賄賂-16
大会議室には燐の他に、稲垣暁美、廣川景子、小黒美樹の三人が居た。
「どうも、お待たせしました」長四郎はそう言うと「早くしてください。こちらも仕事が
あるものですから」そう答える暁美。
「では、単刀直入に。稲垣暁美さん、あなた、PTAの会費を横領してますよね?」
燐が長四郎の台詞を奪って暁美に問うた。
「いきなり、何を言うんですか・・・・・・ そんな訳あるわけないでしょ」
「じゃあ、これは何ですか?」
長四郎のカバンから例の黒革の手帳を取り出し、燐は暁美に問いかけた。
「し、知らないわよ。そんなのっ!」
「それは何ですか?」小黒美樹が質問した。
「小黒さんは知らないようなので、説明しますと、稲垣暁美さんとこの場に居ない河合香織
さんが行った不正経理の証拠が書き記されたものです」と長四郎が答える。
「そうなんですか!?」美樹は驚き、事実なのかといった視線を暁美に向ける。
「濡れ衣よ!!」
「本当にそうでしょうか。でしたら、指紋検査しましょうか?」
燐の提案に言い返せないと思った暁美は「そうです。私が横領しました・・・・・・」と
自供した。
「ふぅ~ 認めたか・・・・・・ じゃ、こっちの話を」と長四郎が切り出した。
「実は、これに起因しての殺人事件がありまして。ご存知でしょう。門口早苗さんの事件で
す」
「私は殺してないわよ!!」
「存じてます。どうですか? 廣川景子さん」
ここまで、口を噤んでいた景子に話を振ると「私は何も・・・・・・」と目を逸らして答
える。
「稲垣さん。これ、一時期行方不明でしたよね?」
「ええ、彼女が取り返したと河合さんから聞きました」と景子を指さしながら、答えた。
「そんな!!」私、じゃないと言いたげな顔をする景子に「そんな言い方しないで上げて
ください。全部はあなたのために起きた事件なんですから」と暁美に言う。
「私のために?」
「そうよ。娘はこれのコピーを処分するために門口早苗さんを襲ったんだから」
「そんなまさか」
「そんなまさかなんですよ。稲垣さん。その後に廣川さんが訪れて彼女を殺害し、これを取
り返した。ですよね?」
景子に質問すると、景子はコクリと頷いて答えた。
「私が行った時、早苗さんは倒れてました。そして、暁美さんのお子さんに襲われたと。原
因は、その手帳にあると彼女は話してました。それで、これを取り返したら、彼女に貢献
できるそう思って。刑事さん、どうして私が犯人だと?」
「タバコです。タバコの匂いがあなたからしたのがきっかけです。それと、俺は刑事じゃな
くて探偵です」
「なんで、探偵が!?」驚く暁美を他所に「そうですか」と項垂れながら答える景子を見て
憐れみを感じるのだった。
斯くして、事件を解決した燐は理事長の梅宮に事の顛末を報告した。
「成程ね。変な愛が産んだ事件だったわけね」
「これで、宜しかったでしょうか? 理事長」
「うん、OKよ」そう言うと燐は踵を返して部屋を出ようとする。
「あ、待って」と呼び止められる燐は「はい」と返事をしながら、梅宮の方を見る。
「熱海長四郎に宜しくと梅ちゃんが言っていた。そう言っといて」
「はぁ、分かりました」
燐は了承して、理事長室を後にした。
その日の天気は晴れで、嫌な事件を忘れさせる心地よい風が吹くのだった。
完