苗字-5
燐は開店前の居酒屋・美智子を訪れた。
「すいません。開店前なのですが」
店に入ってすぐに店員が燐に声を掛けた。
「分かってます。私、探偵の助手をやっている者なんですが」
「はぁ」
「この男性、一昨日の晩、こちらに来店してましたか?」
燐はそう言って、周同の写真を見せる。
「さぁ? 店長に聞いてみますね。店長!!」
「はいはい」奥から店長なる女将が出てきた。
「どうしたの?」そう問う女将に店員が耳打ちして用件を伝えた。
「どの男性ですか?」
「この男性です」燐は写真を見せるが、首を傾げられる。
「来てませんよね?」
「来てたかとも思いますが、断言できません」と答える女将。
「かもですか」
「すいません」
「いえ、大変参考になりました。ありがとうございました」
燐は礼を述べて、退店した。
「ったく、まともな目撃証言もとれねぇのかよっ!」
店を出てすぐに悪態をつく燐。
「そういうのは、良くないと思うぞぉ~」
真横から長四郎の顔がぬっと出てきて、そう告げた。
「きゃっ!!」燐は持っていたハンドバックで長四郎の顔を殴る。
「ぐげぇぇぇぇ」
長四郎は綺麗に吹っ飛んでいく。
「全く、酷い奴だな」
痛む頬を擦りながら、長四郎は燐を睨む。
「いきなり、出てくる方が悪いんでしょ」
「いきなり出てくるとは失礼な・・・・・・」
「で、成果は?」
「ラモちゃんのあの言い分だとなかったって事だなぁ~」
長四郎は燐の質問に答えず、自分の事を言う始末。
「あのさ、私の話、聞いている?」
「聞いていない。聞いてない」
「聞きなさいよ!」燐が再びハンドバックで長四郎を殴りつけようとするが、長四郎はそれを華麗に交わす。
「避けたっ!!」
「ふふっふふっ、未熟者め」
「くぅ~ なんか、ムカつくぅ~」
「俺もムカついている。ホントだったら事件解決しているんだけどなぁ~」
長四郎は眉を寄せて、頭をボリボリと掻く。
「マジでそれ、言ってるの?」
「言ってる。言ってる」
「根拠は?」
「それは、ダイイングメッセージを解き明かせたら分かるよ」
「教えなさいよ」
「嫌だ。簡単だよ。漢字が大ヒントだね」
「漢字?」
「そう、漢字」
長四郎はそれだけ言うと、一人ぶつくさ文句を言いながら去って行こうとする。
長四郎の首根っこを掴み、燐はそれを阻止する。
「ちょっと、付き合いなさいよ」
燐に引っ張られながら、長四郎は連行されるのであった。
その頃、警視庁本部では・・・・・・
「一川さん、大変ですっ」
そう部下の絢巡査長が大慌てな様子で部屋へと入ってきた。
「どげんしたと?」
「所轄が重要参考人を連行してきましたっ」
「あらま。ダイイングメッセージの謎が解けたと?」
その問いかけに絢巡査長は首を横に振って答える。
「近所でも、有名な不審者とのことで、阿武さんの自宅周辺もうろついていたっていうだけで連行したみたいです」
「長さんに、報告せにゃ」
「そうしてください」
一川警部は長四郎に電話をかける。
「もしもし? 長さん、実はね、重要参考人が連行されたと。うんうん」と答えながら、スピーカーモードに切り替える。
「ダイイングメッセージは解けたんですか?」
「解けとらんばい」
絢巡査長が自分も話したいというジェスチャーをするので、スマホを手渡す一川警部。
「絢です。近所をうろついていた不審者を重要参考人として引っ張ってきたんです」
「近所をうろついていただけでか。それは可哀想な話だな」
「それはさておき、このままだと送検まで持っていかれるかもです」
「期限は?」
「三日程でしょうか」
「OK. 三日以内に片づけるわ。じゃ」
そう言って、通話は終了した。
「大丈夫何でしょうか?」
「長さんを信用しよ」一川警部は期待しているといった顔をするのだった。