引導-8
庭へと出た長四郎と燐。
出てすぐに長四郎は微かな異臭を感じ取った。だが,燐はそんなこと気にしていないといった感じで「素敵な日本庭園ですね。憧れるわ〜」と感心する始末。
「ね、素敵だと思わない?」と燐にそう聞かれた長四郎は「お、おお」と気のない返事をして、異臭がする場所を探すために庭を散策する。
「ちょ、どこいくのよ!」燐もその後を追う。
鼻をスンスンさせながら、長四郎は庭を歩く。
「ねぇ、答えなさいよ!!」
「臭わない?」
「臭う? 何が」
「なら、良い。ラモちゃんは嬉しそうに庭を褒め称えよ」
「ラジャー」取り敢えず、燐は敬礼して長四郎の指示に従う。
「にしても、手入れが行き届いているわ」
この切り替えの速さに長四郎は感服しながら、長四郎は臭いの場所を探す。
「どこだ?」
庭の隅で咲いているバラ園で臭いが強くなるのが分かった。
そして、土は掘り返されたような痕跡があった。
「ここか・・・・・・」
「長四郎ぉ~」燐が呼ぶので、燐が居る方に駆けって行く。
「どうした?」
「北条さん、これから用があるんだって」
「そうか」長四郎はここで粘っても意味がないと思い、「今日はどうもありがとうございました」そう礼を言って帰る。
「先生。良かったのですか? 敵対するものを招き入れて」ドゥナッテモイイヤはそう質問すると北条は「良いんですよ。私に歯向かってきた奴の顔は見ておかないと気が済まない性分でしてね」と言う顔は醜悪に満ちた顔であった。
「ねぇ、変な臭いの正体、掴めたの?」
帰る道中、燐は長四郎が言っていた臭いの正体について質問する。
「ああ、最悪な結果だ・・・・・・」
「最悪な結果?」
「ま、杞憂に終わればそれで良いんだけどな。それより、あの爺さんなんで俺達を招き入れたのか。そっちが気になってしょうがない」
「何だろう? 私が可愛いから?」
「違うな・・・・・・」
「即答すな」長四郎の後頭部を思い切り叩く燐。
「そうやって、すぐに暴力ふるのは良くないよ。マジで」
「あんたが、変な事を言うからでしょ?」
「いつ、俺が変な事を言ったよぉ~」
「いつも言ってる」
「え~」
そんな他愛もない会話をしている二人の前に背広の男が姿を現した。
「私立探偵の熱海長四郎とその助手の羅猛燐だな」
「そうですけど、貴方は?」燐の問いかけに背広の男は気だるそうにジャケットの懐から手帳を取り出し二人に提示する。
「警察?」
「ラモちゃん、警察はあっているけど。この人は公安だ」
長四郎の言葉にコクっと頷いて認める背広の男。
「公安? 公安の人がなんでまた?」
「ここで、話すのはなんだ。付いて来てくれ」
背広の男いや、これからは公安の男と呼ぼう。
公安の男は、二人を近くの古民家カフェへと案内した。
「結構、近くだけど大丈夫なのか?」長四郎の問いに「灯台下暗し」とだけ答える公安の男。
「で、その公安さんが俺達に何の用?」
「これ以上、北条恒を追うな」
「これまた、藪から棒に案件だな」
「これは君たちの為でもあるんだ」
「そう言えば、私達が引き下がるとでも? ねぇ?」
引き下がる訳ないじゃないと言いたげな燐は長四郎に賛同を求める。
「事と次第によっては考えなくでもない」
「では、話そう。奴は今、大いなる陰謀を企んでいる。それを阻止する邪魔をしないでほしい」
「成程。俺たちはうるさいハエみたいなもんか」
「そういうことだ」
「分かったよ。では、今回の件から手を引こう」
「ちょっと!?」
怒る燐を他所に長四郎は席を立ちそそくさとその場から去っていった。