1,異世界に召喚されました。
「え?」
という誰かの声に顔を上げると、そこはもう知らない場所だった。
石造りの壁や床、天井には光る球体が浮かんでいる。
部屋の中央にはクラスメイトたち。
俺たちを囲むようにして鎧の人たちが立っていて、正面には豪華な装飾を身に着けた王様っぽい人やローブの人たちがいた。
俺はすぐに思い当たった。
異世界召喚ってやつだ。
「召喚に成功しました!」
「うむ、よくやった!」
ほら召喚とか言ってる。
しかし高揚や興奮なんかよりも俺は嫌な予感がしていた。
自らを国王だと名乗ったオッサンは芝居がかった口調で話し始めた。
ここは大陸1の大国、アルファリア王国。
世界を征服しようと企む魔王たちに立ち向かい、戦いを繰り広げている正義の国である。
しかし近年魔王たちが力をつけてきて、国土が脅かされ始めた。
このままでは愛する国民たちに危害が及んでしまう。
そこで古に伝わりし勇者召喚の儀式を行った。
これは異世界から勇者のジョブを持つ者を召喚する儀式である。
今回はたくさんの者たちが召喚されたが、この中に勇者がいるはずだ。
どうか我々の聖戦のために力を貸してほしい。
魔王を討ち滅ぼし世界を救った暁には爵位と望む物を褒賞として与えよう。
という話だった。
胡散臭い、というのが素直な感想だ。
正義の国とか聖戦とかいうのが胡散臭いことこの上ない。
しかしクラスメイトたちの半数以上はわくわくした表情をしていた。
「それではステータスを確認して頂きます。ステータスが見たいと念じながら【ステータスオープン】と唱えれば自分のステータスを見ることができます。1人ずつ聞き取りに向かうので、ジョブとスキルを正直に話して下さい。聞き取りが終わった方はそちらへ掃けて下さい」
ローブを着た紙の束を持った人が端っこの生徒から聞き取りをしに行く。
みんな慌てて【ステータスオープン】と唱えてステータスを確認する。
俺も確認してみると……
藤崎 夏樹 17歳 男
ジョブ:異世界人 レベル:1
魔力ランク:G 魔力量:G
スキル:
【異世界商店】……あらゆる物を購入できる店への扉を召喚する。
【インベントリ】……容量無限の収納スキル。
【ログインボーナス】……1日1回ログインボーナスを受け取れる。
【ジョブチェンジ】……ジョブを自由に変更して、そのジョブに相応しいスキルを身に着ける。
ふむ、これが俺のステータスか。
少なくとも国を救うとかそういった役割ではなさそうだ。
いや、【ジョブチェンジ】の使い方次第では役に立ちそうなのか?
これは素直にステータスを話したくはないな。
どうにかして誤魔化したいところだ。
だって役に立つと判明してみろ、きっとこき使われるに決まっている。
誤魔化し方を考えていると、俺の番になった。
「ジョブは【異世界人】。スキルは買い物スキルと収納スキル、それとログインボーナスです」
そう言うと、ローブの人は微妙な表情をした。
「聞いたことのないジョブですね。異世界人なのは当たり前だと思いますが……それに買い物に収納ですか。ログインボーナスというのはよく分かりませんが……商人向けのスキルのようですね。貴方は勇者ではないようです」
うん、嘘は言っていないしこの反応も無理は無い。
向こうが探しているのは勇者だからな。
それ以上は特に追及されなかった。
全員のステータスを確認し終えた結果、俺たちのクラスには3人の勇者と2人の聖女、1人の聖騎士がいることが判明した。
それに戦闘向けのジョブ持ちも多く、魔王との戦いに相応しいと王様たちは喜んでいる。
しかし俺のように戦闘には不向きなジョブ持ちもそこそこの数いた。
3人の勇者の中に友人の1人がいた。
彼が勇者だと判明するまでは隣にいたのだが、勇者だと判明したら彼はローブの人に連れて行かれてしまった。
「彰のやつ大丈夫かな、洗脳とかされてたりして」
「フラグ建てるなよ……大丈夫だろ、多分」
共通の友人たちとぼやく。
いつも一緒にいる4人……今は彰を除く3人しかいないが。
その中でも戦闘に不向きなのは俺だけだった。
勇者、聖女、聖騎士は王様と共に別室へ先に連れて行かれた。
そして戦闘ジョブ持ちも鎧を着た人たちに誘導されて連れて行かれる。
ここに残ったのは戦闘には不向きなジョブ持ちの7人だ。
「お前たち役立たずたちには城を出て行ってもらう」
……は?
