引導-1
「妹を助けてください!!!」
平和な日常を壊す。そんな依頼が舞い込んできた。
「落ち着いてください」と宥める私立探偵の熱海 長四郎だったが、依頼人の女性は血相を欠いた表情を崩さなかった。
「ま、取り敢えず、座ってください」
長四郎は依頼人の女性を来客用のソファーに座らせて、珈琲を出す準備をしながら質問する。
「妹さんが行方不明何ですか?」
「そうです。早く助けてください」
「助ける前に色々と話を聞かないと。ね?」
長四郎はそう言って、珈琲を出す。
「頂きます」と言って口を付ける女性は口を付けた後に「すいません。取り乱してしまって・・・・・・」落ち着きを取り戻したらしく長四郎に謝罪する。
「いえ、気にしないでください。では、お名前をお伺いしてもよろしいでしょうか?」
「はい。私は、葛城 幸香と申します。行方不明になっているのは唯奈です」
「唯奈さん」長四郎はタブレット端末にメモしていく。
「それで、唯奈さんはいつから行方不明何ですか?」
「三日前からです。三日前に唯奈と食事をする予定で」
「姿を現さなかった。し、連絡もつかないって事ですね」
幸香はコクリと頷いて答える。
「唯奈さんの勤務先は?」
「知らないの一点張りで・・・・・・」涙ぐむ幸香に長四郎はティッシュを差し出す。
「ありがとうございます」
「それで、唯奈さんの勤務先は?」
「世田谷区の北条 恒さんのお宅です」
北条 恒。第32話に登場した日本を裏で牛耳る大物フィクサーである。
「ということは、家政婦さんって事ですかね?」
「はい。住み込みで働いてます」
「住み込みですか。今時、珍しいですね」
「最初の頃は通いだったんですけど、家主に気に入られたとかで無償で家に住まわせてもらっていたとか」
「気に入られてですか・・・・・・」長四郎はタッチペンをこめかみにぐりぐりと当て考えこむ。
「あの、どうかしたんですか?」
「いえ、何でも。勤務先の北条さんから直接お聞きなったんですか?」
「あの家の書生さんからです」
「そうですか。書生さんですか」長四郎はまたメモを取る。
「それでなんですけど」
「探しますよ。相手が厄介ですが」と余計な一言を添えて長四郎は依頼を引き受けた。
長四郎が依頼を受けている頃、助手の羅猛 燐はというと・・・・・・
「え? 麻薬!?」
素っ頓狂な声を出す燐。
「そう。ここ最近、また出回っているらしいの」と友人の海部 リリが教える。
「あんた、まさか」
「私はしないよ。いや、塾でね。他の学校の子がばら撒いているの見ちゃったんだよねぇ~」
「警察には?」
「言ってない。けど、言った方が良かったかなぁ~」
「絶対に、言った方が良いね」
「そうだよね」
「そうそう。で、やっぱり、トォォルンなのかな?」
トォォルンとは、北条恒がばら撒いていた麻薬である。安価でばら撒きその効き目から多くの若者を廃人にさせた恐ろしい麻薬なのだ。
「多分・・・・・・」
「なんで? 私たちが潰したのに・・・・・・」
「泉ちゃんに報告するわ」
「そうしな」と言い、燐は早退し長四郎の事務所へと向かった。