引導-10
「君はどこから、これを入手したのかな?」
遊原巡査は女子生徒に質問した。
「言えません・・・・・・」
「どうして、言えないの?」
明野巡査が問うと、女子生徒は小刻みに身体を震わせるだけで答えない。
「参ったな・・・・・・」遊原巡査は目で明野巡査に合図すると明野巡査はコクリと頷いて
「行こうか」と留置場へと連れていく。
「ありゃ、何か脅されてるな」
取調室横にある個室で取り調べの様子を見ていた佐藤田警部補がそう呟いた。
「脅されてるって、誰に?」燐がそう言うと「さぁ?」と答える佐藤田警部補。
「ラモちゃん、いっちょ調べてみるか」
「いっちょ調べてみるかって。あんた、手を引くんじゃなかったの?」
「手を引く?」
「そうなんですよ。こいつ、公安のおっさんから脅されてすんなりOKしたんです」
「ほぉ~ 公安が出張ってきてるのか」
「そうなんですよ。どうにかなりませんかね?」
「探偵さんの頼みでもそれは、ちょっとねぇ~」
「班長。ちょっとお話が」
遊原巡査が部屋に入ってきてそう告げた。
「おう。今、行く」
長四郎と燐に一瞥し、佐藤田警部補は部屋を出て行った。
「どうやって、元締めを見つけるの?」
警視庁のカフェテラスでお茶をしながら、燐は長四郎に尋ねた。
「早いのは、捕まえたあの子に聞くことだけど」
「なんか、すいません」と一緒にお茶をしていた明野巡査が謝罪する。
「いや、泉ちゃんが謝ることはないよ」とすかさずフォローを入れる長四郎。
「そうそう。でも、あの怯えようじゃ相当、ヤバい筋の人間だよね。元締めは」
「ラモちゃんの言う通りかも。留置場まで付いて行ったけど、ずぅ~っと、震えてたんだよ。何がそうさせるのか・・・・・・」
「泉ちゃん名探偵みたい」
「名刑事といって欲しいな。ラモちゃん」
「ごっめぇ~ん」と燐は手を合わせて謝罪する。
そんなやり取りをしていると、長四郎の頭にある閃きが走った。
「ん? 待てよ。待てよ」
「どうしたんですか?」
「泉ちゃん、こういう時に声を掛けない方がいい。何言っても聞こえてないから。やぁ~い、バカ、バカ、バカ」と言うと長四郎から返事が返ってこない。
「ね?」と燐がそう言うと「あ、うん」とだけ答える明野巡査。
「聞こえてるからな」長四郎はちくりというのだった。
「で、何を思いついたの?」
「思いついたというか、元締めが居そうな場所がピンっと閃いただけ」
「そこどこなんです?」
「泉ちゃん、それは言えないなぁ~」
「なんで? 言えないの。教えなさいよ」燐がそう言うと「え~ ラモちゃんにも言いたくないのに?」と言う。
「言いなさい!」
「言ってください!!」
女子二人に詰め寄られる長四郎。
「えぇ~」戸惑う長四郎なのであった。
長四郎は一人、新宿に来ていた。
目的は金田一小五郎に会うためだ。
「よぉ。お待たせ」と金田一に挨拶する長四郎。
金田一は居酒屋で先に一杯、引っ掛けていた。
「待った。待った」
「それは悪かった。で、頼んでいたことは?」
「調べたよ。これだ」
金田一は一枚の封筒を取り出して、長四郎に渡す。
封筒の中から冊子を取り出して、読み始める長四郎。
「お~ こりゃたまげた。元締めはこいつか」
「驚いたか? 俺も驚いた」と答える金田一の言葉どおり、元締めは棒予備校の有名講師であった。
「しかも、半グレ連中と仲が良いとなると、女の子が口を噤むのも分かるな」
「そうなのか?」
「そうなんだよ。でさ、また頼まれて欲しいんだけど」
「今度は何を調べれば、良いのかな?」
そう聞かれた長四郎はニヤッと笑ってから、用件を伝えるのであった。