一瞬思考が止まった。
いやいや、マジかよ。
「そんな!?勝手に拉致しておいて追放なんてあんまりです!」
「うるさい!役立たず共が我々に意見するな!!」
槍先を向けられて怯むクラスメイト。
ほんとうに刺すなんてしないと思いたいけど、異世界人だし何をされるか分からない。
「せめてもの情けにしばらく宿に泊まれる分の金は用意してやった。これは国王陛下の温情である、ありがたく思えよ」
情けをかけるならせめて城で面倒見るとかしろよ。
そんな思いも虚しく1人ずつお金の入った小さな袋を手渡される。
そして無理やり背中を押されたり引っ張られたりして城から追い出され、そこから更に貴族街と呼ばれる場所を抜けて平民の暮らすエリアまで連れて行かれた。
「良いか、我々と関わろうなどと思うなよ。お前らとは住んでいる世界が違うのだからな」
そう言って城の関係者は行ってしまった。
途方に暮れる7人。
「……どうする?」
「お城の中にいるみんなとどうにか連絡取ろうよ。追い出されたって言ったら助けてくれるって」
「そう簡単にいくかな。いくら勇者とか言われたって城は勇者の物じゃないんだからさ」
「スマホ繋がらないの?」
「異世界だぜ?電波飛んでないって」
わいのわいの言いながら相談するが、良い案は浮かばない。
そして男子生徒が言った一言が女子生徒を怒らせてしまった。
「それに勇者ってもてはやされて俺たちのことなんてどうでも良くなってるって。ほら、持ち上げられたら良い気になって態度でかくなるじゃん」
「どうしてそういうこと言うの!?あの子はそんな子じゃない!もう良い、あんたたちは頼らない!もう私たちに関わらないでよね!行こっ!」
3人いた女子生徒はグループを組んで行ってしまった。
「何だよあいつらぷりぷりしやがって。後で泣きついたって知らないからな」
お前が余計なことを言ったのが原因だろうが。
こうして俺たち男子生徒4人が残された。
「なー、オレ別行動で良いか?せっかく異世界に来たんだし、自由に動きたい」
と言って1人が脱落。
俺たち3人が残される。
が、俺以外の2人は友達のようで。
「藤崎も別行動で良いよな?」
「あ?あー……うん」
ということで俺も1人行動となってしまった。
まぁそれは別に構わない。
なんとなくステータスは明かしたくないし、むしろ好都合だ。
去って行く背中を見送って俺もひとまずここから移動する。
ここは貴族街へ向かう門の真ん前だから目立ちまくる。
移動しながら袋の中身を確認する。
中身は大銀貨10枚、と。
移動してる最中に貨幣価値については教えてくれてたんだよな。
通貨は共通でガル。
鉄貨 10
銅貨 100
小銀貨 1,000
大銀貨 10,000 1万
小金貨 100,000 10万
大金貨 1,000,000 100万
白金貨 10,000,000 1000万
王金貨 100,000,000 1億
らしい。
しばらく宿に泊まれるだけのお金って言ってたけど、10万ガルしかないんだよな。
ガルの価値がよく分からないけど、日本のホテルに泊まる感覚だと少ないんじゃないだろうか。
とりあえず宿の値段を調べに行くか。
大通りを歩いていくつか宿を見つける。
城があったってことはここは王都なんだろうし、宿の数も多いな。
それに人の数も多くて活気がある。
色々調べたが、平民街で1番高い宿で大銀貨7枚必要だった。
そこそこの宿で大銀貨1枚から大銀貨3枚。
大通りから外れた裏路地の宿で小銀貨3枚だった。
節約するなら裏路地一択なのだが、あまり治安がよろしいとは言えない。
詳しく話を聞いてみたが飯無し、鍵無しの大部屋で雑魚寝ということだった。
何をされても荷物を盗られても宿側からの一切の保証は無し。
それに裏路地はボロ着を纏った人が奥の方に潜んでいてこちらを品定めするように見つめているから慌てて路地裏から大通りへ逃げた。
泊まるなら大銀貨1枚の宿だな。
と思ったが、その宿は満室だった。
大銀貨3枚の宿に1つだけ空き室があったので確保しておく。
良かった、これで今日の寝る場所は大丈夫だな。
ひとまず部屋を確認する。
狭い部屋でベッドと机と椅子しかない。
あ、机の上に蝋燭がある。
けど付属品はそれだけか。
鍵がかかるだけマシだな。
ステータスを開いてスキルをじっくり確認する。