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クローバー  作者: 神威さつき
1/1

~プロローグ~

 『一目惚れって、本当にあるんだ。』


 彼女の何気ない仕草や表情をつい目で追ってしまう。

心優しい、活発な女の子で、クラスのマスコット的存在。

そんな彼女を、つい見てしまうからこそ、分かってしまう。

彼女の心が今、誰を向いているのか。



 『彼女はまるで、自分と同じだ。』


 新しく家族になった人がいる。

母の再婚相手の娘で、同じ学年の仲間。

明るくて気配り上手で、とても頼られる人。

そして、とても自分を隠すのが得意な人。



 『彼は、とても良い人だ』


 他人の心の機微には、非常に鈍感。

きっと“誰か”にとってはヒーローそのもの。

困った人を放っておけず、友情を大切にする。

来たばかりの自分を、快く迎えてくれたいい人。





 「再婚、したいと思うんだけど・・・いいかな?」

珍しく母が、畏まって聞いてきた。

父が他界してから、女手ひとつで俺を育てるために、

仕事人間だった母が、だ。

俺は少しだけ考え、

「いいんじゃないかな?

 きっと父さんも、祖父ちゃん祖母ちゃんも反対しないと思う」

と答えたら、母はそっと涙を流した。


 父はすごく穏やかな性格で周りを安心させてくれる、

それでいて頼りがいのあるそんな人だった。

 母もそんな父の人柄に惹かれ、口説き落とし、恋愛の末に結婚。

当時から父はすごくモテていたところで、

正攻法で攻略した母の行動力は本当にすごかったらしい。

 そんな父も、ふとした拍子に不調を感じるようになって、

精密検査を行ったところ、日本人の死亡原因第一位を占める病気が発覚。

既に全身に転移しており、手術による延命よりも、

「家族との時間を大切にしながら残せるもの」を即座に選んだそうだ。

 当然、母や俺は少しでも長く生きて欲しいと、涙ながらに訴えたが、

最後くらいは、良い思い出を残して去りたい。

そう言って2年後、俺が中学生だった頃にこの世を去った。


 父が俺に残してくれたもののひとつは、料理をはじめとした家事のノウハウ。

もちろん休みの日は、母が手料理をご馳走してくれるが、

普段は学校から帰ったあとに、仕事で疲れ切った母を出迎えるために頑張った。

 悲しみはあったけれど、そのおかげで、二人で一番悲しい時期を乗り越えられたと思う。

家事をするために友人の誘いを断っているうちに、だんだん誘われなくなって、

でもそのうちに受験シーズンに入り、友達同士の付き合いそのものも有耶無耶になり・・・。

 母は、父が残してくれた遺産には一切手を付けず、仕事でキャリア街道を進んでいった。

だからこそ、進学を辞めて仕事を探そうとしていた、

子供の俺なりに考えた“家のために”なんて言い訳はサラっと流され、

すんなり進学させてくれていた。

 でも、心から納得していたわけじゃなく、

相変わらず授業が終わったらすぐに帰って家事をしていたけれど、

中学時代の空気感も嫌だったから、周りの空気を読んで演じて、

仮面を被ったような人付き合いをするのが、少し得意になっていた。

きっと母は、そんな俺に気付いていて心を痛めていたんだと思う。


 どこまでも現実的で、本当に『仕事人間』。

かと思いきや、しっかり家庭も大切にする母。

いつか倒れるんじゃないかと本当に心配していたが・・・。



 「そっか・・・良い人に出会えたんだね。

  新しく父さんになってくれるのは、どんな人なの?」


 そう聞いてしまったのをちょっと後悔するくらいの、ノロケが始まってしまった。

何でも同じ職場の同僚で、傍目からは母と同じくワーカーホリックな人らしい。

そして、その人も実は父子家庭で「家族のため」という目的があり、

お互い相談しあっているうちに意気投合、どんどん惹かれていったそうな。


 「あの人に惹かれたのもあるんだけど、

  やっぱりもっと、家族との時間を大切にしたいなって」


 このままでは自分も身体を壊してしまうだろうって自覚はあったらしく、

相手の人も同じ思いを抱えていたらしい。


 「だから再婚して、お互い助け合えたらいいねって」


 そう照れくさそうに話す母を見ていると、

以前に「俺が母さんを支えるんだ!」なんて意気込んでいたのが、なんと子供っぽいことか。

まだまだ子供だけど、あの時より少しだけ成長した今ならわかる気がする。

 話を聞いただけだと

「結局俺や相手の子供のためで、自分たちの幸せは二の次なのでは?」

なんて気がしなくもないんだけど、表情を見る限りはきちんと自分の幸せも考えているようだった。

それなら、反対する理由なんてそもそも無い。


新しい父とその子供と、母と俺。

2人だけの家族ふたつが、4人の家族ひとつに。


「少しだけ遠くなるから転校することになってもいいかな?

 もちろん、今の学校にも通えなくはないと思うけど・・・」

「大丈夫。それなら俺も少しだけ肩の力を抜いて、

 新しい場所で気持ちを新たにしたいから。」

前向きなんだか後ろ向きなんだかよくわからない返答をした俺に、

母は少しだけ笑った。



 「ところで新しい家族になる、もう一人の子供ってどんな人なの?」

大切なことをまだ聞いていないと思い起し、質問すると

「・・・実はまだ会った事ないんだよね」

なんて、少し気まずそうな返答が母から返ってきた。


「諒一と同い年の女の子だってのは聞いてるんだけど」


 それは・・・大丈夫なのだろうか。

一抹の不安を抱きながら、少しだけ月日が流れ、

俺と母は、新居・・・新しい父と、娘の朋絵さんが住む家に引越しをした。




“新しい家族”

「初めまして。河原諒一改め、瀬野諒一です。

 不束者ですが、よろしくお願いします。」

不器用な、でも変なところだけ器用でちぐはぐな家族が、

少しずつかみ合って、成長していく。


“新しい学校”

「わ、二人と同じクラスだったんだ。

 諒一くん、学校でも宜しくね。」

新しい家族は、同じ学年の仲間である瀬野朋絵。

不器用な兄妹は、穏やかに時間を進めていく。


“新しい友達”

「朋絵から聞いてるぜ!

 お隣同士、同じクラス同士よろしくな!」

距離感がゼロに近い、でも不思議と嫌な感じがしない。

長い付き合いになりそうな、親友・・・黒沢亮介との出会い。


“初めての恋”

「窓越しに改めまして!

 朋ちゃん、亮介くんともども宜しくね!」

 3軒の家の、4つの窓で毎晩のように開催される

 “幼馴染の会”への仲間入り。

 そして、倉田瑞乃への初恋。



 これから始まるのは、少しだけドタバタして、

今までになかった新しい生活。

少しだけ複雑な人間関係と、恋愛感情と。

空気を読みすぎて、これまで踏み込めなかった自分の心に向き合う。

そんな、物語。

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