

上官「はい、開いていただきましたじゃないよ。お前そこで散々ぱら飲み食いしたろうがよ。お前のその汚い太鼓っ腹がさらに突き出るくらいよ。今食糧難よ。食糧難。分かってる?あんなごちそう、そう滅多に食えないんだよ。それをお前、明日特攻だからって、特別に用意して、しかもお前、俺は明日死ぬんだって、俺は明日死ぬんだからって一人で大騒ぎして、もう人の分まで分捕って食ってたじゃない。酒もガバガバ飲んでたじゃない」

隊員「はい、おいしかったであります」

上官「はい、おいしかったでありますじゃないんだよ。そら、おいしいよ。おいしいに決まってるだろ。戦時中にあんなごちそう。俺たち上層部だってそうそう食えないんだよ」

隊員「ありがとうございます」

上官「そんで、今日の朝、みんなで涙のお見送りしたじゃない。お前も泣いてたじゃない」

隊員「はい、自分も感動しました(ピリッと敬礼)」

上官「何だったんだよ、あの涙は。あの最後の感動のお別れはなんだったんだよ。俺も思わず泣いちまったよ」

隊員「いや、なんかみんな泣いてたんで、僕も盛り上がっちゃって・・、てへっ」

上官「盛り上がっちゃって、てへっ、じゃねぇよ。あそこまでみんなに感動の涙流させといて、よくのこのこ帰ってこれるよね。お前のその神経が信じられないよ」

隊員「いや、僕もあの時は絶対死ぬって思ってたんですけどね」

上官「しっかり戻って来てるじゃねぇかよ」

隊員「戻って来ちゃいました。てへっ」

上官「てへっ、じゃねぇよ。なんなんだよお前のその神経の図太さは」

隊員「申し訳ありません(ピリッと敬礼)」

上官「いいか。お前は死ぬんだよ。絶対死ぬんだよ。分かったか。敵艦に突っ込んでお国のために死ぬんだよ」

隊員「はい、分かりました(ピリッと敬礼)」

上官「これは命令だからな」

隊員「はい(ピリッと敬礼)」

上官「次は絶対死ねよ」

隊員「はい(ピリッと敬礼)」

上官「よしっ、じゃあ、頼んだぞ」

隊員「あの・・、上官殿・・」

上官「なんだよ」

隊員「もう一回食べたいな。ごちそう(指をくわえる)」

上官「まだ食うのかよ。あんだけ食って」

隊員「そりゃ食いますよ」

上官「何で逆ギレなんだよ。昨日、散々っぱら食わせてやっただろうがよ」

隊員「パイナップルの缶詰、ウナギのかば焼き、タイのお刺身・・」

上官「・・・」

隊員「今の季節は鮎飯なんかおいしいんですよね」

上官「分かったよ。全部食わしてやるから、そんな目で見るな。もう、クソッ」

隊員「やったぁ、ひゅ~、ひゅ~、やったぁ、やったぁ」

上官「踊り出すなよ。お前何しにここ来てんだよ。まったく」

隊員「だって、うれしいんであります」

上官「滅茶苦茶単細胞だな。お前は」

隊員「ありがとうございます」

上官「ほめてねぇよ」

隊員「失礼しました。(ピリッと敬礼)」

上官「それ食ったら、ほんとに行くか?特攻」

隊員「はい、行くであります。(ピリッと敬礼)」

上官「お前そういう時だけ気合入るよな」

隊員「あの・・」

上官「なんだよ」

隊員「お酒も飲みたいなって」

上官「どこまで厚かましいんだよ」

隊員「・・・」

上官「分かったよ。そんな目で見るな。そのかわり絶対死んで来いよ」

隊員「はい(ピリッと敬礼)」

上官「返事だけはいいんだよなぁ・・」


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