賄賂-10
「稲垣暁美が足繫く学校に通っていた理由って何?」燐は一番の疑問を長四郎に問うた。
「何だろうな」と適当な返しをする長四郎は口を窄める。
「探偵さん、稲垣暁美さんは気づいていたんじゃないですかね? 横領について探っている
人間が居た事を・・・・・・」明野巡査が推理して見せる。
「泉ちゃん、勘が鋭いねぇ~」長四郎は明野巡査を褒める。
「ありがとうございます」
「なぁ、だとしたら、その稲垣なんとかさんが犯人有力説じゃない?」と遊原巡査がこれま
た勘の良い事を言う。
「遊原君も良いこと言うねぇ~」
「あんた、さっきから人を褒めてばっかじゃん」
「褒めることは、悪い事じゃないでしょ?」
長四郎は悪びれる様子もなく窓から見える高校生達の姿を見て、懐かしく思うのだった。
四人は学校を後にして、外で昼食を取ることにした。
「ねぇ、あんたが考えている犯人ってどんな人物」
燐はそう質問しながら、サクサクのコロッケを頬張る。
「裏帳簿に関わる人間だろうな」長四郎はそう答えながら、メンチカツを口に入れる。
「ねぇ、ご飯の時ぐらい事件の話は辞めない? せっかくの美味しい料理が台無しになっちゃうよ」明野巡査がそう言うと「そう? ご飯食べている時の方が冴える気がするんだよね。ね、長四郎」燐は長四郎に賛同を求める。
「泉ちゃんの言う通りだわ」とピシャッと燐を切り捨てる長四郎にうんうんと頷く遊原巡査。
「なんか、私、一人だけ悪者?」
「悪者だろ? ラモちゃんは」
「それ、どういう意味よ」
「言葉の通り。エビフライ頂き!」
長四郎は燐の食べるはずだったエビフライを口に入れるのだった。
「あ、泥棒!! 泉ちゃん、逮捕して!!」
「ラモちゃん、奪われたら奪い返したら?」
「泉、刑事の言う事じゃないだろ?」
「そぉ? 食べ物の恨みは怖いから」
「その隙に、頂き!!」燐は遊原巡査の皿に載っていたとんかつの一切れを奪う。
「あ、てめぇ!!」
「祐希、人の事言えないよ・・・・・・」
明野巡査はやれやれと言った顔で、長四郎の皿から唐揚げを一個、取り上げるのだった。
昼食を食べ終えた四人は、事件現場へのマンションへと向かった。
「ここがどうしたんですか?」明野巡査が長四郎に質問する。
「どうしたって。現場百回。気になることを思いついてね」
長四郎はそう答え、現場ではなく門口早苗が主人と眠る寝室へと向かった。
「ここがなんだって、言うの?」
「ラモちゃん、大切なものを隠すときどこに隠す?」
「普通は金庫。でも、金庫がないってことは・・・・・・ 自分の机の引き出しかなぁ~」
「そう。でも、早苗さんの机らしきものはあったか?」
「無かったですね」と明野巡査が答える。
「無い。で、その中で怪しいのはこの鏡台だ」
長四郎はそう言って、鏡台の引き出しを開ける。
「ビンゴぉ~」
その中には、黒革の手帳が入っていた。