4,護衛してくれるらしい。
異世界生活2日目
うーん、体が痛い。
ベッドが硬くて薄いから寝心地が悪かったな。
色々あって疲れてたからちゃんと眠れたけどさ。
あ、そうだ。
【ログインボーナス】。
スキルを使うと、ぽとりとベッドに何か落ちた。
これは……何だろう?
拳大の水晶玉?丸くてつるつるした透明感のある水色の球だ。
ああ、【インベントリ】に入れて簡易鑑定すれば良いのか。
収納して、と。
『スキルオープ
スキル【クリーン】が込められたスキルオーブ。
使用すると念じればスキルを習得できる。』
え、すごく便利な物だ!
早速取り出して使ってみる。
暖かいものが体の中に流れ込んできた。
ステータスを確認すると、確かにスキル【クリーン】が増えていた。
早速自分に使ってみると……ジュワッと光に包まれて一瞬にして全身が綺麗になった。
足先から髪の毛までお風呂に入ったみたいにつるつる。
着ている服の汚れも綺麗さっぱりだ。
これは良い!
お風呂いらないじゃないか。
いやでもお風呂は入りたいな。
朝飯は何を食べよう。
昨日の夜ががっつりだったから軽く食べたいな。
パン……そうだな、パン屋のパンにしよう。
メロンパンとりんごジュースをぽちって食べる。
うん、美味しい。
さて、そろそろ宿から出るか。
1階に降りて行くと、外に行く扉のすぐ隣に誰かが立っていた。
作り物のような見た目の中学生ぐらいの茶髪の子供。
ノノだ。
やべ、正直忘れてた。
「ノノ、本当に来たのか」
「ん、護衛するって言った」
確かに言ってた。
けどまさか本当だとは。
「えっと……あの焼き菓子を守るってこと?」
「あの焼き菓子を用意できる君をまもる」
マドレーヌにそれだけの価値があるだろうか。
でもまぁ、今日は外に行く予定だから護衛として来てくれるのは心強い。
おっと、報酬を渡さないとな。
「報酬っていくつ渡せば良いんだ?仕入れの金額もそんなにかけられないんだけど……」
「3つほしい。昨日買ったのはぜんぶたべちゃった」
え、9個全部1日で食べたのか。
っていうか護衛の代金マドレーヌ3つで良いのか?
良いって言うんだから良いんだろうけど……。
【異世界商店】で1個200円のマドレーヌをぽちる。
【異世界商店】で購入した物は1度【インベントリ】にしまわれるので、それを出してノノに渡した。
「ありがとう」
ノノは瞳を輝かせて受け取った。
パッと消えたから多分収納スキルにしまったんだろう。
「今日は午前中は冒険者ギルドに行って魔物を狩りに行くから万が一危なくなったら頼むよ」
「わかった」
宿を出る前に今日の分の宿代を払っておいた。
ノノを引き連れて冒険者ギルドに向かう。
そこは昨日来た時よりも混んでいて、みんな競い合うように掲示板の依頼を剥がしていた。
あれに突撃する気にはなれないな。
少しの間待っていると、掲示板の前が空いてきたので移動して依頼を確認する。
俺が受けられるのはGとFランク。
Gランクの依頼は草むしりや荷物の配達など、町の中で完結する依頼ばかりだ。
Fランクはそれに加えて肉体労働。
魔物の討伐はEランクかららしい。
薬草採取とゴブリン退治はどのランクでも受けられて常設依頼として常に存在するようだ。
どれもこれも報酬金額が低くてとても1日大銀貨3枚は稼げそうにない。
やっぱり宿のランクを下げるべきだな。
「なにか受ける?」
「うーん……依頼は受けずに外に行こうか」
依頼は受けなくても魔物を持ち込めば買い取ってもらえる。
この世界にいる限り魔物との戦いは避けられないだろうし、早めに経験しておくに越したことはない。
外に出る前に【ジョブチェンジ】で【勇者】に変更して、と。
大きな門を出て行くと草原が広がっていた。
向こうの方まで続く道があってそこを歩いている人や馬車もある。
「こんな開けた場所に魔物なんているのか……?」
という俺の呟きにノノが反応した。
「草原には背のたかい草に身を隠す魔物が多い。それに出現型ならどこだろうといろんな種類の魔物がでてくる」
「出現型?」
魔物になになに型とかあるのか?
