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(3)対応策は、人それぞれ

『全社員に通達。本館9階男性用トイレ、右端個室は終日使用不可とする。この警告を無視して立ち入った者がいかなる不測の事態に陥っても、我が社は一切関知しない』


 社内メールでそんな通達が出た日、その年入社の香は迷わず行動に出た。


「千恵、男性用トイレにいるのを見られて痴女扱いされるのは嫌だから、ちゃんと説明してよ?」

「なんて説明すれば良いの!? それに以前ここに入ったって噂の高杉先輩も、『入るな』とだけで他は何も言わないし!?」

「だから特に何も言う事がない、単なる度胸試しなのよ。うちのエースの高杉先輩の他にも、入ったって噂のある人は全員管理職や出世頭じゃない。私が入らなくてどうするのよ」

「もう知らないから」

 上昇志向の強い友人に巻き込まれた千恵は、トイレ入り口で溜め息を吐いた。しかしそれから10分強が経過し、千恵は自身の職場に駆け込んだ。


「大変です!! 例のトイレに香が入って、ドアの開閉音が聞こえて10分経っても出てこないので確認したら、どこの個室にもいないんです!!」

 涙声での絶叫に、室内が騒然となる。


「あれほど言ったのに、入る奴があるか! しかも、なんで10分も放置した!?」

「高杉、ちょっと待て!?」

 千恵の訴えを聞いて、同僚達は高杉を筆頭に問題のトイレに駆け付けた。すると中で、荒々しいドアの開閉音がする。


「なんの音だ?」

 全員が入り口から中を覗き込むと、奥の個室からふらりと香が出てきた。しかしその顔は無表情で、皺だらけのスーツや顔には、所々返り血のような物が付着していた。


「香? 顔とか服に、血が……」

「……そう?」

 千恵の呼びかけに、香は手洗い場の鏡で自身の顔を確認する。すると両手で水を受けて豪快にそれを洗い流し、ハンカチで化粧ごと水分を拭き取って職場へと向かった。

 その全てを拒絶する如き不気味な背中に、誰も声をかけられなかった。


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