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第5話 理由がややこしい!

「きょ、協力?」


 木島さんの謎の圧を前に、俺は恐る恐る返事をする。

 これまで木島さんに抱いていた印象とは全く異なる、自分からグイグイとくる予想外の詰め寄りに戸惑いを隠せない。


「うん、協力。わたしと加賀美くんが仲良くなれるように」


 そして包み隠すことなく、はっきりと告げられる木島さんの思惑。

 その雰囲気は、これまでのフワフワとした可愛らしい感じとは明らかに異なっているというか、例えるなら狩られる側の小動物が、実は狩る側の肉食獣だったような変な感じだ。


「……えーっと、一応理由を聞いてもいいかな?」


 だから俺は、まずはその理由を確認する。

 別にサポートするのは構わないが、翔太は俺にとって大事な友達なのだ。

 だからサポートするかどうかは、その理由次第。

 もしもそれで翔太に不利益なことがあるようなら、俺はその頼みを受けるわけにはいかないのである。


「理由? んー、そうだね、加賀美くんってカッコいいから?」


 しかし、木島さんから返ってきた答えは物凄くシンプルなものだった。

 翔太がカッコいいから、お近づきになりたい。


 まぁ実際、人が恋する動機なんてそんなものだと思う。

 男だって、可愛い子が相手なら初対面でもお近づきになりたいと思うものだろうから。

 だからそのシンプル過ぎる理由は、一見適当なようで正直な意見に思えた。


 だが、そのうえで俺は一つの引っかかりを覚える。

 それは、お願いしてくる木島さん本人の感情が全く伝わってこなかったことだ。


 自分の話なのにどこか客観的で、翔太に対して好意を抱いているというよりも、ただイケメンだからお近づきになりたいだけに思えたのだ。


 だから俺は、そんな木島さんに一つ質問してみることにした。


「それで木島さんは、翔太と仲良くなってどうなりたいの? やっぱり、付き合いたいとかって思う?」


 まずは木島さん自身が、それでどうなりたいのか。

 その理由によっては、俺はこのお願いを断らなければならない。


「んー、どうかなぁ?」


 しかし木島さんは、自分のあごに指をあてながら、やっぱり他人事のように考え出すのであった。

 その反応は、ある意味予想通りでありつつ意味不明。

 少なくとも、本当に翔太に好意を抱いているようには思えなかった。

 ただこの学校で、一番イケメンだからお近づきになりたいだけだと言っているようにしか聞こえないのだ。


 だが考え込んでいた木島さんはというと、何か閃いた様子でうんうんと一人頷く。

 そして答えが出たのか、また悪戯な笑みをこちらへ向けてくる。


「――よし、じゃあやっぱり作戦変更」

「へ、変更?」

「そう、思えば順序が違ったなって思って」

「順序?」

「そう、加賀美くんと仲良くなる前に、まずは日比谷くんともっと仲良くならないとだよね。だからこれから、改めてよろしくね!」


 そう言って木島さんは、いきなり俺の腕に抱き付いてくる。

 その急すぎる話の変化と行動を前に、俺はもう困惑するしかなかった――。



 ◇



「なぁ亮、お前って木島さんとあんなに仲が良かったっけ?」


 音楽の授業が終わり、教室へと戻る道中。

 翔太が不思議そうにそう語りかけてくる。


 翔太がそう聞いてくる理由は、わざわざ言われなくても分かっている。

 それは授業開始前、チャイムに滑り込む形で俺と木島さん二人で音楽室へと入った時のことだ。

 木島さんは、さすがに俺から腕は離してくれていたものの、二人の距離は肩が触れ合う程のゼロ距離。

 しかも去り際に、「じゃあねー」と可愛く微笑みながら、その手をひらひらと振る木島さんの親しげなお友達ムーブを前に、翔太だけでなくクラスの男子達はみんな驚いていたのだ。


 これまで、男子との距離が近いようで遠かった木島さん。

 誰とでも分け隔てなく接してくれる反面、男子相手には絶対に一定の線引を引いていたのだ。

 それでも、元々そのフワフワしたような可愛い性格から、そのはっきりとした線引きもこれまではさほど気にはならなかったのである。


 しかし、そんな木島さんが線引きを飛び越えて男のすぐ隣に立ち、そしてあの親しげなお友達ムーブである。

 それだけ見れば、周囲があんな反応になるのも当然と言えるだろう――。


 しかし実態は、木島さんは翔太と仲良くなりたいがため、まずは俺と仲良くなろうとしてくれているだけ。

 そんな虚しすぎる現実は、当然翔太本人には伝えられるはずもなく、「まぁ、同じ省エネ委員で少し気が合っただけだよ」と無理矢理誤魔化すしかないのであった。


 昨日の優に続いて、今日は突然の木島さんとの急接近――。


 そして彼女達は、どちらも翔太に気がある――。


 だから言ってしまえば、俺は本来全く関係がないのだ。

 彼女達が自ら、さっさと翔太へアプローチしてくれれば全て済む話なのである。


 そんな、無駄にややこしくなってしまっている状況に一人頭を悩ませていると、本日最後の授業もあっという間に終了するのであった……。



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― 新着の感想 ―
[一言] 相手の心情が直ぐに言葉にされない作品に久しぶりに出会いました。モヤモヤするけど、個人的にはこれが魅力。次回も楽しみにしています
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