賄賂-9
「あんなんで切り上げて良かったの?」
燐は憤慨しながら長四郎に尋ねる。
「これ以上、突っ込めないだろ。大した証拠もないのに、あんたが横領しているんだ!! なんて」
「それはそうだけど・・・・・・」
「ラモちゃん、裏帳簿はどうするの?」
「裏帳簿ね。それもあるんだよぉ〜 どうしたらいいと思う?」
聞いてきた明野巡査に逆質問で答える燐。
「ど、どうしたらいいんだろ? 祐希」と同僚の遊原巡査に助けを求める。
「俺に聞くなよ。探偵さんはどう思いますか?」
「結局、俺にお鉢が回ってくるのな。やれやれ」
「やれやれじゃない。答えなさいよ」
「はぁ〜」とため息をついてから長四郎は語り始めた。
「被害者が殺された原因に横領事件があるとすれば、それを追っていくしかないだろうな」
「どうやって、追うんですか?」
「泉ちゃん、そう言うことは自分の頭で考えなさい」と答える長四郎は、階段をおり来客用玄関へと向かう。
「ここがなんだって言うの?」燐が説明を求めると長四郎は来客用玄関にある来客名簿を
手に取り、パラパラとめくる。
「ねぇ、これが何だっていうの?」
「これは学校を出入りした人間が書くものだろ? 保護者もだ」
一週間前までしか記録されていないが、そこには門口早苗の名前も記載されていた。
「あったな。で、次に噂の人物だ・・・・・・・」
稲垣暁美の名前を探すがなかった。
「あれ? ないな」
「ないじゃダメじゃない」
「そ、そうなるね」
「過去の見せてもらいましょうよ」
「泉ちゃん、事件に関係しているかも分からないものを見せてくれるかな?」
「それなら、大丈夫。私には理事長権限があるから」と燐はニカッと笑う。
燐の言う理事長権限を駆使して、過去の来客名簿を見せてもらうこととなった。
「これが、過去一年分の来客名簿です」
事務員は一年分の記録をまとめたファイルを置いて、仕事に戻っていった。
四人は顔を突き合わせて、名簿の中身を見ようとする。
「顔を突き合わせなくても良いんじゃない?」長四郎の提案で一年を四ヶ月で区切って、
四人で中身を検めることにした。
「こっちの四ヶ月で怪しいところはなさそうですね」
明野巡査がそう告げた後に「こっちも」と遊原巡査が報告する。
「ラモちゃんは?」
直近、四ヶ月分を見ている燐は「うん、被害者が足しげく通い始めたのは四ヶ月前みたい」
と答えた。
「どのくらいの頻度?」
「週一」
「週一か・・・・・・ よくそれで分かったな。横領してるって」
「そうだよね。私も見てて思った」
燐の感想を聞きながら、長四郎は直近、一ヶ月の名簿を手に取って見始める。
「ふ〜ん。稲垣さんもここ一ヶ月、足しげく通ってるね」
「なんで、私の仕事奪うかなぁ〜」
「え? ああ、悪い」と心の籠もっていない謝罪をする長四郎。
「悪いと思ってないなら、最初から謝らないで欲しいわっ」
こんな会話をしている二人を見て微笑ましく思う明野巡査であった。