俺が魔物について詳しくないことを察したノノは詳しく説明してくれた。
魔物には繁殖型と出現型がある。
繁殖型はその名の通り、その地に棲みつき繁殖することで個を増やす魔物のこと。
主に洞窟や森の中に多く生息している。
出現型は空気中の魔素が凝縮されて魔物の形を作り出し生み出される存在のこと。
結界外のどこにでも現れるため、野営する際は簡易結界が必須となる。
町の近くでも出現型は問答無用で目の前に出現することもあるため周囲の警戒は必須。
ということらしい。
町や村には必ず結界石と呼ばれる結界を展開するクリスタルが設置されているそうだ。
よく見れば王都を覆うように透明な膜が展開されているのが見えた。
それをくぐって通るとそこはもう魔物がすぐ傍に現れるかもしれない場所だ。
聖剣を召喚しておいて気を引き締める。
周辺を少し歩いていると、すぐに魔物らしきものを見つけた。
膝ぐらいまでの大きさの大きな兎だ。
そいつは俺を見るなり襲い掛かってきた。
咄嗟に聖剣で薙ぎ払うと、兎はスパッと真っ二つに別れた息耐えた。
初めての魔物退治は呆気なく終わった。
生き物を殺した忌避感とかはあまり無かった。
この世界では魔物を狩るのは当たり前のことだ。
殺さなければ殺される。
兎を収納していると、背後からドサッと何かが倒れる音がした。
振り向くと、地面に緑の肌の醜悪な顔をした魔物、ゴブリンが腹に穴が空いて倒れていた。
後ろに出現型がいたのか。
「ありがとうノノ」
「魔物が出現するときはその場所の魔素がゆがむ。慣れるとすぐわかるようになる」
魔素のなんやらを読まないといけないらしい。
魔力やら魔素やらなんて無い世界から来たから全く分からないな。
草に隠れた魔物はなんとか見つけられるけど、背後から忍び寄って来る魔物なんかには気付けない。
そういうタイプは全部ノノが倒してくれた。
倒した魔物を回収しないのかと聞いたけど、この辺りのは雑魚だから回収してもそんなにお金にならないらしい。
欲しいならもらって良いと言われたので全部収納しておいた。
王都から少し離れた場所で魔物を狩ったが、酷く疲労感が溜まってしまった。
剣を振り回すだけでこんなに疲れないけど、と思ったら、どうやら聖剣から衝撃波を出すとスタミナが削られるらしい。
ただ斬るだけならスタミナ消費も無いみたいなので、その辺の魔物を倒す時はなるべく衝撃波は出さないようにしよう。
お昼に近付いてきたので少し休憩してから王都に戻り、冒険者ギルドに向かった。
買い取りカウンターで狩った魔物を全部買い取りしてもらったけど、解体費用を差し引かれて全部で小銀貨5枚と銅貨9枚にしかならなかった。
数的には結構狩ったんだけど……やっぱりこの辺りにいる魔物はお金にならないらしい。
出現型なら場所に限らず強い魔物が出ることも稀にあるそうだけど、今回出て来たのは全部ゴブリンだったからな。
広場のベンチに座って飯にしよう。
「護衛してくれたんだから昼飯奢るよ。何食べたい?」
「なんでもいい」
ふむ。
じゃあ俺の食べたい物で良いか。
屋台でも使った折り畳みのテーブルを出して、と。
パスタ専門店のメニューを開く。
ぽちってテーブルに出現したのはごろごろ牛肉が入ったボロネーゼだ。
俺とノノの分2人分。
「いただきまーす」
フォークで絡めて口に運ぶ。
うーん、美味い。
日本の飲食店のレベル高いよな。
ノノの方を見ると、俺の食べているのをジッと見てからフォークを握って食べ始めた。
ちょっと歪だが、ちゃんとフォークに巻き付けて口に運んでいる。
この世界にはパスタは無いのだろうか?
「ん、おいしい……これなんて料理?」
「パスタって料理のボロネーゼって種類だな」
「パスタ」
そういえばノノに渡したマドレーヌの名前も教えてなかったので教えると、何度も繰り返し口にして覚えていた。
昼食を食べ終えて缶コーヒーを飲んでまったりする。
ノノはコーヒーは口に合わなかったみたいなのでりんごジュースを渡すと気に入ったみたいだった。
「午前はそんなに稼げなかったし、昼はまたマドレーヌでも売るよ」
何気なくそう言うと、待ったがかかった。
「ちょっと待って、昨日も思ったけどあの味のマドレーヌが小銀貨2枚は安すぎる」
「え……そうかな?」
「そう。ふつうは砂糖をたくさん使ったお菓子なんて貴族しかたべられない。あれ1つで大銀貨1枚はする」
マドレーヌ1つが10,000ガル?
日本でも聞いたことないぞそんな高級菓子。
「でも露店で1つ大銀貨1枚の焼き菓子なんて売れないだろ」
露店通りの客は平民だけだ。
平民街に来るような貴族なんて見かけないし。
「数が用意できるなら商業ギルドに相談すれば良い。仲介手数料はとられるけど、貴族向けに売ってくれる」
「ああ、そういう手もあるのか」
「それかマドレーヌなら全部ぼくが買い取る」
ノノは相当マドレーヌを気に入ったんだな。
「買ってくれるならそっちの方が手っ取り早いかな……」
「交渉成立。いくらでも買う」
とのことなので大銀貨1枚分のマドレーヌを購入した。
1つ200円なので50個だ。
ノノは1つ大銀貨1枚で買おうとしてくれたが、護衛もしてくれてるし手間も省けるので1つ小銀貨5枚で売ることにした。
合計で25万ガルの売り上げだ。
ノノは買ったそばから幸せそうに食べていた。
これで1泊大銀貨3枚の宿でもしばらく泊まれるようになったな。
一瞬ノノにマドレーヌを売りまくればいくらでも稼げるんじゃないかと思ったが、さすがに申し訳ないしマドレーヌばっかりそんなにいらないだろう。
ノノもいくらでもお金を持ってるわけでもないし、他に稼ぐ手段を見つけないと。