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惨事



かつて魔人族に滅ぼされかけていた人類は、異界より降臨した神により救済された。



しかし、神はやがて死に絶えた。



だが、その魂の欠片が適性ある人間に宿ると言う現象が、数百年後の現代まで続いている。


神の魂を持つ人間は"神人"と呼ばれ、世界のルールを逸脱した得意な異能《加護》が与えられる。



現在の六人の神人達は、六聖神人と呼ばれ、何度も魔人族の再侵攻を返り討ちにしてきた英雄達だ。



だが、その英雄も六人から五人へとなろうとしていた。





✳︎ ✳︎ ✳︎ ✳︎




王都の中心にある広場には、人だかりが出来ていた。



その中心には、薪が焚べられた杭が建てられており、一人の少女が縛り付けられていた。



身体中には、傷や痣などの痛みつけられた形跡が無数にあり、見るに耐えないほどに痛々しかった。



指や手足の骨が折れそうな所は全て折られ、目も耳も潰されていた。




この惨たらしい扱いをされている彼女が、六人の神人の一人であると誰が信じれるだろうか。



真紅の髪を持つ、淡麗な顔立ちの彼女が、大聖者の異名を持つ英雄カルディナ・サフィールの成れの果てだ。



「この裏切り者め!」


「人殺し!」


「私の子供を返せっ!」




民衆達は増悪と怒りがこもった瞳で、我を忘れたかの様にカルディナに石やそれに準ずる物を投げつける。



カルディナは、もはや抵抗する気力も無いのか、頭に直撃して、血が流れようとも無反応だった。




加護の力で、不治の病を治してもらった者、治癒できない様な大怪我を回復させて貰ったもの――その全ての恩を忘れてしまったかの様に、カルディナに罵詈雑言を浴びせていた。



カルディナが悪い事をしたわけではない、全ては濡れ衣だ。



そう、他の五人の神人達が、カルディナを落とし入れたのだ。




他の神人達はカルディナを恨んでいた。


カルディナが魔人族の血を引いているから、或いは単純な嫉妬か、理由は様々だ。



たが、少なくともこんな目に遭っていい様な悪人ではない。




やがて、カルディナの足元に火が付けられる。



それと同時に民衆の囃し立てる歓声が巻き上がった。




「ごめ……ごめん……なさ、セリ……わ、わた……しがっ」




カルディナは最後の力を振り絞って声を出した。




連日の拷問により、目も耳も殆ど見えも聞こえもしない。


彼女は最後に自分の弟子であり、愛娘であるセリに謝ることしか出来なかった。








 


薄暗い、醜悪な臭いが漂う地下牢。



その一室には、黒髪の10代前半程度の見てくれの少女の姿があった。

 

身体中には傷跡や生傷があり、淡麗な顔立ちも醜くなる程には、酷い有様だ。


彼女こそが、カルディナの弟子にあたるセリその人だ。


地下牢の一室に閉じ込められていた、セリはカルディナが火炙りに合う光景を見せられていた。




「嘘っ……な、なんで……」




魔法により鏡に映し出された、その光景を見て、セリは頭が真っ白になった。



「お前の師匠は惨めだなぁ。泣いてやがんのっ!!」



馬鹿そうな笑い声を上げた男の名前は、ストレイル・ファウマンだ。



この下衆な男が、師匠と同じ"六聖神人"の一人であると信じられる訳がない。



「な、なんで……私がここで苦しんでれば、お母さまに手は出さないって……」




カルディナが他の神人達に捕まったあの日、屋敷にストレイルが押しかけてきた。



その時、ストレイルがある提案をしてきたのだ。



"セリが苦しんでいる間は、カルディナには手を出さないと"



セリは勿論、カルディナを守りたいばかりにその条件を飲んだ。




それからは、地獄の毎日だった。


朝の夜かも分からない空間で、休む時間を与える間もなく、拷問をされ続けていた。


それが三年間も続いたのだ。正直まだ生きているのがおかしいくらいだ。



だが、セリはずっと耐えてきた。


15歳になる前の少女が、師匠――いや、母を守ろうとして、耐えられない様な事に今日まで、耐えてきたのだ。



「そんなもん、嘘だよっ! あっ、ちなみにカルディナにも同じような提案をしといたんだけど、君も拷問を受けてるって最後に教えてあげた時の、絶望した顔は最高に滑稽だったよ」




ストレイルは再び、不快な笑い声を上げた。




セリの抱く感情は一つ、殺意だけだった。



「殺し……やる……殺して……」



もう既に、抵抗する気力も何もかも失っていたが、憤怒の感情だけが、セリを奮い立たせた。



セリは身体を起き上がらせ様とする。


片腕と片目を潰されて、その他様々な痛めつけにより、まともに立てる状況ですらない。




「殺す? その身体で何ができるの? てか加護持ちの僕を殺せる訳ないじゃん」



ストレイルはそう言うと、蹴り付けようとする。



しかし、それよりも先に、立ちあがろうとしていたセリは、地下牢いっぱいに広がる自身の血だまりに足を滑らせて、盛大に転ぶ。



「うわっ、勝手に転ぶとか、情けないにも程があるだろ」



ストレイルは、剣をセリの首元に当てる。



「もう、飽きたし面白くもないし処分するわ。じゃあな」



「お前だけは、お前達だけは……何回生まれ変わっても絶対に殺してやる……」



「無理無理、お前らみたいな虫けらが、何したって俺には勝てねぇつーの。お前みたいなのが、生まれ変わってきても、迷惑なだけだから一生あの世にいろ」



次の瞬間、セリの視界は暗転した。



ただ、師匠おかあさまと一緒に平穏に暮らしていたかっただけなのに、こうなってしまったのだろう。



意識が完全に消え失せる数秒間の間、セリはそう思っていた。


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