引導-7
「あ、ダメ」
長四郎は門前払いを喰らっていた。今、葛城唯奈の行方を探るために近所の聞き込みを行っていた。
だが、この前と違って門前払いを受ける始末。
「こっちもダメ」燐は長四郎にそう言う。
燐も門前払いを受けたのだ。
「どうなっとんの?」
「それは、こっちの台詞。あんた、ホントに聞き込みしてたの?」そう言う燐にコクリと頷いて答える長四郎。
「怪しいものね・・・・・・」燐はそう言いながら、視線を移すと北条恒邸に車が入っていくのを目撃する。
「あ、車が入っていた」と言い、燐は北条恒邸に近づいていく。
「ちょっ、ラモちゃん!!」
長四郎は大慌てで燐の後を追いかける。
燐は北条恒邸の前に立つと「すいませぇ~ん」と声を掛ける。
「ちょ、ちょっ何をしているの?」
「え? こうなったら、直接本人に話を聞いた方が良いかなと思って」
真っ直ぐな目をした燐が言う。
「いやぁ~ 答えてくれるとは・・・・・・」長四郎がそう言っていると「どうされました?」と北条恒邸の使用人・ドゥナッテモイイヤが二人に声を掛けてきた。
「こちらで家政婦としていたか、葛城・・・・・・ 何だってけ?」
「葛城唯奈さん、いらっしゃいますか?」代わりに長四郎が質問した。
「彼女は辞めました」
「辞めた? それは、いつ頃の事でしょうか?」
「あの失礼ですが」
「あ、申し遅れました。私、こういう者です」長四郎は正規の名刺をドゥナッテモイイヤに手渡す。
「私立探偵さんですか? なぜ、また彼女を」
「いえね、彼女の親族から行方知れずなので捜索して欲しい。そう依頼があったものですから」
「分かりました。ま、中へどうぞ」
ドゥナッテモイイヤは二人を中に招き入れ、二人はそれに従って邸内へと入っていく。
「ここでお待ちください」
二人が通された広い応接室のソファーに並んで腰掛け待っていると、「失礼します」とドゥナッテモイイヤの声と共に戸が開き、北条恒ご本人が登場した。
「どうも、初めまして。この屋敷の主人の北条です」
見かけによらず、腰の低い挨拶をするので二人は口をあんぐりと開けて驚くのだった。
「どうされました?」
「あ、申し遅れました。五反田で探偵業を営んでいる熱海長四郎と申します。こちらは助手の」
「羅猛です」と燐が自己紹介する。
「それで、使用人の誰でしたか?」と北条は本題に入る。
「葛城唯奈さんです。ご存知ですよね?」
「ええ、存知ております。彼女は先月には退職したいというので、希望通り退職しましたよ」と答える北条。
「そうですか。転職先とか何か言ってませんでしたか?」
「いえ、そう言ったことは聞いておりません」
このまま続けても白を切り続けられるだけだなと思う長四郎を他所に燐が「にしても、素敵なお庭ですね」と言う。
「分かるんですか?」と北条は嬉しそうに質問する。
「あ、はい。庭師の人が優秀なんでしょうねぇ~」燐がそう言うと「日本一の庭師に頼んでいますから」と答える北条は「どうです? 実際に庭を散策されてみてわ」と提案までする始末。
長四郎はこの行動の真意が読めず戸惑うのだが、燐はというと「是非」と返事をする始末。
「では、どうぞ」
促されるまま長四郎と燐は庭へと出た。