復讐-3
「どうも、ありがとうございました」
タクシー運転手のおっさんに礼を言い長四郎は燐が宿泊しているホテルに入っていく。
正面玄関を入ると燐の姿がもうそこにはあった。
「遅い!!」燐の第一声はそれであった。
「どうも、すんません」何故か、謝る長四郎。
「てか、何で沖縄に居るの?」
長四郎は燐からの連絡を受けてから20分程で来たのだ。
「お陰様で小忙しくさせて頂いておりまして。浮気調査で沖縄に出張調査して今日、帰る予定だったんですけどね」
「あ、そ」素っ気ない返事をして、自分について来るよう首を横に振って一人歩き出す。
「ニュースで見たけど、殺人事件があったらしいな」
「そう。最悪な事にその現場に立ち会っちゃったの」
「ラモちゃんまさか、工藤新一症候群を患っとるんと違う?」
「なんで、関西弁。てか、工藤 新一症候群って何?」
「知らんの? 工藤新一症候群またの名を金田一一症候群という。行く先、行く先で人が死ぬ。それはそれは恐ろしい病気なんやでぇ~」
長四郎の似非関西弁にイライラする燐は黙って長四郎の言葉に耳を傾ける。
「完治するまで、10年かかるんやで」
「うるさいわい!!」
燐は久々の蹴りを浴びせる。
「キィー」ショッカー怪人の断末魔のような声を上げて倒れる。
長四郎とリリは最初の事件が起きたバイキングレストランへと来ていた。
只、規制線と見張りの制服警官がいるので容易に中に入ることは出来なかった。
「で、どうするの?」
「う~ん」燐は少し考えると「お巡りさん。すいません」と謝罪したうえで正拳突きをかまして立ち番の制服警官を気絶させ中に入る。
「あ~あ、これでラモちゃんは公務執行妨害で前科者の仲間入りだな」
「なんか言ったか?」
燐は拳を見せながら長四郎に尋ねる。
「いえ、何も」
そして、燐は青髪が倒れたテーブルに案内する。
「ここが最初の事件現場?」
「うん、そう」
長四郎はテーブルの下や周りの環境を隈なく見ていく。
「どぉ? なんか、分かった?」燐は手掛かりがあったか聞く。
「ハハハっ、さっぱり、分からない」
「あんたは、ガリレオか!」
「そんなことより、死因は毒殺?」
「分からない」
「そうか。よし、東京に帰ろう。じゃ、お疲れ様」
長四郎はそう言って立ち去ろうとすると誰かとぶつかった。
「あ、すいません」長四郎がそう言った瞬間、その手にガチャリと手錠を掛けられた。
「公務執行妨害の容疑で逮捕する。なんてね。久しぶり、長さん」
「あ!」
目の前に居る肥後を指さす長四郎。
「何年ぶりかな」
「11年ぶりじゃないすか? 肥後さん」
「え? 知合い?」
燐は長四郎と肥後を交互に指をさし、事実確認する。
「そうだよ。ラモちゃん」
「ラモちゃんって呼ばれてるんだ。君」
「ま、まぁ」
この親父も絶対、自分の事をラモちゃん呼びになるんだろうなと確信する燐を他所に話は続けられる。
「長さんが来てくれたら百人力。事件解決に協力してくれる?」
「そういう依頼で来ましたから」
「依頼?」
「この小童ですよ。この小童」燐を見ながら依頼人が誰なのか肥後に教える長四郎。
「へぇ~」
肥後は興味深いと言った顔で長四郎と燐を見る。
「じゃあ、事件の詳細を聞かせてください」
「任せて~」
肥後はすぐに部下に連絡して捜査資料の手配をし、長四郎と燐をホテル内に設置された捜査本部へと案内する。
捜査本部はホテルの披露宴会場に設置されていた。
「近くの警察署が小さいものだからここの場所を借りさせてもらっているの」そう前置きした肥後は二人を席に案内する。
席に着いた長四郎と燐に用意された捜査資料を渡した肥後は説明を始める。
「先ず、殺害された人物について」老眼で見えないのか目を細めて資料を遠ざけたりしながら読み上げていく。
「最初に殺害されたのは東京都在住の全手 清算24歳のフリーター。死因はトリカブトの毒による中毒死。次の被害者が取田 景品23歳。この人もフリーターで死因は首を吊った事による窒息死。今現在、分かっていることはこれぐらい」
「あの他の3人が犯人の可能性は?」
「んなことよりラモちゃん、被害者の仲間を知っているの?」少し驚く長四郎。
「うん、昨日、絡まれたから」
「その話、詳しく聞きたいな」
燐は長四郎と肥後に昨日、起きた事を話した。
「そんな事がねぇ」自分の顎をトントンと叩きながら肥後は何かを考えているようだった。
「成程、その腹いせにラモちゃんが殺害したと」
「んなわけあるか!!」全力のツッコミを長四郎の後頭部に叩き込む。
「ぐべっ!!!」
いつものように机に突っ伏して意識を失う長四郎を無視し、燐は肥後に質問する。
「あの、肥後さん。残りの3人は今何をしているんですか?」
「現状、犯人の可能性が高いから署で取り調べしてる。何か、気になることでも?」
「事件発生時の事なんですけど」
「ほう」
「あの3人、助けようともせずにただ見ているだけだったんですよ」
「つまり、残りの3人が犯人の可能性が高い。そう言いたいわけ?」肥後の言葉に頷く燐。
「動揺していたっていう可能性はないの?」意識を取り戻した長四郎が話に入ってきた。
「それ、どういう意味?」
燐は自分の推理に不服があるのかと言わんばかりの顔で長四郎を見る。
「いや、あいつらは自分達が狙われる心当たりがあるんじゃないか?」
「具体的には?」
「んなことは知らねぇよ。取り敢えず、仲間の1人が殺されたので次は自分の番じゃないのか? そういう事を考えていたんじゃんないか。現に仲間2人殺されているんだから」
「確かに長さんの言う通りかもしれないな」肥後は一人頷いて納得する。
「という事で、彼らが宿泊する部屋へと行ってそれを確かめましょう」
長四郎は立ち上がりながら、次の行動を指示する。
「鍵持ってくるから待ってて」
肥後は早速、部屋の鍵を取りに行った。
「さ、気合い入れてくわよ!」そう言って燐は、長四郎の尻を思いっきり叩く。
「ヒヒィ~ン!!!」
捜査本部に長四郎の雄たけびが響き渡るのだった。




