旅立ちの前
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フィリアは、町の中央にある露店が立ち並ぶ区画まで出向いていた。
明日には、この町を旅立つ予定だ。
それまでに、旅路で必要な食料や生活必需品を買いに来ていた。
本来は、セリも同行する予定だったが、先日の戦いでボロボロになってしまった衣服を縫い合わせているため、一人で出向くことになった。
大きな鞄を背負ったフィリアは、保存が効きそうな食材を買い集めていた。
他には、着替えを数着程度購入したくらいだ。
と言っても、それだけでもかなりの重量なのだが。
フィリアが辺りに目を配りながら、歩いているとある雑貨が置かれた露店が目に入る。
どうやら、小物類の他にも幾つかの武器も扱っている様で槍、短剣、盾などが片隅に置かれていた。
「いらっしゃい……なんか気になるものでもあるのかい?」
その露店に近づくと、店主が声をかけてくる。
「えぇ、少し見させて貰ってもいいですか?」
「勿論だとも、好きなだけ見てってくれ」
フィリアは、その壁に立て掛けられていた槍を手に取る。
自分の身長ほどある槍だ。
量産品の様で、これと言った装飾はされていない安物だ。
「その槍が気になるのかい?」
「えぇ、まぁ……」
フィリアはある程度槍の扱いについては、心得があった。
盗賊まがいの冒険者に囲まれた環境で育ったため、武器には馴染みがあった。
その中でも、素人よりはマシ程度であるが槍を使った戦闘方法を会得している。
この先、ある程度自衛はできる様になって置かなければ行けない。
セリに守って貰うだけでは、駄目だ。
「その槍、銀貨十五枚でどうだ?」
「高いです、十枚に負けてはもらえませんか?」
「いや、最近武器の需要が高まっていてな。割高なんだよ」
「では、十三枚ではどうでしょうか? 十五枚で買うなら、他でより良いものが買えそうですし」
店主は、暫く悩む素振りを見した後、口を開く。
「わ、わかった……銀貨十三枚で売るよ」
「ありがとうございます」
フィリアは、そういうと店主に銀貨を十三枚渡す。
その対価として、槍を店主から受け取る。
銀貨十三枚にしては、少しばかりか高い気もするが、武器の価格高騰という話も嘘では無いだろう。
ギレア公国国境沿いでの、アンデットの異常発生、王都壊滅など高騰する要素は多々ある。
そう考えれば、安く買えたと言えるのかもしれない。
フィリアは、槍に付属してある紐を肩にかける。
少し背中が重いが許容範囲だ。
これで必要なものは全て買い終わったはずだ。
槍を買った露店を離れて、暫く歩いていると、ある人物が目に止まる。
それは、腰辺りまで髪を伸ばした癖毛の女だ。
魔術師じみたローブを纏っており、目の下いっぱいにクマができていた。
かなり整っている顔立ちではあるのだが、純粋に美人だとは呼べない、残念さを感じてしまう。
その女は、通路の隅で座り込んで丸くなっていた。
「あの、大丈夫ですか?」
心配になったフィリアは、彼女に声をかける。
様子からして、何か大変な事情でもあるのかもしれない。
「ひ、ひゃゃっい!!!?」
急に声をかけられた女は、まるで驚いた猫の様に飛び上がった。
別に驚かせるつもりはなかったのだが。
「す、すみません! 驚かせるつもりはなかったんです。でも、うずくまってたので心配になってしまって」
「ひゃ……は、はい……だ、大丈……夫……人酔い、し、しちゃて……」
女はおどおどと、途切れ途切れながらもそう答えた。
「人が少ないところまで一緒に行きましょうか?」
「あ、ありがと……き、君は、や、優し……んだ……ね」
女は、フィリアから伸ばされた腕を掴む。
フィリアは女の手を引いて、賑わいのある大通りから、外れの人気の少ない路地まで案内する。
人が芋洗いの様にごった返している大道を一本外れれば案外人が少ないものだ。
「あ、ありがとう……や、やっと、こ、呼吸が楽にな、なった……」
女はそう安堵の表情を浮かべていた。
「あの、家まで帰れますか。 そこまで一緒に行きましょうか?」
「……そ、そこまで、し、してくれる、の? 本当にや、優しい人……」
「勿論、そのくらいなら全然構いませんよ」
とは言ったものの、この見知らぬ怪しい女に付き合う必要はないのだが。
しかし、放っておいたら簡単にのたれ死んでしまいそうな気がして、放置する気にはなれない。
この極度に低いコミュニケーション能力でどうやって生きて来れたのだろうか。
「見つけました。勝手に居なくならないでください」
声のする方向を向くと、メイド服らしい衣装を纏った少女の姿があった。
それなりの遠目からなので良くは分からないが、人形の様な整った出立ちであるのがわかる。
「ボ、ボクの従者……のこ、迎えにきてくれた……みたい」
「では、私はついていかなくとも大丈夫みたいですね」
「うん……平気」
女は懐から、小さな真紅の石を取り出す。
「助けてくれたお礼……」
女はそういうと、その石を渡してくる。
「あの、これは?」
「火の魔法石っ、火球、く、くらいの、魔法なら十発は、う、打てる、はず……」
魔法石――かなり希少なマジックアイテムだ。
それも、10発分の火球放てるほどの魔力量となれば、金貨数十枚は下らない代物だ。
「いっ、いいんですか!? こんな希少なもの……」
「余して……た、奴だから、い、いいの……こ、ここんなっ、ぼ、ボクを、気にかけてくれてっ、あ、ありがとねっ」
女はそういうと、メイドらしき人物の元に歩んでいく。
メイドはフィリアに対して深々と頭を下げると、女に足並みを揃えてその場を立ち去った。
一体あの女は何者だったのだろうか。
見てくれからして、優秀な魔術師、もしくは魔法研究者などということは大いに考えられる。
それこそ従者を雇う余裕がある程度には。
一体彼女はなんだったのか。
そのことを脳内で巡らせながら、帰路へとついた。




