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付喪の神人、動く

オスト王国王都壊滅。




カルディナの処刑直後、忽然として、王都中の人間がいなくなった。



と言うのも文字通り、まるで最初からいなかったかのように消えていたのだ。




それに加え、中央広場ではストレイルの最大火力の魔法――獄炎インフェルノ・フレアによる焦土が形成されており、何者かとの戦闘があり、その末にストレイルは所在不明となった。




カルディナの《消滅》の加護と考えるにはあまりにも課外範囲が広すぎだ。




この事実は、この数日間で各国へと情報が行き渡った。



それは当然、神人達にもだ。




その中でも、《付喪》の加護を所有しているスヴェラがその事態に動こうとしていた。







✳︎ ✳︎ ✳︎ ✳︎







オスト王国内にある大樹海――その中でも僻地と呼ばれる場所にスヴェラの住まう館が建てられていた。



基本的には、人との触れ合いを好まないスヴェラは、この大樹海の僻地で過ごしている。




「ど、ど、どどっ、どう言う事っ……なのっ?」



館の一室――寝台の上で寝っ転がっていたスヴェラは、身体を起こした。 





スヴェラは、腰まで髪を伸ばした癖毛の女だ。


特級の美人である筈なのに、精気のない表情加え、死んだ目、目の下一杯に出来たクマ、おどおどした口調、それらのせいで全てが台無しになっている。





「スヴェラ様、報告の通りです。カルディナの死体は焼却、王都は壊滅、ストレイルは行方不明……これ以上の事は存じていません」




そう答えたのは、淡麗な顔立ちの少女だった。


しかし、近くで彼女の肌を見れば、彼女の質感は人形的なものだ。



と言うよりかは少女は人形だ。





人間を精巧に模った人形に、スヴェラの加護で"命を吹き込んだ"自動人形オートマタだ。



「す、ストレイ……ル、ボクとの約束破って、か、かカルディナちゃんっ燃やしたの?」



「はい。火刑に処したそうです」



それを聞いたスヴェラは頭を押さえ込む。



「ど、どうしよう、どうしよう……これじゃ、"カルディナちゃん作り直せない" や、やだ、やだ!」



スヴェラは、明らかに動揺していた。



本来の約束では、ストレイルはスヴェラに綺麗な状態でカルディナの死体を受け渡すはずだった。


それなのに、ストレイルは燃やしてしまったのだ。




「す、ストレイル……ぼ、ボクに手を足もでない雑魚のく、癖にっ! ゆ、許さない……こ、殺したい」




スヴェラはストレイルに強い殺意を抱く、当の本人は既に殺されているのだが。




「ど、どうしよう……こ、これじゃカルディナちゃんっ、永遠にボクのものにならない……そ、そんなの、や、やだよぉ」




スヴェラは涙を浮かべながらも、自動人形オートマタの少女のドレスの裾を掴む。




カルディナは、役立たずと罵られてきたスヴェラに初めて優しさを向けてくれた恩人。



だが、カルディナはスヴェラだけに優しい訳じゃなかった。


博愛者で人間性も完璧だった――だが、それ故にスヴェラの様な精神異常者までを惹きつけてしまう。




カルディナを陥れて処刑に追い込んだのも、スヴェラを愛してくれなかった最愛の人(カルディナ)をスヴェラだけの人形にする為だ。





それなのに、死体が手に入らなければ、命を吹き込む事もできない。


ただ殺してしまっただけになる。



「スヴェラ様、こればかりは私にも……」




主人に泣きつかれているが、正直どう反応すればいいのかわからない。


人形ゆえ表情には出ないが、自動人形オートマタも相当困惑している。




「い、今すぐ、お、王都に、い、いく……カルディナっちゃん、まだあるかもっ」


「いけません。王都は未だ詳細な状況が分かってません、危険です」



王都の壊滅により、国の指揮系統は混乱状態、王都の探索もままならない状況だ。


そんなところに主人を生かせるわけには従者として進めるわけにはいかない。



「だったら、王都の探索、ぼ、ボクが引き受けるっ!」


「し、しかし……」


「ぼ、ボクはこれでも神人っ、こう言う、き、危険を、犯す、のが、し、仕事っ」


「で、ですが、現在動かせる自動人形オートマタは非戦闘用ばかりです。スヴェラ様自身は病弱な人間にすぎないのは理解してますよね?」


「だ、だったら、魔人領の、境界線をけ、警備してるっ、武装自動人形ウォリアーを全部引き下げ、て、お、王都に、集結、さっさせる!」



スヴェラの使役する人形の中でも戦闘力があるものは、殆どは魔人領の前線に集結させていた。



と言うのも、この時期は例年、魔人族側から小規模ながらも侵攻が行われる。


その為に、この時期限定で戦闘用の人形を前線に戦力として派遣していたのだ。




対魔人族に戦力を提供する。これも神人の責務なので、仕方がない事ではある。




「しかし、万が一魔人族の侵攻があった場合、責務を放棄したと言われても仕方ありませんよ」


「そ、そんなの、しっ知らない! ボクはそれどころじゃ、な、ない……そ、それともボクの意に反するつもり?」



スヴェラの発言に、自動人形オートマタはため息を吐く。


スヴェラに生み出された存在として、最終的な決定には逆らえないのだ。



「……わかりました。ですが、スヴェラ様が王都に乗り込むのは、武装自動人形ウォリアーが先行し、安全が確認できた後で構いませんか?」


「……うん、それでいい。あ、あと、ストレイルのクズが生きてたら、殺す、ぜ、絶対っ」


「はい、ストレイルがいた場合はスヴェラ様のご意向に添います……安全が確認できるまで近くの都市、ロ・ランブルで待機していてください。護衛も何体か付けておきます」


「わ、分かった……は、は、やく、行かな、行かなきゃ」



スヴェラは、部屋の外へと向かう。


そのあとを自動人形は、一歩下がって付けていく。




スヴェラは生まれ持って、身体が弱く、まともな日常生活を送れない程に病弱だ。



神人として、いや人間として、身体能力は底辺も底辺。


だが、魂を持たない物に命を吹き込むスヴェラの加護は、その欠点を補って余る程には強力だ。




スヴェラは身支度を手短に終え、館にいる自動人形オートマタ47体の内、身の回りの世話用の自動人形オートマタ2体――手元に残しておいた戦闘用の自動人形オートマタ4体を引き連れ、ロ・ランブルへと向かった。



それと同時に、魔人領との領域を警備していた自動人形オートマタ延べ319体が王都方面へと移動する様に命令を下した。

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