引導-9
翌日、長四郎は事務所にその身を置いていた。
そして、ソファーに寝転がり、うわ言のようにぶつぶつと呟く。
「長四郎、居るぅ~」
そう言いながら、燐は事務所に入ってきた。
「居るぅ~」と返事をしながら、足を挙げる。
「まさかとは思うけど、公安のおっさんの言うこと大人しく聞いているんじゃないでしょうね?」
「ご名答」
「呆れた。どうして、素直に聞くのかな?」
「ラモちゃん、命を二回も狙われたんだよ。こっちは」
「そんなんで、へこたれないのが熱海長四郎でしょ?」
「凹むは!」長四郎はソファーからその身を起こし、反論する。
「嘘ぉ~」訝しんだ目で長四郎を見る燐。
「本当です。それより、何しにきたのさ」
「あんたをデートに誘い来たの」
「デぇ~トォォォォ~ パパ活の間違いじゃないの?」
長四郎がそう言った瞬間、光の速さで燐の拳が繰り出されるのであった。
「あ~ 痛てぇ~」
長四郎は痛む頬を抑えながら、燐に連れられて歩く。
「Overな奴・・・・・・」
「で、どこに行くのさ?」
「私の勘が呼んでいるところ」
燐はスキップしながら、行き着いた先は都内有数の予備校であった。
「おい、まさか・・・・・・」
「そのまさか。はい、これ」
燐は手に持っていたカバンを長四郎に手渡す。
「これ、何?」
「勉強道具。さぁ、勉強時間よ!」
燐は長四郎に気合を入れるように尻を思いっきり叩いた。
こうして、二人は予備校に潜入した。
長四郎は自習室で大人しく勉強するふりをして、生徒の観察をする。
そして、燐は授業を受けながら、生徒の観察をしトォォルンを売りさばく売人の監視をする。
が、目ぼしい人間は見当たらない。燐はヤキモキしていた。
長四郎は柴田恭兵が歌うRUNNING SHOTを口ずさみながら観察していると、一人の女子学生が目に留まった。
先程まで机の上に置いていた黒色のポーチが無くなっていた。
筆箱に使っていたのかとも思っていたのだが、そんな感じではない事が分かった。
何故なら、筆箱は別で机の上に置かれていた。
そんな彼女は一生懸命勉強している様子で、特に怪しい素振りはない。だが、消えたポーチが気になって仕方なかった。
長四郎はすぐ様、燐にこう打電した。
“至急、女子トイレに向かわれたし。黒いポーチを探せ”と。
燐は「ちょっと、トイレ」で授業を抜け出し、トイレへと向かった。
「黒い色のポーチか・・・・・・」
燐はトイレを捜索し始める。が、そう簡単に見つからない。というより、目立つものだから見つかるはずなのだ。トイレにあれば。
「どこだぁ~」そう天井を見上げると、天板が一枚ずれていた。
「お?」燐はずれている天板のある個室に入り、便器をよじ登り、天井の中を覗く。
「あった!!」
燐は天井裏からポーチを取り出す。
「さぁ~て、中身は・・・・・・」
そこにびっしりとトォォルンが入った小袋が詰まっていた。
燐は長四郎にこの事を報告する。
そして、長四郎は女子生徒の元へと移動し「お勉強中、すいませぇ~ん」と声を掛ける。
「何でしょうか?」
「勉強で分からないことがあって、教えて欲しいんです」
「は、はぁ」
「トォォルンっていう薬についてなんですけど」
「いや、ちょっと分からないです」
女子生徒は大慌てで片付けて自習室を出て行こうとする。
「ラモちゃんに任せるか・・・・・・」
長四郎は深追いせず、燐に任せることにした。
女子生徒が出て行ってすぐに、女子生徒の悲鳴が聞こえてきた。