苗字-1
“チョウ トウ コウ シ × 言”
これが血で床に書かれていた。
「どういう意味何でしょう?」
これを見た警視庁捜査一課命捜班の絢巡査長は言った。
「あたしに言われても分からんばい」上司の一川警部はそう答える。
世田谷区の閑静な住宅地のある一軒家で事件は発生した。
被害者は阿武 亜実 40歳。大手商社に勤務するOLである。
死体発見者は、富澤 富有子。私立探偵の熱海 長四郎の助手である羅猛 燐と同じマンションに住むご近所さんである。
「失礼ですが、このダイイングメッセージに心当たりは?」
聴取を受けている富澤婦人に写真を見せながら、絢巡査長は質問した。
「ありません。さっぱり、分からないわ」富澤婦人は自身の感想を交えて答えた。
「そうですか。ありがとうございました」
「どうやった?」一川警部は成果を聞く。
「ダメです、分からないそうです」
「困ったね。やっぱ、長さんのお知恵をお借りせにゃならんかもいけんね」
「そうですね」
絢巡査長はそう答えながら、長四郎が快く協力してくれるにはどう説得すれば良いのか思案するのだった。
「ダイイングメッセージ?」
長四郎は眉をひそめながら、話を持ってきた燐に質問する。
「そう、富有子さんからの依頼なんだけど」
「富有子って、確かぁ~ あの横柄なおばちゃんだったと記憶しているが合ってる?」
「合ってないし、失礼ね。あんた」
「失礼って。本当のことじゃん」
「本当じゃないし。それより、ダイイングメッセージなんだけどね」
燐は話を先に進めようとするのを長四郎は手で制す。
「待ってくれ。何で、俺がダイイングメッセージを解く話になってるの?」
「だって、解くから」
「解くから。じゃなくて、まさかとは思うが依頼を受けたのか?」
「ご名答。依頼を受けましたぁ~ 良いじゃない、報酬が入るんだから」
「そう言うもんじゃなくて・・・・・・ 浮気調査とか入っていたらどうするの?」
「入ってないでしょ」
「ま、そうだけど」
「グズグズ言ってないで捜査するよ!!」
長四郎に発破をかけて、二人は捜査を開始した。
最初に向かったのは警視庁本部である。
「いやぁ~ 長さんが事件を解決してくれるって聞いて、安心したばい」
一川警部は長四郎と燐を出迎えながら、嬉しそうに言った。
「安心されても困るんですよ・・・・・・」長四郎は嫌々そうに言う。
「どうしたの? 今日はいつも以上に不機嫌やない?」
「依頼人が気に食わない人なんで、拗ねてるだけなんですよ」
「依頼人って。あの第一発見者のおばさん?」その問いに燐はコクリと頷いて答える。
「そこ、無駄口叩かないで事件の話をしましょうや」
長四郎の提案に二人は「はぁ~い」と返事をしてから本題に入る。
「被害者は、阿武 亜実さん。大手商社に勤務するOLばい」
「死因は何ですか?」
「死因は腹部を刺されたことによる失血死。亡くなるまでに相当時間がかかったようでその間にダイイングメッセージを書いたんじゃないかって言うのが検視官の見立てばい」
「それで、犯人の見当は付いているんですか?」
長四郎のその問いに、首を横に振って答える一川警部。
「捜査本部ではどのような方針で?」
「取り敢えず、勤務先から攻めようとしとるよ」
「勤務先ですか・・・・・・」長四郎は意味ありげな感じで顎をトントンと叩いて考え始める。
「はい、私からも質問良いですか?」と燐が挙手して質問を求める。
「はい、どうぞ」
「被害者の家族は?」
「被害者の阿武さんは一人暮らしやったみたいで、家族は地方に住んどるみたいやね」と答えた。
「一人暮らしで一軒家ですか? 珍しいですね」
「今時、珍しいことじゃない。金を持っている人は早くに家を買う人もいるからな。決めつけは良くないよ」長四郎にそう言われた燐は「なんか、すいません」と謝罪する。
「これから、どうすると?」という一川警部の問いかけに長四郎は「事件現場に連れてってください」とお願いをするのだった。